第14話 【新入社員紹介】異世界帰りの勇者を採用しました(脳改造済み)。~「正義」の記憶は削除して、今日から最強の「社畜」として頑張ります~

配信終了の合図と共に、カメラドローンのランプが消えた。  後に残されたのは、精神が崩壊し、膝をついて震える元・勇者ヤマトだけだ。


「……殺せ。……俺を、殺してくれ……」


 ヤマトが掠れた声で呟く。  自分が守ろうとした人々を、自らの手で消し飛ばしてしまった絶望。  その瞳からは、もはや覇気も光も消え失せている。


「殺す? もったいない」


 俺はハンカチで(嘘泣きの)涙を拭き、ヤマトの前に立った。


「お前の肉体強度、魔力回路、反応速度……すべてがSSSランクだ。こんな極上の『素材』を廃棄するなんて、経営者失格だろう?」 「……俺を……どうする気だ……?」 「再就職の斡旋あっせんだよ。お前、無職だろ?」


 俺が指を鳴らすと、瓦礫の陰からドクター・ゲロが這い出てきた。  手には、携帯用の麻酔注射器を持っている。


「ドクター、仕事だ。この素晴らしい検体を、私の『新しい番犬』に作り変えろ」 「ひ、ひぃぃ……! よ、喜んで! 最高傑作を作ります!」


 ドクターがヤマトの首筋に針を突き立てる。  抵抗はない。  ヤマトは虚ろな目で天井を見上げたまま、呟いた。


「……ごめん、なさい……聖女様……俺は……」


 ガクリ。  勇者の意識が闇に落ちた。


     ◇


 ――1ヶ月後。


 『株式会社・人類牧場』は、戦後の復興特需に沸いていた。  カイドウ社長は「凶悪なテロリストから会社を守った悲劇の英雄」として称賛され、株価はストップ高を記録していた。


 社長室。  俺は新しい警備隊長の書類にサインをした。


「入れ、Y-001(ワイ・ゼロゼロワン)」


 重厚な扉が開き、長身の男が入ってくる。  全身を漆黒の強化アーマーに包み、顔の半分は機械的なバイザーで覆われている。  かつて白銀の鎧を着ていた男の、成れの果てだ。


「……命令を。マスター」


 合成音声のような、感情のない声。  俺は満足げに頷いた。


「ドクターの腕は確かだな。『正義感』とかいうバグ(・・)は綺麗に除去されている」


 俺はモニターに、ある映像を映し出した。  それは、辺境の惑星でストライキを起こしている労働者(異星人)たちの姿だ。


「鎮圧してこい。全員殺しても構わん」 「了解ラジャー。対象を排除します」


 Y-001は一礼し、踵を返した。  そこに迷いはない。  かつて弱きを助けるために振るわれた聖剣は今、資本家の利益を守るためだけの凶器と化した。


 俺は窓辺に立ち、飛び立っていく黒い輸送機を見送る。


「勇者なんてのは、所詮『システム』の一部だ。使い手が魔王か社長か、それだけの違いさ」


 グラスを傾ける。  最高に美味い。  これが、正義を屈服させた勝利の味だ。


 俺の牧場経営は、まだ始まったばかり。  銀河には、まだ俺の知らない「金になる種族」が山ほどいるのだから。

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