第2話「でっかい、ぷるぷる」
俺、小鳥遊ショウタが愛してやまないオンラインゲームLABOの、待ちに待った10周年記念大型アップデート当日。
その日突如として運営から届いた最新型デバイスに浮足立っていた俺は、うっかりと階段から足を滑らせ転落。
そして次に目を覚ますとそこは、俺が知っているようで知らない、何かがおかしな
「……ふう。結構長かったな。まさか5連続のクエストだとは。」
ここが夢の中なのかそれとも本当に異世界転生って奴なのか、俺にはまだわからない。
しかしただの夢で済ませるにしては、まとも過ぎるというのが今のところの感想だ。
本当にこれが俺の見ている夢の中なら、もっとめちゃくちゃで超展開の連続のような
にも関わらずこの世界の基本はあくまでLABOでありながら、そこに多少の俺の知らない仕様が紛れている、そんな感じの場所だ。
なのでとりあえず俺は、街の入口で声をかけてきた見知らぬNPC『初心者案内オージ』のクエストを受けて進める事にした。
それにもしこれが夢ならきっと、そのうち覚めるだろうと思ったからだ。
「けど、その分報酬は美味いな。積載+30の鞄に、各種スキルの初級スクロール、それから多少の
丁寧に作られたチュートリアル補助のクエストを進めれば進めるほど、やはりこんなクエストに覚えは無いとはっきりとわかった。
だけど報酬が美味いのは事実で、俺が初心者の頃にこれがあったならどれ程助かった事か。
いや、実質今の俺は
とはいえ、例え初心者として新たに始める事となったとしても、俺の取りたいスキル構成は既に決まっている。
「やっぱメインは召喚魔法っしょ!」
報酬で貰ったスキルスクロールがぎっしりと詰まったインベントリの中から、俺は召喚魔法スキルのスクロールを手に取り、使用する。
俺が本来のLABOでメインキャラクターとして運用していたキャラのスキル構成は、
その中でも、『闇の使徒』というスキルとの強いシナジーを発揮する、
大体の事は何でも出来るが故に、何かに特化した構成には及ばない、そんな塩梅の構成だった。
「あとは魔術、回復、補助、闇の使徒っと……とりあえずはこれでいいか。」
残りのスクロールの中から必要な物だけを選び、さっきと同じように使用していく。
完全スキル制MMOであるLABOでは、その系統のスキルを繰り返し使用し、鍛えなければ強くはなれない仕様になっている。
言ってしまえば、課金などをしていきなり強い
だからまずはこの初級スキルから始めて徐々にスキルを上げつつ、上がったらまた新たなスキルを習得して、というのを繰り返していく形になる。
「残りは売却して……あれ用の資金にするか。」
必要なスキルを習得し終えた俺は、残りの余ったスクロールを適当なNPC商店で売却し、
現実でもそうだが、お金が大事なのはLABOの世界でも変わらない。
特に俺のような魔法職と切っても切り離せない存在である触媒を購入するためにも、ある程度の蓄えは必要だろう。
それに俺には、この先の目的地で大金が必要になる予定があるからだ。
「とはいえ流石に次の街までには無理だよなぁ……。」
十分な魔法触媒を購入した後、余ったお金をしっかりと銀行へと預けた俺は、マジリハの出口へと足を運ぶ。
通常であれば初心者はしばらくの間、このマジリハを拠点としてマジリハ近郊のフィールドなどでスキルを育てつつ、本格的な冒険のための準備をするの、だが。
この先に何があるのかを既に知っている偽りの初心者である俺は、そんな事はしない。
何故ならこの辺りの雑魚モンスター相手にちまちまやっているより、多少の危険を冒してでも先に進んで狩りをしたほうが圧倒的に美味いからだ。
「とりあえずマップを……って、マジかよ……。」
まずは次なる目的地、2番目の街『ノギッソ』を目指すためクイックメニューからマップを開く。
だがそこに記されていたのは、チュートリアルエリアである始まりの教会とここマジリハの地図だけで、大部分は空白の状態になっていたのだ。
本来のLABOも自分で足を運んだ場所以外は、最初はこのように空白になっている。
だがとっくに地図を埋め切って、全てが見えている状態が当たり前だった俺からしてみれば、なかなかに衝撃的な光景だった。
「はぁ……まあ、方角とかは一緒だろう……多分。」
役に立たない地図を閉じると俺は小さく溜息を零し、街の外へと一歩踏み出す。
道中の敵は無視して速攻でノギッソを目指し、そこで装備を整えたら軽く狩りして資金を稼ぐ。
装備の代金とは別に、まずはなんとしてでも100k(=100,000メタ)稼がなければならない。
完成済みのメインキャラなら、そんな金額1時間もあればあっという間に稼げるのになぁ、なんて事を考えながら俺は先を急ぐのであった。
◇
あれからしばらく、道中のモンスターとの戦闘を避け続けた俺は、もうまもなく2番目の街ノギッソに到着する頃合いだ。
幸いにもこのあたりのモンスターはまだ比較的温厚で、こちらから攻撃を仕掛けなければ率先して襲ってくることも殆ど無い。
だからこその初心者向けエリアなのだが、その分ドロップは期待できない。
やはり効率的に稼ぐなら、最低でもノギッソ以降のフィールドで稼ぐのが良いと思うのだが──と、この先のプランを練っていたその時。
「……ん?」
もうすぐノギッソの入口だというタイミングで、俺は前方に何か人影のような物を発見する。
街を守る
だとすればあれはもしかして──。
「まさかプレイヤーか……!?おーい!」
突如として現れたプレイヤーらしき人影に、普段のLABOでは殆ど
良かった、俺の他にも
話を聞けばこの不思議な世界について何か教えてもらえるかもしれない。
「(……うん?待てよ?だったら何で尚更マジリハの街には誰も居なかったんだ?)」
衝動的に駆け出したものの、頭の中にふと浮かんだ疑問の答えを出せなくて、俺は失速するように立ち止まる。
しかし俺が呼び掛けたその人は、そんな俺に応えるように走ってこちらへと笑顔で向かってきていた。
「ようお前!その格好……ここに来たばっかりかぁ?」
「あ、どうも──ッ!?」
黒の袖無し革装備にいかつい緑のモヒカン頭といういかにもな風貌に気を取られ、気がつくのが一瞬遅れてしまった俺は慌てて一歩下がり、杖を構える。
近づいてきたその男の頭上に表示されている名前は『
「(こいつ、
LABOには通常のステータスとは別に
そしてそのステータスが
「お?なんだいっちょ前に俺様とやろうってかぁ~?」
モヒカン男が下品な笑い声を上げながら腰から短剣を抜くと、何かのバフがかかったようなエフェクトが一瞬表示される。
男の装備と今のバフから察するに恐らくは回避型の剣士、それも
「(今のは多分、盗みスキルと敏捷スキルの複合スキル『
「ほらどうしたぁ?ビビってんのかぁ~?イヒヒヒ!」
挑発するように手を動かす男を見ながら、俺はその後ろに見えるノギッソの街の入口を確認する。
このまま正面からこのモヒカン男とやりあった所で、今はまだスキル0の俺に勝ち目はない。
だが相手は
安全地帯である街などのエリアに配置されている、
つまり俺はこのままダッシュで街へと逃げ込めば勝ち、なのだが──。
「あそこまで逃げ切れたら、助かるかもなぁ~?」
「(見え透いた挑発……敏捷スキル持ちって事は当然移動速度も底上げされてる。)」
「(俺が走って逃げ出したら、すぐに追いついて背中から刺そうって魂胆だろうが──。)」
自分の後方に位置するノギッソの街の入口を指差し、挑発を続けるモヒカン男。
敏捷スキルは攻撃の回避や移動速度に影響を与えるスキルであり、特に対人構成において強いスキルである。
当然の事ながら移動速度が早いという事は、敏捷スキルを有していない者より足が早いという事だ。
そんな者と敏捷0の俺が追いかけっこをすれば、すぐに追いつかれてしまうであろう事は想像に難くない。
正面から戦ってもダメ、逃げてもダメ。普通の初心者ならここでボコされて終わり──だが俺は違う。
「……ふう。どこの
「あ?」
俺は小さく溜息を零し、杖で地面を2回叩きながら男に対して呆れたように挑発し返す。
途端、さっきまで下品な笑みを浮かべていた男の表情が急に変わり、目には強い殺意の色が浮かび始めた。
かかった。この手の連中は、自分が絶対的に優位な状況で無ければ勝負をしない。
例えば今回で言えば俺のような見るからに初心者丸出しの、格下相手にしかイキれないのだ。
「だいたい今どきPKって……散々ペナルティ強化されて、わざわざやるメリットなんかもう無いのに。」
「……あ、もしかしてお前って、自分のこと
「うわぁ……流石に恥ずかしすぎでしょ。だいたい何その頭?刈り残しの雑草かよ。」
できるだけ腹の立つような声と表情で、俺は徹底的にモヒカン男を煽り倒す。
実際そうなのだ、LABOにおけるPK行為へのペナルティ、デメリットは年々厳しくなっていて、PKする事で相手の所持品を奪えた大昔ならともかくとして、今では1メタだって奪えないのだからわざわざリスクを冒してまでこんな事をする理由は何一つ無い。
それでもなおPK行為を続けているような奴は、このモヒカン男のような
「ッ調子に乗りやがって……!ちょっと遊んでやろうと思ったが……そんなに死にたきゃ今すぐ殺してやるよォ!」
煽りが余程刺さったのか、モヒカン男は完全にキマった目で俺の方を睨みつけ、素早い踏み込みで一気に距離を詰めてくる。
だが、もうお喋りでの時間稼ぎは十分だ。
「──
「あ?!」
腹部を狙ったモヒカン男の短剣の一撃が当たる寸前、俺は後ろへと跳ぶと同時に叫ぶ。
その瞬間、踏み込んだ男の足元に出現した水溜り──もとい、召喚されたスライムが男の足を呑み込み捕らえた。
名前通りにスライムを召喚し、ペットとして戦わせるだけの物、なのだが。
正直言って最初のスキルだけあって召喚スライムのステータスはあまりに心許ない。
マジリハ近郊のモンスター相手だとしても、1対1ならギリギリ勝てるかどうかというような強さだ。
だがその最大の持ち味はステータスではなく、そのぷるぷるボディから繰り出される
それこそが、接触した相手の移動速度を著しく低下させ足止めするスライム族の固有技、『スライムボンド』だ。
「バーカ!あばよモヒカン野郎!」
「待てこらッ!クソガキィィッ!!」
どれ程移動速度を上げていようがこのスライムの沼にハマってしまえば最後、効果終了まで走って抜け出すことは叶わない。
俺はモヒカン男へとご機嫌なフィンガーサインをおっ立ててから、ノギッソの街の方へと全力で駆ける。
『スライムボンド』の効果時間は約10秒。
街に逃げ込む前には切れてしまうだろうが、その間にできるだけ距離を稼げば問題ない。
背後から響くモヒカン男の罵詈雑言をBGMに、俺は余裕の逃げ切りウィニングランを決める──はずだった。
「──っぎゃあ!?何だコイツ?!」
「ッ!?」
街の入口がもう目前まで迫った頃、突如として後ろからモヒカン男の悲鳴が響き、驚いた俺は思わず振り返る。
見ればそこには、俺がさっき召喚したと思わしきスライムに両脚どころか両手まで拘束されている哀れな男の姿。
おかしい、本来なら
それに何であいつ倒れてるんだ?スライムに体制崩し技なんてあるわけ無いんだが。
一体あのモヒカン男は何を──と、困惑しながら応戦しているスライムの方へと目を向けた所、俺は何か猛烈な違和感を覚えた。
「……なんか、デカくね?」
さっきは召喚してすぐに逃げたので気にしていなかったが、やけにスライムの沼が広いように感じる。
スライムなんて随分久しぶりに召喚したけど、あの沼って元からあんな大きさだっただろうか。
確かにスライムというモンスターは膨らんだり平べったくなったりと不定形な物ではあるのだが、それにしてもあれは──。
思い出せないもやもやに俺が顔をしかめていると、通常のわらび餅のような丸いスライムとは明らかに違う、人型らしきボディを持った何かがその沼から姿を現した。
「なん、だ……?」
「や、やめろ!そんなの卑怯だろォ?!」
再び身体を大きく変形させ巨大な拳を作り上げたそれは、喚くモヒカン男へとその拳をそのまま容赦なく振り下ろす。
その人型のような形態もそんな攻撃方法も、俺の知っているスライムとは随分とかけ離れている。
何より
──俺は一体、何を召喚してしまったんだ?
「ぐぁっ!?くそッ!名前覚えたからなァ!クソガキィ……ッ!!」
捨て台詞のようにそう叫んだモヒカン男が、俺が召喚したスライム(?)にHPを削りきられて
あの状態になっても誰かに蘇生してもらえれば、その場で蘇る事ができるが──もちろん俺はしない。というか今はまだ出来ない。
ともかく、ああなっては自分で
復活地点で蘇生した場合、復活時にランダムでスキルを吸われてしまうが、それは自業自得。ご愁傷さまって奴だ。
「……何だったんだ、今の?……まぁいいか。」
またこれもこの奇妙なLABOの世界特有の何かなのかと疑問を浮かべつつも、とりあえずはノギッソの街へと入る事にする。
あの
例え
「さて、まずは──ッ!?」
PKとの遭遇という予想外のトラブルに見舞われながらも、何とか2番目の街ノギッソに到着する事ができた。
なのでまずは急いでここに来た理由でもある、とある重要な施設を探そうと考えていた、その時。
突如として俺の横にぬっとワープしてきた巨大スライムわらび餅に、俺は盛大にビビらされる。
「おおっ!?びっくりした……脅かすなよ、もう……!」
ペットなどの一部NPCは本体であるプレイヤーが安全地帯に入った際に自動的に側までワープしてくる、という仕様がLABOにはある。
それで言えば今のワープ挙動は正しい動きなのだが、流石にここまで大きいとやはり驚いてしまう。
すると巨大なわらび餅形態となっていたスライムが突然動き始め、再び人型らしき形態へと変化をし始めた。
だがその姿はやはり俺の知らない存在で、しかも──。
「あ……?……女!?デ、デカい……女ッ!?」
大きく突き出した胸部や頭部から長い髪のように垂れる粘液。
明らかに女性らしさを意識したデザインである事は間違いない。
言うなればモンスター娘とでも呼ぶべき愛らしいデザインではあるが、問題はその大きさだ。
今の俺の身長を優に超える2m近い背丈は、隣に立たれると正直言って圧迫感が凄まじい。
その上、何を考えているのかわからない無機質な表情で、彼女(?)はさっきからずっと俺の顔を覗き込んで来ている。
「や、やめろ……!そんな風に上から俺を覗き込むなっ!」
ちょっとした家庭事情により、背の高い女性に対して強い苦手意識のある俺は、相手がただのペットNPCである事も忘れてたまらずたじろぐ。
なおも俺をしばらく見つめ続けたかと思えば、彼女は突然両腕を広げてこちらへとにじり寄って来る。
「っ!?まさか──!」
何か猛烈に嫌な予感がして逃げ出そうとした時には既に遅く、俺の両足はいつのまにかスライム沼に捕らえられていた。
後退ろうと動きかけていた俺はバランスを崩し、そのまま後ろへと倒れるように尻もちをつく。
そうして逃げられなくなった俺へと彼女は雪崩込むように覆いかぶさると、スライム特有のひんやりとしたぷるぷるボディで頭をすっぽりと包み込んで来る。
ただですらトラウマを刺激され精神的逼迫状態の俺が、そんなデカ女体による強襲攻撃に耐えられる筈も無く──。
「(ああ……そういえばスライムの待機モーションって、
俺は彼女のスライムボディの中でそんな事を思い出しながら、口から大きな泡を吐いて気を失った。
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