第13話 【緊急配信】会社にテロリストが来たので生中継します。~勇者が「従業員(奴隷)」を吹き飛ばす映像が流れて、コメント欄が大荒れな件~

「……分かった。剣を収めよう」


 ヤマトは悔しげに聖剣を下ろした。  人質が効いたらしい。甘いな。


「賢明だ。では、商談といこうか」


 俺は微笑みながら、背中の手でこっそりとサインを送る。  シルビア、起動だ。  『緊急報道モード』。全銀河の動画サイト、ニュースフィード、SNSをジャックしろ。


『――ピーッ。配信を開始します。現在の視聴者数:50億人』


 空中に浮かぶ無数のカメラドローンが、赤いランプを点灯させた。


「な、なんだ? 何をした?」 「ただの記録用カメラだよ。後で言った言わないの揉め事になるのは嫌なんでね」


 俺は嘘をつき、わざとらしく怯えた演技をして見せた。


「助けてくれ! 誰か! この男が会社を乗っ取ろうとしている!」


 カメラに向かって叫ぶ。   「は? 何を言って……」 「皆さんも知っているでしょう! 『異世界帰りの勇者ヤマト』です! 彼が法を無視して、我が社に武力介入してきました!」 「貴様……! 世論を味方につける気か! だが無駄だ! お前の悪事はもうバレている!」


 ヤマトが叫ぶ。  だが、俺は知っている。大衆というのは、難しい真実よりも、「目の前の分かりやすい映像」を信じる生き物だ。


「シルビア、第3ゲート解放。『警備班セキュリティ・スタッフ』を出せ」 「了解」


 ズズズン……!  壁が開き、そこから数百人の『兵士』たちが現れた。  彼らは銃を持っているが、その目は虚ろだ。  全員、脳にチップを埋め込まれた人間奴隷マリオネットたち。  だが、彼らは今は『カイドウ社の制服』を着ている。端から見れば、ただの勇敢な警備員だ。


「社長を守れ! 侵入者を排除せよ!」 「生活のために! 会社のために!」


 奴隷たちが口々に(プログラムされた)セリフを叫び、ヤマトに突撃する。


「やめろ! お前たち、操られているのか!? 俺は敵じゃない!」


 ヤマトが躊躇する。  だが、奴隷たちは止まらない。実弾がヤマトの鎧を叩く。


「くそっ……! 目を覚ませ!」


 ヤマトが聖剣のみねで、先頭の男を殴り飛ばす。  男は吹き飛び、壁に激突して動かなくなった。


「ああああっ! なんてことを! 彼は来週結婚式だったのに!」


 俺は大げさに嘆いてみせた。もちろん嘘だ。


「おい見ろよ視聴者諸君! 勇者が一般市民を暴行したぞ! これが正義なのか!?」


 俺はカメラに向かって煽る。  目の前の仮想モニターに、コメントが爆速で流れ始めた。


『は? 勇者ひどくね?』 『いきなり暴力かよ』 『カイドウ社ってブラックだけど、働いてる人は普通の人だろ?』 『テロリストじゃん』


 よし、火がついた。  ヤマトの顔が焦りで歪む。


「ち、違う! 俺は……!」 「殺せ! 悪魔を殺せ!」


 奴隷たちが一斉に飛びかかる。  数百人の波。いくら勇者でも、無抵抗で殴られ続ければ死ぬ。  ヤマトの聖剣が光を帯びる。


「ど、どいてくれぇぇぇっ!!」


 生存本能。  あるいは、戦士としての反射。  追い詰められたヤマトは、ついに『閃光波バースト』を放ってしまった。


 カッッッ!!


 まばゆい光が部屋を包む。  人間ごときが耐えられる威力ではない。  最前列にいた数十人の奴隷たちが、光に飲まれ、蒸発し、肉片となって四散した。


「あ……」


 光が収まった後。  そこには、黒焦げになった死体の山と、立ち尽くす勇者の姿があった。


 静寂。  そして、俺の悲鳴が響き渡る。


「ぎゃああああ! 社員たちが! 私の大切な家族かぞくたちがぁぁぁ!!」


 俺は嘘泣きしながら、死体の破片を拾い上げるパフォーマンスを見せた。


「見たか銀河の民よ! これが勇者のやり方だ! 抵抗できない労働者を、大量破壊魔法で虐殺したんだ!」


 その瞬間、コメント欄が「炎上」から「殺害予告」へと変わった。


『人殺し!』 『最低だな勇者』 『カイドウ社長がかわいそう……』 『連邦警察なにしてんの? 早くこいつ射殺しろよ』 『俺の兄ちゃんもあそこで働いてたんだぞ! 許さねえ!』


 情報の奔流。悪意の連鎖。  ヤマトは青ざめ、震える手で剣を取り落とした。


「ち、違う……俺は、ただ……彼らを助けたくて……」 「助ける? 全員死んだぞ、お前のせいでな」


 俺はカメラに背を向け、ヤマトだけに聞こえる声で囁いた。


「言っただろ。ここは『資本主義の戦場』だ。イメージ戦略もできないで、よく英雄ごっこが務まったな」


 ヤマトが膝をつく。  物理的なダメージはない。  だが、彼の「心」と「社会的地位」は、今この瞬間、完全に死んだ。

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