第2話不運の等価交換

 バグを消去し、世界を救った翌朝。カイトは足取り軽く『ひだまり』へと向かっていた。

「今日の日替わりは何かな。焼き魚かな、それとも……」

 だが、店の前に立った瞬間、カイトの膝が折れた。

【臨時休業:店主、ギックリ腰のため】

「……嘘だろ」

 絶望。昨日、一瞬で災厄級モンスターを消した時以上のショックがカイトを襲う。

「やっぱり、管理者権限を使いすぎると、私生活の運が削られるのか……?」

 世界のバグを無理やり修正した反動。それは「不運の等価交換」として、カイトのささやかな幸せを奪っていくのだ。

 その頃、ギルド本部。

「物理法則を無視した消滅痕ね」

 池袋の現場を検分していたのは、S級覚醒者の白銀凛(シロガネ・リン)だった。

 彼女は、崩落した天井の瓦礫を見つめ、細い指で顎を触る。

「天井が落ちてモンスターを倒した? 冗談。切断面が綺麗すぎるわ。これは『切断』ですらない。まるで、最初からそこに何もなかったかのような……」

 凛は現場に残された微かな魔力の残滓(ざんし)を辿る。それは、ギルドのデータベースにある「F級荷物持ち」の登録情報と、ごく微量だが一致していた。

「神代海斗……ただのラッキーボーイとは思えないわね」

 一方、そんなこととは露知らず、カイトはコンビニの冷めた弁当を食べながら、スマホを眺めていた。

『#池袋の守護神 #奇跡の生還』

 SNSでは、健介がアップした「瓦礫の山」の写真がバズっていた。

「やばい……目立ちすぎだ」

 カイトは慌ててX (旧Twitter)を開き、デバッグウィンドウを起動した。

「関連ポストの拡散率を0.01%に固定。インプレッション数を偽装……よし」

 瞬く間に、話題のツイートは誰の目にも触れない「ゴミデータ」へと書き換えられていく。

 だが、海斗は気づいていなかった。その偽装自体が、さらなる「システムのエラー」を呼び込んでいることに。

「カイトさん! 次の依頼、C級ダンジョンの入り口警備だって! 報酬いいですよ!」

 聖(ヒジリ)が走ってくる。

「警備……。それなら、定食屋が再開するまで時間を潰せるかな」

 カイトは立ち上がった。だが、その背中には、管理者権限を監視する「世界の意志」の視線が注がれていた。

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