第10話 賑やかなバスケ部


 朝霧隼人は少し焦っていた。


 三年生が引退し、バスケ部のキャプテンを任されてたのも束の間……部員が少なく、怪我や風邪人がでたら即アウトの状態なのだ。

 何故こうなったかというと、今の三年生がバスケ部員の六割を占めていたからだ。残された四割の俺たち……まじで少ない。そしてキャプテンの俺は腕と足にギプスをしている状況。更に追い込むように、ニ人いた女子マネージャーも三年生だった。


「隼人、どーすんのバスケ部?」


 長い髪を後ろで結っているのは副キャプテンの井上達郎。


「二年生は、もう既に部活入ってるヤツばっかりだからなぁ。一年生を勧誘するしか……。達郎、お前女子から人気あるだろ?マネージャー立候補してくれる子いねぇの?」


 チャラい達郎の周りにはいつも女子がいる。だから一人くらいいるんじゃないかと思ったんだが……。


「みんな遊び友達だからね〜」


「ソーデスカ……」


 人気があるのは否定しないのか。ったく、期待した俺が馬鹿だった。


 中間試験も終わり、明日からまた部活動が始まる。今日は、まだ教室に残っている一年生を勧誘しようと思い達郎と二人校内を歩いていた。

 道中チャラい達郎は、女子達にデートを誘われている。これ何回目だよ。一緒にいる俺の身にもなってもらいたいものだ。


「……女たらし」


 ふと、反対側の校舎に目を向けると雫が歩いているのが見えた。あっちは二年生の教室。


 えっ……。なんでお前が隣にいるんだよ。

 雫の隣を歩くのは、転校生の加賀美千明。男と二人で歩く雫を初めて見た。ショックはかなりデカい……。


「あらー、雫と千明じゃん。あの二人接点あったんだな……って隼人、そんなに肩落とすなって!」


 女子との会話を終わらしたのか、達郎が俺の視線を追って軽口を叩くように言った。


「千明って、ちゃんと笑うんだな」


 達郎は面白そうに雫達を見ながら言った。


「そりゃ、普通笑うだろ?」


「女の子達言ってたよ。加賀美君は基本ポーカーフェイスだし、どちらかというと反応も薄いって」


「お前それ、俺に何が言いたいんだよ」


「千明は雫が好きなんだって事だよ。まぁ転校初日に、雫の事聞いてきたんだから、もう確定だな!」


 面白そうに話す達郎。コイツ、人の事だからってこの状況を楽しみやがって……。


「隼人、告ればいいのに」


「それが簡単に出来たら苦労しねえーよ」


 俺たちには幼馴染という足枷がある。何をしたって、いい雰囲気にはならず、安定の友達の雰囲気になるのはわかりきってる。


「ま〜た、逃げた〜」


「達郎、うるさい黙れ」


ギプスをした足で達郎を蹴ってやった。


「痛っ。隼人それ反則だって。……あ!じゃあさ、いい事思いついたんだけど」


ニヤニヤしながら達郎が俺に提案する。


「雫に新しいマネージャー見つかるまで、代理でやってもらおう?」


「アイツやらねーと思うけど」


「だから期間限定で。それに、今のバスケ部の状況知ったらやってくれそうじゃね?」


 ……確かに雫なら優しいから断らないだろう。でも、そこに漬け込むのは……。


「それは……アイツに悪い」


「でも、バスケ部存続できねーよ、キャプテン?んで、雫がマネージャーやるなら、千明もバスケ部入るんだと思うんだよね。千明、運動神経すっげぇ良かったし」


「……。そーかもしんねえけど」


 バスケ部を守るには、まずは部員の確保。運動神経がいい部員が入ってくれるのは嬉しい。一年生のマネージャーを探すのにも、二年生ばかりのバスケ部には入りづらい

 それに比べ雫ならバスケ部の雰囲気も知っているし。


 …………個人的には部活でも雫といれるのは正直嬉しい……。

 千明も一緒というのは複雑だが、即戦力だ。


「いいと思うんだけどな〜」


 達郎は一つに結んだ髪をいじりながら言った。


「わかった。聞くだけだからな?雫が少しでも嫌そうにしたら、即この話は無し!わかったな?」


「はいはい。わかったよ。隼人は本当に雫が好きだよね〜」


 雫が少しでも嫌がる事は、絶対やりたくない。そんな隼人を隼人らしいと達郎は思った。


「う、うるせぇ」


俺たちは雫がいる教室は向かった。



――――

――



「え?マネージャー?うん!いいよ。」


 雫は人員不足を話す前にあっさりとOKした。


「え?いいの?」


「うん。少しでも役に立てるなら嬉しいし」


 了諾した雫に達郎も聞いた。

 やべえ。めっちゃ嬉しい。


「隼人君、怪我まだ完治してないのに無理しちゃいそうだしね」


「怪我はほとんど治ってる!ギプスも来週には取れる予定だからな」


 俺の事考えてくれるだけでも嬉しいのに。


「本当にー?」


 俺を見て優しく笑う雫。可愛すぎるだろ。


「本当だから」



「千明はどう?バスケ興味ねえ?」


 達郎が千明を誘う。帰る身支度をしていた彼は顔を上げて、一瞬雫を見る。


「……俺バスケのルールよくわかってないけど?」


 ポーカーフェイス現在の千明。さっき雫と二人で歩いてた時とは大違いだった。


「そうなの?なら教えるからさ」


「そこまで言うなら、いいよ。入ってやっても」


 カチン……。なんか上からじゃねえか?


 達郎はそんなのお構いなしに話を続けていく。


「じゃあテストも終わった事だし、ニ人とも明日から来てみてよ!」


「わかったよ。じゃあ、俺帰る。……雫、また明日」


「うん。バイバイ」


 入ってくれるのは嬉しいんだけど、なんだよこのモヤモヤ感。雫本人は、千明の好意に気付いてねぇみたいだけど。


「ごめん、雫。今コイツ情緒不安定でさ。優しく一緒に帰ってやってくんない?もう俺らもやる事終わったし」


 俺が落ち込んでいる事に気付いた達郎はグイッと俺の肩を組んで言った。


「隼人君、そんなにテスト出来なかったの?」


 雫はテストが原因だと思ってるし……。鈍感。だけど、それが雫なんだよな。隣に立つ達郎は必死に笑いを堪えてた。



――――

――



 次の日。部活動の時間になった。俺は職員室で倉庫の鍵を貰ってから体育館へ向かうと、部員が一箇所に集まっていた。


「二組の加賀美千明君。まだ転校してきたばかりなんだけど、私と今日から入部する事になりました。千明君、バスケ初心者だからみんなよろしくね!」


 男ばかりで小さい雫の姿は見えないが、雫が千明を紹介しているのがわかった。彼女の事だ。みんなが、不安がらないようにしてくれたんだろう。気を遣える雫を人選して良かったと思う。バスケ部の雰囲気が柔らかくなった気がした。


「藤ヶ谷も入部してくれんの?!マネいなかったからめっちゃ助かる!」


 部員も雫が入る事を喜んでいる様子だ。


 準備体操を終えて、シュート練習を各自始める。達郎を千明の教育係を任した。まだ本格的に動けない俺は、雫にマネージャーの仕事を教えていく。


「さっき、ありがとうな。みんなに千明を紹介してくれて」


「ううん。勝手にやっちゃったんだけどね。隼人君の役に立てて嬉しいよ」


 ニコッと雫が優しく微笑む。俺の好きな笑顔。


「隼人君は本当すごいよ。腕動かしにくいのに、みんなが練習しやすいように、ドリンク作ったり掃除したり。キャプテンの仕事も、自分の筋トレも怠らないし」


 テキパキとスポーツ飲料を作りながら雫がいう。見てくれてたんだと思うと嬉しかった。


「私隼人君のそういうところ、尊敬してるよ!」


「あ、ありがとうな」


 ヤバ……今俺、顔赤いかも……。

 バレないように、雫に背を向けた。コートを見ながらスコアノートで顔を隠す。


「あ!ちょい!ちーあーきー、違うって!」


 達郎の声がコートに響く。視線を向けるとそこには、千明が槍投げのように助走をつけてボールを投げる姿。そのボールは放物線を描き、綺麗にスポッとゴールに吸い込まれる。


 すご、なんではいんの?!

 てか、バスケのルールガン無視じゃねえか。


「ん?違うの?ゴール入ったけど?」


 淡々と答える千明。


「いや、すごいんだけど。すごいんだけどさ、千明?バスケは、助走つけてゴールしないのよ」


普段なかなか見ないアタフタする達郎。


「バスケはボールを持ったら二歩まで!さっきお前六歩歩いた!」


「……面倒くさいルールだな」


 そんな二人のやり取りを雫がみてくすりと笑う。


「あの二人面白いね?」


「あ、あぁ」


「千明君が、バスケ部に馴染みそうで良かったよ」


「馴染んでるのか、あれ?」


 達郎が全力で千明にツッコんでいる。


……おい、本当に大丈夫か、うちの部活。

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2026年1月12日 07:00 毎日 07:00

壊せなかった君へ。 よりた 蕾 @knospe

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