第2話:命と命の狭間

私は落ちていた。


いや、違う。待って。落ちるというのは体があることを意味する。重さがあることを。方向があることを。


私にはそのどれもなかった。


ただ……動きだけ。基準点のない移動の感覚。まるで宇宙全体が後ろに引っ張られながら、目に見えない何かが私を前へ引きずっているかのような。


それとも下へ?


上へ?


重要なことなのか?


闇は絶対的だった。部屋の明かりを消したときの闇ではない。目を閉じたときの闇でもない。


それは光の完全なる不在だった。光の概念の不在。光の可能性の不在。


そしてその不在の中心に……


……私が存在していた。


でも「私」とは何だった?


思い出そうとした。


私の名前。


それだけは分かった。どういうわけか、それだけは難破船の最後の救命板のようにしがみついていた。


清水雪。


十九歳。


誰かを救って死んだ。


他には?


断片。割れたガラス。でもいくつかの破片はまだ映像を映していた。


愛子。笑顔。私を抱きしめる。


たこ焼き。熱い。美味しい。


泣いている少女。燃えた絵。


「今日はいい日だった」


「いい日に死んだ」


それは……そんなに悪くない。


そして突然。


痛み。


突然の。鋭い。今の「私」が何であれ、その中心に。


まるで誰かが白熱した針を私の存在の本質に直接突き刺してねじったかのような。


叫んだ。口もなく。音もなく。でも叫んだ。


痛みが脈打った。


一度。


二度。


三度。


そして広がり始めた。


何かの糸が、炎でも氷でもない、両方でありどちらでもないものが、絡み合い、虚空を、私を引き裂き、無から形を構築していった。


なかった左腕が爆発的に存在した。


右腕が続いた。


脚。胴体。首。頭。


新しい糸一本一本が新しい苦痛の層だった。でも同時に……形成。


「私には形がある」


「私には体がある」


みたいな。


下を見た。そして見ることができた、それだけでも何かだった。


透明な手。半分しか形成されていない指。提案としてしか存在しない脚。


私はスケッチだった。人間の下書き。虚空に浮かぶ人間の形の概念。


「私に何が起こったの?」


処理する前に、虚空が変化した。


二つの存在が現れた。


まだ光ではない。ただ……重さ。集中した注意。何かに、大きいのではなく「異なる」何かに観察されているという圧倒的な感覚。私がかろうじて知覚できる周波数で存在する何か。


そして光。


左に白の点が散りばめられた灰色。不可能なパターンで動く星座のような。


右に赤。脈動する。活気のある。熱い。


焦点を合わせようとした。


失敗した。


目のようなものがあっても、見えるのは形だけ。輪郭。本質。霧に覆われた曇りガラス越しに見ようとするような。


灰色の存在が動いた。その注意が私に集中した。


そして声。


音を通してではなく。直接意識に。落ち着いた。深い。女性的な。


「清水雪」


答えようとした。私の声は奇妙に出た。空洞のような。空っぽの井戸の中のこだまのような。


「……誰がそこに?」


「私の名前はアカエステル。そしてパニックになる前に言っておくけど、はい、あなたは死んでいる。いいえ、ここは地獄ではない。いいえ、私は大文字のDで始まる死神ではない」


間。


「私はただあなたの責任者になってしまった者。私の幸運ね」


口調に何かあった。苛立ちではない。もっと……面白がった諦めのような?


「責任者……私の?」


「すぐに説明する。まず」


赤い存在が動いた。熱の爆発。


「ああああ、やっと! アカエステル、あなたこういう堅苦しい紹介に時間かけすぎ!」


声は女性的だった。若い。虚空を振動させる混沌としたエネルギーに満ちていた。


「ねえねえねえ、死んだ人間! 私はリリトラ! うわあ、あなたかなり透明じゃない?」


笑い声。大きい。伝染する。残酷ではない、ただ……不遜な。


「つまり、私たくさん新しく形成された魂見てきたけど、あなた文字通り空っぽ! 見て、あなたの向こうが見える! これは新しい!」


自分の透明な手を見た。本当だった。私はほとんど見えなかった。


何か熱くて不快なものが私の中で湧き上がった。恥?


「リリトラ」アカエステルが言った、口調は穏やかだが断固として。「興奮を抑えて」


「でも彼女透明なんだもん! 面白いじゃん! 子供向けアニメの小さな幽霊みたい!」


さらなる笑い声。


「というかというか!」リリトラは続けた、声が弾んでいる。「あなたすごくドラマチックな死に方したって知ってた? 車の前に飛び出して! バーン! みたいな……うわあ。勇気には点数あげるけど、自己保存には点数ゼロ!」


「彼女は……私の死をからかってる?」


怒るべきだった。でも彼女の話し方には何かあった、本当の悪意なく、ただその混沌として率直なエネルギーだけが、ほとんど……爽やかだった?


少なくとも彼女は同情のふりをしていなかった。


「それでもっと面白いのは何か分かる?」リリトラは回転した。はっきり見えなくても動きを感じることができた。「あなたいい日を過ごした直後に死んだの! つまり、なんて不運! やっと良くなってきて、バーン! 酔っ払った車!」


「酔っ払ってたのは車じゃない」私はつぶやいた。「運転手だ」


「同じこと! 大きな乗り物、重い金属、壊れやすい人間、バーン!」


沈黙。


そして……私は笑った。


空洞の。奇妙な。でも笑った。


「彼女の言う通りだ。なんてひどいタイミング」


「ほら、アカエステル!」リリトラは勝ち誇ったような声。「彼女ユーモアのセンスある! この子気に入った!」


アカエステルがため息をついた。ため息を感じることができた。


「ええ。素晴らしい。さあ、重要な話に戻れるなら」


「待って待って待って」私が遮った。私の声は今はもっと強かった。もっと存在していた。「あなたたちは……あなたたちは正確には何? 古い魂? 霊? あなたたちは何?」


「顕現」アカエステルが答えた、口調は慎重に。「より大きな何かの表現。リリトラと私は……見えるものではない。神聖な形で輝くすべてが神聖な本質を持っているわけではない」


「基本的に」リリトラが付け加えた、まだ弾んでいるが口調に何か奇妙なものがあった。「私たちはあなたが今見る必要があるもの。あなたが見ることができるもの。あなたの断片化した意識に意味をなす形」


何かがおかしく聞こえた。私が届けない層があるかのような。


「分からない」


「理解する必要はない」アカエステルが言った、優しいが断固として。「ただ私たちがあなたを導くためにここにいることを受け入れて。この移行の瞬間にあなたが必要とするものを与えるために」


もっと質問しようとした。


でも痛みが戻ってきた。鋭い。私の形の中心に。


「ここでのあなたの時間は限られている」アカエステルは続けた。「だからよく聞いて、清水雪」


灰色の存在が近づいた。ほとんど触れられそうなほど近くの星々。


「あなたは死んだ。でもあなたの旅は終わっていない。何かが、何かは聞かないで、答えられないから、あなたがもう一度のチャンスに値すると決めた」


「もう一度の……チャンス?」


「第二の人生」アカエステルが確認した。「別の場所で。あなたが知っていた世界とは違う。あなたの以前の現実にはなかった可能性と共に」


私の精神処理、まだそう呼べるなら、停止した。


「別の……世界?」


「そう。エネルギーがあなたが想像もしなかった方法で流れる世界。人間を超えた種族が歩く世界。不可能がただ……ありそうにないだけの世界」


「魔法がある場所!」リリトラが爆発した、抑えきれずに。「そしてモンスター! そして冒険! そしてあなたの以前の人生を超つまらなく見せる信じられない力!」


「リリトラ」


「分かった分かった、でも本当なんだもん! 彼女すごいことができるようになる!」


処理しようとした。


別の人生。別の世界。


完全なやり直し。


でも……


「私の記憶は?」私の声は小さく出た。怯えて。「私は覚えている? それとも全部忘れて基本的に別人になる?」


沈黙。


重い。


アカエステルが答えた、慎重に。


「保証できない。あなたの本質の強さによる。すべてを保持する魂もいる。完全に忘れる魂もいる。ほとんどはその中間のどこか、断片、印象、こだま」


「でもね!」リリトラが付け加えた。「あなた英雄的なことをして死んだ! 子供を救って! それは魂に深い刻印を残す! だからあなたのチャンスはいい!」


チャンス。


確実ではない。


「私は忘れるかもしれない」


「愛子を忘れる。今日を忘れる。私が誰だったかを忘れる」


氷のような恐怖。


でもそれから……他にも何かあった。


「やり直し」


「私自身でいるチャンス?」


「ついに?」


「あなたは怖がっている」アカエステルが観察した。質問ではなかった。


「……はい」


「自然なこと。でも聞いて、清水雪」


存在がさらに近づいた。


「過去の人生で、あなたは影の中に存在した。喜ばせるために生きた。自分のものではない重荷を背負った。他人にあなたの価値を定義させた」


すべての言葉が真実だった。痛い。でも真実。


「この新しい人生では……それをしないで」


「あなた自身の条件で生きて。あなたが誰であるかを発見して、誰であれと言われるかではなく。必要なときは利己的になって。望むときは優しくなって。でもあなた自身でいて。ついに、本当に、完全にあなた自身で」


何かが私の中で震えた。


「そしてもっと重要なのは」アカエステルは続けた、声がより低く、より真剣に。「盲目的に信頼しないで。すべての愛が本物ではない。すべての家族が家ではない。一部の人々はあなたを利用し、傷つけ、支配する、あなたを守るべき人々でさえも」


「それはどういう意味?」


「自分を守って、雪。仮面を見抜くことを学んで。質問して。疑って。自分の直感を信じて」


「そして必要なら?」彼女の声はさらに断固としたものになった。「残酷になって。容赦なくなって。優しさがあなたを殺すとき、生存は優しさより重要」


それは……期待していた言葉ではなかった。


でも理にかなっていた。


「私は優しくして死んだ」


「誰かを救ったけど、すべてを失った」


「もうこれはできない」


「できない」


「うわあ、アカエステル!」リリトラは感心したような声。「なんてスピーチ! 今日は乗ってるね!」


「ただ現実的なだけ」アカエステルが答えた。「彼女が行くこの世界は……優しくない。特に女の子には」


何か冷たいものが私の意識を這った。


「……どういう意味?」


アカエステルが答える前に、感じた。


「引っ張り」


突然の。暴力的な。否定できない。


下へ、いや前へ、いや「離れて」。


「待って、何、何が起きてる?!」


「あなたは引っ張られている」アカエステルが言った、声が遠くなっていく。「プロセスはすでに始まった。止める方法はない」


「もう?!」リリトラは驚いたような声。「でも私まだ彼女をからかい終わってない!」


「時間がない」アカエステルが主張した。それから、より大きく。「雪! 最後に!」


「何?!」


闇が回り始めた。渦が形成される。


私は落ちていた、飛んでいた、吸い込まれていた。


「あなたの新しい家族!」アカエステルの声が響いた。「ジュレンとグレンリック・ドーンヴェイル! 母と父! 彼らはあなたを愛する、でもどう愛するかを観察して! 何を見返りに期待するかを観察して!」


「それはどういう意味?!」


「そしてあなたの名前!」声はもうほとんど失われていた。「セキレ! セキレ・ドーンヴェイル! 覚えて! 覚え」


でももう聞こえなかった。


なぜなら光が現れたから。


小さい。遠い。でも成長している。


白金色。暖かい。脈打つ。生きている。


星のような。太陽のような。誕生のような。


私はそれに向かって飛んだ。


それとも私に向かってきたのか。


もっと近く。


もっと速く。


もっと大きく。


眩しい。


「頑張って!」リリトラの声が遠くで響いた。「ついに自分自身になって!」


そして。


熱。


概念ではない。物理的。本物。


そして熱と共に。


重さ。


重力。質量。物質的存在。


そして重さと共に。


痛み。


鋭い。圧迫する。同時にあらゆる場所に。


空っぽの肺。燃える。空気を求めて叫ぶ。


敏感な肌。露出した。何か粗いものに触れられる。


光。眩しい。痛い。


「私には体がある」


「私には目がある」


「私には」


「女の子よ!」


声。女性の。疲れた。安堵した。


知らない声。


でも近い。


手が私を支える。大きい。濡れた。震える。


「健康な女の子」


目を開けようとした。


できた。少し。


ぼやけている。すべてがぼやけている。


でも形がある。顔。束ねた黒髪、丸い顔、汗で汚れている。


彼女は微笑む。


でも笑顔は目に届いていない。


目は……疲れている。空っぽ。底のない湖を見るような。


「セキレ」彼女がつぶやく、名前を試している。それからより確固として。「そう。セキレ・ドーンヴェイル。それがあなたの名前」


「セキレ」


「雪ではない」


「セキレ」


別の声。男性の。もっと遠い。


「彼女は健康か、ジュレン?」


「ええ」ジュレン、私の母?、が答える。声は平板。機械的。「健康。指は十本。呼吸は正常。赤毛」


奇妙な間。


「赤毛?」男性の声、グレンリック?、が近づく。「それは……私たちの誰も赤毛じゃない」


重く不快な沈黙。


「劣性」ジュレンがついに言う。「劣性遺伝子に違いない。私の祖母は赤みがかった髪をしていた」


「ああ」グレンリックは納得していないようだ。「目は?」


「まだ分かるには早すぎる」


さらなる沈黙。


それからグレンリックが話す、声はより低く。


「彼女は良い子になるだろう、そうだろう? 問題を起こさない。まるで……のようには」


彼は終わらせない。


必要ない。


ジュレンが私の腕を締める。軽く。でも緊張がある。


「彼女は完璧になる。そうさせる」


「そうさせる」


「彼女はそうだ、ではない」


「そうさせる」


何か冷たいものが私の新生児の意識を這う。


記憶?


本能?


アカエステルの警告?


ジュレンの腕が私を支える。でも暖かくない。


機能的。義務。責務。


壊れやすい物を持つような。愛された赤ちゃんではなく。


「あなたはいい子になる」彼女がささやく。私にではない。自分自身に。「静かな。行儀のいい。埋め合わせをする……」


彼女は止まる。深呼吸する。


「私たちを誇りに思わせる。そうよね、セキレ?」


「期待。愛ではない」


「条件。受容ではない」


「私たちを誇りに思わせる」


「私たちはあなたを愛している、ではない」


「ようこそ、ではない」


「でも、私たちを誇りに思わせる」


泣こうとした。


そして泣いた。


大声で。必死に。


赤ちゃんだからだけではなく。


どこか深いところで。


まだ清水雪だったどこかで。


私はこの口調を認識した。


この条件付きの愛を。


この愛情を装った距離を。


そして感じた。


恐怖を。


ジュレンが私を揺らした。機械的な動き。効率的だが魂がない。


「しーっ、しーっ。泣かないで。いい赤ちゃんはそんなに泣かない」


「いい赤ちゃん」


「もう始まった」


「もう期待がある」


「もう条件がある」


グレンリックが近づいた。彼の存在を感じた。大きい。重い。


「少なくとも肺は強いな」彼がコメントした。口調は中立的。評価的。「それはいい。健康だという意味だ」


「ええ」ジュレンが同意した。「健康。強い。よく育つ」


間。


「育たなければならない。彼女のために計画がたくさんある」


「計画されている」


「彼らはもう計画を持っている」


「私がちゃんと呼吸する前から」


アカエステルの言葉が響いた。


「どう愛するかを観察して。何を見返りに期待するかを観察して」


そして私は理解した。


この愛は無条件ではなかった。


取引だった。


彼らは私に育て、食べ物、屋根を与える。


そして私は……何を与えるべき?


誇り? 従順? 完璧?


「またじゃない」


「お願い」


「またじゃない」


でも私は赤ちゃんだった。無力。依存的。


選択肢はなかった。


まだない。


ジュレンが私を何か柔らかいものに置いた。ベビーベッド?


「今は寝て」彼女が言った。声はより低く。より柔らかく。でもまだ空っぽ。「起きたら、始める」


「何を始める?」


でも意識を保てなかった。


新しい体。弱い。疲れ果てた。


闇が私を引っ張った。


以前の虚空とは違う。


これは眠りの闇だった。


そしてその中に落ちながら、最後に感じたのは。


安堵?


いいえ。


諦め。


「またここから始まる」



第2章 終わり


「どう愛するかを観察して。何を見返りに期待するかを観察して」

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半悪魔の少女の胸には、夢のリストがある 防影 双子です @Bokuei_Futago

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