2章

第15話 【新事業】宗教法人を立ち上げました。~「天国」をサブスク化して、クレカの引き落としが止まった信者から「地獄(データ削除)」に落とすシステム~

勇者を捕獲してから半年。  俺の会社は安定期に入っていたが、俺はイラついていた。


「チッ……今月の経費、また上がってるぞ」


 俺は決算書を机に叩きつけた。  原因は、あの元・勇者(Y-001)だ。  あいつの維持費が馬鹿にならない。高出力のエネルギーパック、生体部品のメンテナンス、特殊な鎮静剤。  最強の番犬は、金食い虫でもあった。


「シルビア。もっと『原価がかからず』『中毒性が高く』『馬鹿が喜んで金を払う』商売はないか?」 「検索中……。該当するビジネスモデルが一件あります」


 AI秘書のシルビアが答える。


「『宗教』です」 「宗教?」 「はい。物質的な商品を売らず、救済という『概念』を売る。在庫リスクはゼロ。銀河市場における市場規模は、軍需産業を上回ります」


 俺は口元を歪めた。  なるほど、その手があったか。  俺はこれまで「体」や「血」を売ってきたが、一番高く売れる「心」を放置していた。


「よし、採用だ。今日からうちは宗教法人になる」 「教義コンセプトはどうしますか?」 「簡単だ。『死の克服』だよ」


 俺は窓の外、薄汚れたスラム街を見下ろした。  銀河の文明が進んでも、誰も逃れられない恐怖がある。  「死」だ。


「シルビア。当社の巨大サーバーの空き容量は?」 「全体の40%、およそ50億人分の人格データを保存可能です」 「十分だ。そこに『仮想空間メタバース』を作れ。花畑と、酒と、美女が無限に出てくるプログラムだ」


 俺はニヤリと笑った。


「名前は『ネオ・ニルヴァーナ』。肉体を捨てて意識をアップロードすれば、永遠の快楽が得られる『デジタル天国』だ」


     ◇


 数日後。  銀河ネット中に、画期的なCMが流れた。


 『死ぬのが怖いですか? 病気に苦しんでいますか?』  『カイドウ教なら、あなたを救えます。肉体を捨てて、永遠の楽園へ移住しませんか?』  『初期費用たったの10万クレジット。あとは月額会費を払うだけ!』


 反応は爆発的だった。  不治の病の老人、現実に絶望した若者たちが、救いを求めて殺到した。


 俺はモニタールームで、信者たちのデータが次々とサーバーにアップロードされていくのを見ていた。  画面の中では、データ化された信者たちが、仮想の花畑で涙を流して喜んでいる。


「ああ、素晴らしい! 腰が痛くない!」 「ここは天国だ! 神様(カイドウ様)ありがとう!」


 彼らの肉体は、現実世界ではすでに廃棄ミンチされている。  もう後戻りはできない。


「社長。会員数が100万人を突破しました」 「チョロいもんだな。……おっと、こいつは警告だ」


 俺は一人の信者のステータスを指差した。  入金エラーのマークが出ている。  現実世界に残した遺産が底をついたらしい。


「カイドウ教の教義その1。『金の切れ目が縁の切れ目』だ」


 俺は無慈悲に操作した。


「……あ、あれ? 空が暗く……」


 モニターの中、花畑で遊んでいた男の周囲が、突然どす黒い闇に変わる。  美しい音楽は、耳をつんざくノイズへ。  美女たちは、恐ろしい怪物の姿へ。


「な、なんだ!? やめろ! 熱い! 痛い!」


 男が絶叫する。  俺は彼を『天国サーバー』から『地獄サーバー(低ビットレート拷問部屋)』へと移動させたのだ。  ここでは、1秒が永遠に感じるほどの処理速度で、無限の苦痛データが流し込まれる。


「ひぃぃぃ! ごめんなさい! 払います! なんでもしますからぁぁ!」 「残念。地獄にはATMがないんでね」


 俺はコーヒーを啜りながら、男がデータノイズとなって崩壊していく様を眺めた。


「見たかシルビア。これが真の支配だ。生殺与奪の権どころか、死後の世界すら俺が握っている」


 教祖カイドウ。  悪くない響きだ。  俺は満足げに、増え続ける信者(養分)の数を数えた。

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<祝100PV>人権? 知らねえよ。俺が売ってるのは『ヒト科の生体端末』だ。 角煮カイザー小屋 @gamakoyarima

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