F級荷物持ち、世界のバグを消去する〜最強の特権(管理者権限)を得たけど、行きつけの定食屋が潰れないことの方が大事です〜

たらこの子

第1話揚げたて唐揚げと世界のバグ

「おばちゃん、日替わり定食四つ! 健介さん、今日は俺が奢りますから、遠慮なく食べてくださいよ」

 新宿の路地裏、昭和の香りが漂う定食屋『ひだまり』。F級の荷物持ち、神代海斗(カミシロ・カイト)の声が響く。

「悪いなカイト。F級の給料で無理すんなよ」

 豪快に笑うのは、リーダーで重戦士の健介。

「……カイト、ご飯大盛りにしていい?」

 無表情だが食欲旺盛な魔術師のリゼが、スマホのスイーツ記事から目を上げずに問う。

「ふふっ、今日もみんな元気で神様に感謝ですね」

 治癒師の聖(ヒジリ)が、手を合わせて微笑んでいた。

 カイトはこの瞬間、心底幸せだった。彼が望むのは、この揚げたての唐揚げと、どうでもいい会話が続く日常だけだ。

 だが、彼には秘密がある。視界の端でずっと点滅している、自分にしか見えないウィンドウ。

【管理者権限(Admin):ログイン中】

 十年前、世界にダンジョンが現れたあの日。彼は「覚醒者」ではなく、世界の「デバッガー」になった。この世界のあらゆる数値、法則、存在を書き換えられる絶対的な権限。

 だが、そんな力を見せびらかせば、この穏やかな食卓は二度と戻ってこない。だから彼は魔力測定器を「バグらせて」F級を装い、今日も荷物を持って笑っている。

「よし、食ったら池袋のE級ダンジョンだ。さっさと終わらせて、帰りに新作ジェラート食いに行こうぜ!」

 健介の号令で始まったのは、簡単なはずのゴミ拾い依頼。しかし、廃棄駐車場の深部で、運命の歯車が狂う。

 突如として空間が歪み、漆黒の霧を纏った巨大な影が現れたのだ。

【警告:未確認の不整合(バグ)を検知】

【対象:深淵の王(災厄級・ランク測定不能)】

「なんだよ……あれ……」

 健介の盾が、モンスターの威圧感だけでピシリと砕けた。

「ひ、ひぃぃっ!」

 絶望が支配する中、巨腕が振り下ろされる。仲間が塵になろうとしたその瞬間、カイトは静かに一歩前へ出た。

「……はぁ、マジかよ」

 カイトが空間を軽く叩くと、周囲の音が完全に消えた。

「システム・アクセス。対象の存在フラグ……オフ(OFF)」

 カイトが虚空をスワイプした。それだけで、世界を滅ぼしかねない災厄の巨躯が、ドットのように分解され、霧散した。

 魔力なんて使わない。ただ、「そこに存在してはいけない」という命令を上書きしただけだ。

 数秒後。カイトは慌てて地面に転がった。

「う、うわああ! 助かったー! たまたま天井が落ちてきて、モンスターを潰してくれましたね! 奇跡だー!」

 必死の演技に、呆然とする健介たちが顔を上げる。そこには、崩落した天井の瓦礫。

「……カイト、あなた、本当に運がいいわね」

「神様が守ってくれたんですね!」

 カイトは笑って荷物を背負い直す。日常を守るためなら、多少の修正は仕方ない。夕暮れの池袋、最強のデバッガーは、仲間たちの後ろを荷物を持って歩き出した。

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