第5話

佐藤太郎は、アパートの狭い部屋でパソコン画面を見つめていた。


昨日の浅草低層ダンジョン攻略動画を、簡易編集ソフトでまとめたものをアップロードしてから、わずか十二時間。


チャンネル状況を確認する手が、わずかに震えていた。


登録者数:87人

総再生回数:スケルトンナイト戦の動画だけで8000回超

高評価:312

コメント数:145


昨日まで総再生が百五十回だったチャンネルが、一夜にして様変わりしていた。


コメント欄には、驚きと疑問の声が溢れている。


『これガチ? 加工なしでボスソロとかありえねー』

『チートアプリって何だよ、詳細教えてくれ』

『次も期待してる! ライブ待ってる』


初めて「期待してる」という言葉を見た瞬間、太郎の胸に熱いものが込み上げた。


(俺の配信……誰かに見られてる)


神託アプリを起動し、現在のステータスを確認する。


【レベル50】

【スキルポイント:9(未使用)】

【所持アイテム:スケルトンの大剣(未鑑定)】


昨日拾った大剣は、錆びた短剣より明らかに品質が良い。鑑定に出せば高額で売れるだろうが、太郎は自分で使うつもりでいた。


スキルツリーを見ると、新たな枝が開放されている。


・即時回復(コスト3):軽傷を瞬時に回復

・魔力増幅(コスト2):魔法ダメージ上昇

・鑑定眼(コスト2):アイテムの詳細情報を表示

・剣術強化(コスト2):剣の攻撃力と速度上昇


太郎は「鑑定眼」と「剣術強化」を即座に取得。残りポイントは4。


スケルトンの大剣を手に取り、鑑定してみる。


【古の騎士大剣】

攻撃力+45 耐久度高 特殊効果:アンデッド特攻


「すげぇ……」


これ一つで装備が劇的に変わる。


今日は火曜日。会社には「体調不良」と連絡を入れ、連続で有給を取った。上司の舌打ちが聞こえた気がしたが、もう気にならない。


午前十時、太郎は再び浅草低層ダンジョンへ向かった。


配信をスタート。


「おはようございます、たらおです。昨日はボス倒せたんで、今日は日替クエスト消化しながらレベリングします。見ててくれる人、ありがとうございます」


視聴者数は開始直後で30人。すぐに50人、100人と増えていく。


アプリのデイリークエストを確認。


【本日のクエスト】

・モンスター30体討伐 報酬:スキルポイント+2

・アイテム10個回収 報酬:経験値ボーナス

・隠しクエスト:???


新しい装備の古の騎士大剣を構え、ダンジョン内へ。


昨日は最深部まで行ったが、今日は効率重視で中層のゴブリン・ウルフエリアを周回する。


大剣の重さに最初は戸惑ったが、「剣術強化」の効果ですぐに慣れた。一振りでゴブリンを両断し、ウルフを真っ二つにする。


血飛沫が飛び散る描写を、太郎はカメラに収めながら実況した。


「この大剣、ボスからドロップしたやつです。攻撃力ヤバいですね。一撃で倒せちゃう」


コメントが活発に流れる。


『大剣かっけえ』

『血しぶきリアルすぎワロタ』

『レベルいくつなんだよ』


視聴者数は300人を超えていた。


周回を続けていると、隠しクエストが発覚した。


【隠しクエスト発見:ダンジョンの異変調査】

内容:最深部奥に現れた異常エリアを探る

報酬:スキルポイント+5、新機能開放


太郎は迷わず最深部へ向かった。


スケルトンナイトを倒した部屋のさらに奥、昨日は気づかなかった隠し通路が開いている。壁が崩れ、小さな亀裂ができていた。


「みんな、これ……新しいエリアっぽいです。入ってみます」


視聴者数が500人に達した瞬間だった。


亀裂をくぐると、そこは薄紫色の霧に包まれた小部屋。中央に、光る魔石の塊が浮いている。


触れた瞬間、アプリが激しく振動した。


【緊急クエスト発生:異変魔石の破壊】

【警告:この魔石はダンジョン崩壊の予兆。破壊せよ】


魔石から、小型の影が無数に湧き出る。黒いスライムのようなモンスター、十数体。


太郎は大剣を構えた。


「なんかヤバそうなの来た……みんな、ちゃんと見ててくれよ」


戦闘が始まる。


黒スライムは酸が強く、大剣に触れるだけでわずかに耐久を削る。しかし、太郎のレベルとスキルで圧倒的だ。


一閃、横薙ぎ、縦斬り。


黒い液体が飛び散り、床を腐食させる。残酷な描写を避けず、カメラはしっかりと捉えていた。


全てを殲滅し、最後に魔石の塊を砕く。


【クエストクリア:スキルポイント+7 新機能「パーティー招待」開放】


レベルが60まで上昇。視聴者数は800人を超え、コメントが止まらない。


帰宅後、太郎は動画をアップロードせずにそのまま寝た。


翌朝、チャンネル状況を確認して驚愕した。


登録者数:1200人

スケルトンナイト動画:10万再生突破

新着コメント:500件以上


そして、スポンサー募集のメールが一件届いていた。


小さな、だが確実な変化が始まっていた。


社畜を辞める日が、近づいているのかもしれない。


そんな淡い期待を抱きながら、太郎はまたダンジョンへ向かう準備を始めた。


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