半悪魔の少女の胸には、夢のリストがある

防影 双子です

第1話: 小さな夢のリスト

リストには七つの項目があった。


手のひらに収まるほど小さな夢。誰も笑うべきではないほど謙虚な夢。


でもそれらは私のリュックの底でくしゃくしゃになり、朝こぼしたコーヒーで染みになっていた。そしてそれを取り出す勇気が私にはなかった。


金曜日、午前6時47分。


目覚ましは7分前から鳴っていた。ビープ音を数えていたから分かる。一回。二回。三回。スヌーズを押す前にいつも三回のビープ音。一回目で起きたことは一度もない。一回目で起きるということは、エネルギーがあるということ。意欲があるということ。


理由があるということ。


もう一日、と私は六畳のアパートのひび割れた天井を見つめながら思った。ただそれだけ。もう一日。


私の体は重かった。物理的にではない。実際、私は痩せすぎていた。身長163センチで体重52キロ。でも、まるで一つ一つの動作が、私が持っていない何かを消費するようだった。もう財布にない通貨で支払うように。


私は布団から這い出た。


アパートは大きなクローゼットほどの大きさだった。本当の料理に使ったことのないミニキッチン。小さなバスルーム。隣のビルの壁に面した窓一つ。自然光はここでは抽象的な概念だった。


壁には一つだけ。百円ショップで見つけた東京タワーの古い絵葉書。なぜ買ったのか分からない。たぶん、ほとんど何もかからなかったから。私のように。


大学まで電車で23分。時間を計っていたから知っている。存在しないふりができる23分間。イヤホン、小さな音量。世界を遮断するのに十分なだけ、決して注目を集めるほどではない。


プレイリスト:「静かに消えるための歌」


火曜日の午前3時、6ヶ月前に作った。理由は覚えていない。ただ、暗闇の中で横たわり、静かに泣きながら、次々と曲を追加していたことだけを覚えている。


電車は混んでいた。体と体が密着。息苦しい暑さ。汗と安い香水と集団的疲労の匂い。


私は隅に押し込まれ、できるだけ小さくなった。十分小さくなれば、誰も私を見ないかもしれない。誰も私がそこにいることに気づかずに一日を過ごせるかもしれない。


「ユキちゃん!」


しまった。


私は頭を向けた。短い茶色の髪、朝7時には明るすぎる目、車両全体を照らせそうな笑顔。


中村愛子。


私の...友達?親友?もう分類の仕方が分からなかった。友達というのは、一緒にいることを選ぶ人たち。愛子はただ...現れた。ある日、文学の授業で私の隣に座って、私たちが友達だと決めた。私は疑問を呈する勇気がなかった。


「ユキちゃん、おはよう!」彼女は私の隣に押し込まれ、中年のサラリーマンを容赦なく押しのけた。「昨日と同じコート着てるね。それ着たまま寝たの?」


私は下を見た。形のないベージュのコート。袖にコーヒーの染み。


「...違いある?」


「あるよ!」愛子はむっとした。「もっと自分を大事にしなきゃ。ねえ、最後にコンビニじゃないもの食べたのいつ?」


思い出そうとした。火曜日?水曜日?


「...昨日?」


「嘘。」愛子は腕を組んだ。「その顔知ってる。『夜11時にカップ麺食べて、それを夕食と呼んだ』って顔。」


彼女は私をよく知りすぎていた。不快だった。


「大丈夫だよ、愛子ちゃん。」


「大丈夫じゃない。」彼女の声は低くなった。優しくなった。より痛ましくなった。「ずっと大丈夫じゃないよ。」


私は視線をそらした。窓へ。通り過ぎるトンネルの暗闇へ。


「ユキちゃん...」彼女はため息をついた。「昔はあんなに笑ってたのに。覚えてる?1年生の時、いつも笑ってた。田中先生のくだらない冗談で笑ってた。本の話をすると嬉しそうだった。あの輝きがあったのに」


「人は変わるものだよ。」


「こんな風にじゃない。」愛子は私の腕に触れた。軽く。まるで私がガラスでできているかのように。「こんな風じゃない。まるで...まるで少しずつ消えていくみたい。どうやって連れ戻せばいいか分からない。」


胸の中で何かが締め付けられた。


言いたかった。私も分からない、と。言いたかった。もう消えてしまったのかもしれない、と。言いたかった。それでも頑張ってくれてありがとう、と。


でも出てきたのは、


「ごめん。」


愛子は私の腕を握った。


「謝らないで。ただ...ここにいさせて、いい?話さなくても。隅っこで静かにしてても。ここにいるから。」


電車は私たちの駅に止まった。


私は降りた。愛子が隣に。


そして数週間ぶりに、私の中で何かが震えた。幸せではなかった。希望でもなかった。


ただ...少しだけ空虚ではなかった。


文学の授業は9時だった。


山本教授は60代の男性で、乱れた白髪、いつも同じ色褪せた緑のネクタイをしていた。彼は三島について、学生を3分で眠らせるような情熱で語った。


でも今日は違っていた。


「さて。」彼は机を叩き、後ろの人たちを飛び上がらせた。「今日は重要なことを議論しよう。生き甲斐の概念。生きる理由。朝起きる動機だ。」


私はほとんど笑いそうになった。起きる動機。まるでそんなに簡単なことみたいに。


「現代の日本文化では、」山本は机の間を歩きながら続けた、「これを失ってしまった。死ぬまで働く。過労死。働きすぎによる死。何のために、と問うことを忘れてしまった。」


彼は私の前で止まった。私を直接見つめた。


「清水さん。あなたの生き甲斐は何ですか?」


沈黙は即座だった。30組の目が私に向けられた。


喉が詰まった。


「私は...私は...」


「壮大である必要はない、」彼は驚くほど優しい声で言った。「小さくてもいい。シンプルでもいい。でもあなたのものでなければならない。」


私は口を開けた。閉じた。また開けた。


私の理由は何?


私には理由がある?


「...分かりません、先生。」


彼はもう一瞬私を見つめた。それから悲しげにうなずいた。


「多くの人が分からない、」彼は教室の前に戻りながら言った。「そしてそれが...それが私たちの世代の本当の問題だ。」


授業は続いた。私はもう何も聞いていなかった。


なぜなら、その問いが響いていたから。


私の理由は何?


私には理由がある?


かつてはあった?


休憩時間、愛子は私を食堂に引きずって行った。


「食べるよ、」彼女はカレーの皿を私の前に押し出しながら宣言した。「一口ずつあなたの口に入れなきゃいけないとしても。」


「愛子ちゃん、私」


「あーあー。」彼女はスプーンを武器のように指した。「言い訳なし。食べて。」


私はスプーンを取った。カレーはぬるかった。少し水っぽかった。ご飯はべちゃべちゃだった。


でも口に入れた時、奇妙なことが起こった。


美味しかった。


最高のカレーではなかった。全然。でも温かかった。そして味があった。本物の味。カップ麺のプラスチックのような味ではなかった。食事を抜いた時の空虚さではなかった。


もう一口を口に入れた。


愛子は微笑んだ。何も言わなかった。ただ微笑んだ。


「ありがとう、」私はつぶやいた。


「どういたしまして。」彼女は私の腕をつついた。「ねえ、これ見て。」


彼女は携帯を取り出して写真を見せた。カラフルなチラシ。


大学秋祭り

土曜日、15:00

食べ物!ゲーム!生演奏!

みんな歓迎!


「行く?」彼女の目が輝いた。「楽しいよ!たこ焼き食べて、くだらないゲームして、写真撮って」


「分からない...」


「お願い?」愛子は手を合わせた。「ねえ、ユキちゃん。最後に楽しいことしたのいつ?授業-家-寝る-繰り返し、以外の何か。」


思い出そうとした。


できなかった。


「...人が多いよ。」


「多いよ。」愛子はうなずいた。「でも私がいる。話したくなければ誰とも話さなくていい。ただ...そこにいるだけ。太陽を感じて。音楽を聴いて。太るもの食べて。」


彼女は一息ついた。


「少しだけ生きるの。」


少しだけ生きる。


最後に生きたのはいつだろう。ただ存在するだけではなく。


「...分かった、」私はつぶやいた。「行く。」


愛子の笑顔は東京全体を照らせそうだった。


「本当に?!ユキちゃん、行くの?!」


私はうなずいた。小さく。ほとんど見えないくらい。


でもうなずいた。


そして私の中で、何か小さくて壊れやすいものが震えた。


たぶん。


たぶんできる。


その夜、静かなアパートで、私は低いテーブルに座った。


くしゃくしゃのノートの1ページ。乾きかけたペン。


そして書いた。


小さな夢のリスト


タイトルを5分間見つめた。


夢。奇妙な言葉。重い。危険な。


でも続けた。


1. 愛子ちゃんと祭りに行く

2. 罪悪感なくたこ焼きを食べる

3. 笑って、それが本物だと感じる

4. 目覚めて、また寝たいと思わない

5. 焦がさずにオムレツを作る

6. 明日が存在する理由を持つ

7. 良い人になる


リストを見つめた。


七つの項目。七つの小さな夢。手のひらに収まるほど小さな。


でもそれらは私のものだった。


何ヶ月ぶり、いや何年ぶりかに、私の中で何かが...希望を感じた?


いや。そんなに大きくはなかった。


ただの火花だった。小さな。震える。


でもそこにあった。


リストを注意深く折りたたんだ。リュックに入れた。


そして眠った。


泣かずに。


土曜日は速すぎて、同時に遅すぎてやってきた。


10時に目が覚めた。目覚ましなしで。私の体はただ...目覚めた。


することがあったから。


服を3回着替えた。ジーンズ。いや、だらしなく見える。スカート。いや、頑張りすぎ。またジーンズ。ベージュのブラウス。いや、地味すぎ。白いブラウス。ましだ。


鏡を見た。


清水ユキ。19歳。スタイルのない黒い肩までの髪。輝きのない茶色の目。痩せすぎた体。猫背の姿勢、まるでより少ないスペースを占めたいかのような。


この子は誰?


もう分からなかった。


リュックを取った。リストはその中にあった。


項目1:愛子ちゃんと祭りに行く。


深呼吸した。


できる。


キャンパスは変身していた。


カラフルな屋台があちこちに。焼きそばとたこ焼きと綿あめの匂い。メインステージから生演奏。笑い、走り、生きている学生たち。


こんなに...生命力。


圧倒的だった。


「ユキちゃん!」


愛子がロケットのように現れ、背の高い痩せた男性を引きずっていた。


「来てくれた!本当に来てくれた!」彼女は私を強く抱きしめた。とても強く。抱きしめられることがどんな感じか忘れていた。


「あ、愛子ちゃん...息ができない...」


「あ、ごめん!」彼女は離れて笑った。「キャンセルするんじゃないかって心配してたの。あ、これがケンジ、私の...まあ、数週間付き合ってるの。」


その男性、ケンジは恥ずかしそうに手を振った。「よろしく。君のことたくさん聞いたよ。」


「...良いことだといいんだけど。」


「最高のことばかり、」愛子は保証した。「週に3冊本を読んで、細部まで全部覚えてるとか。完璧に整理されたノートをいつも貸してくれるとか。それと」


「愛子ちゃん...」


「オッケー、オッケー!」彼女は笑った。「行こう!死ぬ前にたこ焼き食べなきゃ。」


私たちは祭りを歩いた。愛子は止まることなく話した。ケンジは彼女の冗談に笑った。私は...ただ彼らの隣に存在した。


でもそれは...大丈夫だった。


ひどくなかった。


むしろ...心地よかった?


たこ焼きを買った。8個の黄金色の玉、湯気が立ち、ソースとマヨネーズと踊る鰹節がかかっている。


一つ取った。口に入れた。


熱かった。舌を火傷しそうになった。でも味が弾けた。柔らかいタコ、カリカリの生地、甘くて同時にしょっぱいソース。


「美味しい?」愛子が口いっぱいで聞いた。


私はうなずいた。


そして気づかずに...


...私は微笑んでいた。


小さく。純粋に。


本物。


愛子が見た。彼女の目が輝いた。


「ユキちゃん...笑ってる。」


顔に触れた。唇が上を向いていた。


最後はいつだった?


「私...そうみたい。」


「そのままでいて。」愛子は私の手に触れた。優しく。「その笑顔、素敵だよ。」


胸の中で何かが締め付けられた。悪くはなかった。奇妙だった。不快だった。でも悪くなかった。


たぶん。


たぶんこれができる。


たぶん生きられる。


日没まで過ごした。


くだらないゲームをした。愛子はプラスチックの金魚を獲得した。ケンジは輪投げで全財産を失った。私は...ただ笑った。本当に。


生演奏が始まった時、インディーバンドが陽気で甘いメロディーを演奏している時、愛子は私を引っ張って踊った。


「踊れないよ、」私は抗議した。


「誰も踊れないよ!」彼女は回転し、ケンジも引きずった。「ただ動けばいいの!」


そして私は...


...踊った。


ぎこちなく。リズムもなく。たぶん滑稽だった。


でも誰も見ていなかった。誰も評価していなかった。


そして長い間で初めて...


...私はそこにいた。生きていた。


項目3:笑って、それが本物だと感じる。


できた。


祭りが閉まり始めた時、私たちは別れた。


「月曜日も同じ時間?」愛子が聞いた。


「同じ時間。」


「それとユキちゃん?」彼女はまた私を抱きしめた。「来てくれてありがとう。本当に。これがどれだけ意味があるか分からないでしょ。」


「私...こちらこそありがとう。」


彼女は離れ、ケンジの手を取って、去って行った。


私は立っていた。一人で。でも空虚ではなかった。


初めて、空虚ではなかった。


携帯を取り出した。19時47分。


まだ早い。今電車に乗れる。


でも嫌だった。まだ。


この感覚を持ち続けたかった。この胸の温かさ。久しぶりに感じる軽さ。


今日は良い日だった。


本当に良い日だった。


歩き始めた。急がずに。方向もなく。ただ...存在していた。涼しい夜、キャンパスの明かり、口の中にまだ残るたこ焼きの味を楽しみながら。


図書館を通り過ぎた。体育館を。理学部の建物の後ろの小さな公園を。


そしてそこで聞いた。


泣き声。


低く。抑えられた。絶望的な。


無視すべきだった。私の問題じゃない。私は人が苦手だった。特に泣いている人。


でも今日は違っていた。今日私は...幸せだった?


たぶん助けられる。


一度だけ。


音を追った。


木の後ろに、少女。15歳、たぶん16歳。紺色の高校の制服。膝に顔を埋めている。震える肩。


「...大丈夫?」


彼女は飛び上がった。私を見た。赤く腫れた目。涙とにじんだマスカラで汚れた顔。


「だ、誰?」


「ごめん。私...泣いてるの聞こえて。」


彼女は素早く顔を拭いた。「何でもない。大丈夫。」


明らかな嘘。私も同じものを使っていたから分かった。


彼女の隣に座った。近すぎず。ただ...そこに。


「話したい?」


沈黙。長い。重い。


それから彼女は話した。小さな声で。壊れて。


「お父さんが...私の絵を燃やしたの。」


私は止まった。


「...何?」


「漫画家になりたいの。」彼女の声が震えた。「毎日描いてた。3年間。スケッチ、物語、作ったキャラクターでいっぱいの箱があったの...」


彼女はすすり泣いた。


「時間の無駄だって言った。勉強に集中しなきゃいけないって。東大の入学に。『本当の』未来を持つことに。」


さらなる涙。


「それで彼は...全部持って行った。庭に持って行って。そして燃やした。3年間の仕事。全部。消えた。」


胸が締め付けられた。悲しみではなく。


怒り。


誰がそんなことをする?


誰が他人の夢をそんな風に壊す?


「ただ願ってた...」彼女は膝を抱きしめた。「彼に見て欲しかった。私を見て欲しかった。彼の延長としてじゃなく。彼が見せびらかすトロフィーとしてじゃなく。でも...私として。」


その気持ち、分かる。


よく分かる。


「それで今分からない、」彼女は続け、声が壊れた。「続けられるか分からない。価値があるか分からない。たぶん彼が正しいのかも。たぶん私はただ...何もないのかも。」


私の中で何かが動いた。


理性ではない。本能。


彼女の手を取った。


「あなたは何もないなんてことない。」


彼女は私を見た。驚いて。


「あなたは何かを創った。3年間。そうしたかったから。愛してたから。それは全てを意味する。」


涙が流れた。私のも。


「お父さんは間違ってる。そして残酷。そしてあなたは...見られる価値がある。聞かれる価値がある。挑戦する価値がある。」


彼女の手を握った。


「諦めないで。お願い。世界はあなたの物語を必要としてる。お父さんが見なくても。私は見る。他の人も見るから。」


彼女は泣いた。より強く。でも違う。


絶望ではない。


安堵。


私たちはそのままだった。沈黙の中。木の下で手を握る二人の見知らぬ人。


彼女が顔を拭くまで。微笑んだ。小さいが本物。


「ありがとう。本当に。私...これを聞く必要があった。」


「大丈夫になる?」


「たぶん。」彼女は立ち上がった。「行かなきゃ。でも...ありがとう。本当に。」


彼女は手を振った。そして去って行った。


私はそこに残った。一人で。


現れ始める星を見上げて。


項目7:良い人になる。


たぶんもうなっている。


たぶんずっとそうだった。


ただ忘れていただけ。


微笑んだ。今日二度目。


そしてそれは本物だった。


携帯を取り出した。20時13分。


よし。家に帰る時間。


明日もまた良い日になる。


私はそう信じる。


立ち上がった。リュックを取った。門に向かって歩き始めた。


そしてそこで聞いた。


叫び声。


大きい。絶望的。恐怖に満ちた。


頭を向けた。


少女。さっきと同じ。


道の真ん中。電話を見ている。イヤホンをつけて。


そして車。


速く来る。速すぎる。調整されていないヘッドライト、眩しい。


彼女は見ていなかった。


だめ。


時間が遅くなった。


考えない。ただ行動。


私の体が動いた。


脚が燃える。肺が爆発する。


もっと速く。


もっと速く。


5メートル。3メートル。1メートル。


腕を伸ばした。


押した。


持っているすべてで。


彼女は飛んだ。歩道に倒れた。安全。


そして私は。


衝撃。


最初は痛くなかった。


ただ圧力。巨大な。圧倒的な。


飛んだ。


3メートル?5メートル?それ以上?


着地した。


間違って。


すべてが壊れた。


世界が回った。空。アスファルト。空。アスファルト。


止まった。


地面に横たわっていた。冷たい。濡れている。


血。私の血。


叫ぶ人々。走る。携帯。


「誰か救急車呼んで!」


「触らないで!」


「あの野郎酔ってた!」


動こうとした。


できなかった。


指だけ。震えている。


少女。視界に。無傷。私を見ている。


目を見開いて。恐怖して。


「なんで、なんであなたがそんなことを!」


なぜ?


良い質問。


今日は良い日だったから。


彼女も良い日を持つべきだから。


誰かが私を助けてくれたから。だから私も他の人を助けた。


それで十分じゃない?


サイレン。遠く。近く。分からない。


視界がぼやけた。端が暗くなった。


冷たい。とても冷たい。


誰かが私の手を握った。


「頑張って!お願い、頑張って!」


でも分かっていた。


無理だと。


話そうとした。血が口を満たした。


飲み込んだ。もう一度試した。


「...大丈夫...」


少女はすすり泣いた。より大きく。


「だめ!だめだよ!お願い死なないで!」


でも私は死んでいた。


感じられた。命が流れ出る。水のように。砂のように。


おかしい。


怖いはずなのに。


でも怖くない。


リュック。隣に。開いている。


リスト。落ちている。血まみれ。


小さな夢のリスト


1. 愛子ちゃんと祭りに行く

2. 罪悪感なくたこ焼きを食べる

3. 笑って、それが本物だと感じる

4. 目覚めて、また寝たいと思わない

5. 焦がさずにオムレツを作る

6. 明日が存在する理由を持つ

7. 良い人になる


四つ。


七つのうち四つ。


悪くない。


悪く...ない...


視界がさらに暗くなった。


音が遠く。こもっている。


愛子ちゃん。


ありがとう。


今日のこと。


すべてのこと。


冷たい。


暗い。


空虚。


そして...


平和。


そして清水ユキ、19歳は、死んだ。


空っぽの道で。


小さな夢を握りしめて。


でも死んだ時...


...満たされていた。


第1章 終わり


「今日は良い日だった。」

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