第6話

佐藤太郎は、連続した有給消化の三日目を迎えていた。


チャンネル登録者数はすでに2000人を突破し、昨日アップした異変魔石破壊の動画は20万再生を超えている。コメント欄には「神回」「次回待ってる」の声が溢れ、初めて投げ銭機能で数千円の収益が発生していた。


(これだけで生活できる日が来るかもしれない)


そんな甘い期待を抱きながら、太郎は今日も浅草低層ダンジョンへ足を運んだ。


配信スタート。


「おはようございます、たらおです。今日はレベリングメインで回しますが、できれば誰かとコラボできたらいいなと思ってます。視聴者のみんな、よろしく!」


視聴者数は開始直後で500人。すぐに1000人を超え、コメントが高速で流れる。


新しいスキル「即時回復」を昨夜取得したばかりだ。軽傷なら瞬時に癒せるため、無茶な戦闘も可能になった。


大剣を肩に担ぎ、中層のゴブリンエリアへ。


周回を始めると、すぐに十数体のゴブリンを一掃。血飛沫と断末魔の叫びが響く中、レベルが65まで上昇した。


コメントは歓声に近い。


『相変わらず無双すぎワロタ』

『大剣の振り方プロじゃん』

『コラボ希望! 俺もF級だけど一緒にどう?』


そんな中、奥の通路から悲鳴のような声が聞こえた。


「きゃっ! 助けてー!」


女性の声だ。


太郎は即座に駆け出した。カメラも一緒に固定して走る。


角を曲がると、そこには若い女性探索者が立っていた。二十代半ばくらい、ショートカットの黒髪に軽装のローブ。手に持つ杖が震えている。


周囲にはゴブリン五匹が取り囲み、彼女を追い詰めていた。


女性は必死に初級回復魔法を唱えているが、ゴブリンの棍棒が次々と彼女の体力を削っていく。すでに膝をつき、逃げ場を失っている。


太郎は迷わず飛び込んだ。


「下がって!」


大剣の一閃。弧を描く刃が三匹のゴブリンを同時に両断した。緑色の血が噴き出し、床を汚す。


残り二匹が太郎に向き直るが、即座に踏み込み、喉と言葉を封じるように斬り飛ばす。


戦闘終了。わずか数秒。


女性は呆然と太郎を見上げた。


「あ、ありがとうございます……本当に助かりました」


太郎は大剣を収め、手を差し伸べる。


「大丈夫? 怪我は?」


女性は頷き、立ち上がった。名前は「あかり」。看護師の傍ら、最近探索者を始めたばかりのF級配信者だという。チャンネル名は「あかりの癒しダンジョン日記」。登録者はまだ50人ほど。


「あかりさんも配信者なんですね。俺、たらおです。最近ちょっとバズっちゃって……」


あかりは目を丸くした。


「たらおさん!? あのボスソロした人ですか? 動画見てました! すごいなって思ってたんですけど、まさかここで会えるなんて」


視聴者数は2000人を突破。コメントが爆発的に増えている。


『コラボきたあああ』

『癒し系美女と無双おじさん最高』

『パーティー組んでくれ』


太郎は少し照れながら提案した。


「せっかくなので、一緒に少し回りませんか? 俺の火力があって、あかりさんの回復があれば効率いいと思うんですけど」


あかりは少し躊躇したが、すぐに頷いた。


「ぜひ! 私、回復専門なんで前衛がいなくて困ってたんです」


二人は並んで歩き始めた。


あかりの回復魔法は優秀で、太郎が受けた軽い傷を瞬時に癒す。逆に太郎の攻撃であかりの安全は完全に確保された。


ゴブリン群を一掃しながら、会話が弾む。


「あかりさん、なんで探索者始めたんですか?」


「看護師の仕事がシフト制で、暇な日に何かしたくて。癒し系の配信で少しでも収益化できたらいいなって」


太郎は自分の社畜生活を少し話した。底辺だった過去と、最近の急成長。


あかりは感心したように目を輝かせた。


「たらおさん、本当にすごいです。チートアプリって……私も欲しいくらい」


共同周回は順調で、レベルは70近くまで上昇。あかりも経験値共有でレベルアップを実感していた。


一時間ほどで今日のノルマを達成。


別れ際、あかりが言った。


「また一緒にやりませんか? コラボ配信、楽しかったです」


太郎は即答した。


「もちろん。連絡先交換しましょう」


アプリから通知が届く。


『パーティー機能開放。招待可能メンバー:1/5』


『初パーティー結成ボーナス:スキルポイント+3』


帰宅後、太郎はあかりのチャンネルを確認した。今日のコラボ部分が切り抜かれてアップされ、すでに数千再生。


自分のチャンネルも、コラボ動画が急上昇している。


視聴者数が一気に5000人を超えていた。


底辺だった日々が、確実に遠ざかっている。


しかし、同時に小さな不安も芽生えていた。


この力は、どこまで自分を連れていってくれるのか。


そして、アプリの「神託」は、何を求めているのか。


太郎はスマホを握りしめ、次のダンジョン行きを心に決めた。


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