第12話【放送事故】社内粛清で重役が死んだ直後に、異世界帰りの「勇者」が窓を突き破ってエントリーしてきた。~タイミング最悪だけど、とりあえず「不法侵入」で訴えます~

制限時間、残り1分。  会議室は、血の海と化していた。


「ガハッ……! し、シルビア……貴様……!」


 床に転がっているのは、警備隊長のボガードだ。  彼の胸には、警備用ドローンのレーザーが風穴を開けている。


「申し訳ありません、ボガード様。確率計算の結果、あなたが最も『排除しやすい』と判断しました」


 AI秘書のシルビアが、無機質な声で告げる。  彼女のホログラムも無事ではない。ボガードの反撃でサーバーの一部を破壊され、ノイズが激しく明滅している。  隅では、ドクター・ゲロが腰を抜かして震えていた。


「勝者決定だな」


 俺は拍手をした。  素晴らしいショーだった。これで組織の膿(うみ)も出せたし、生存者の忠誠心も――恐怖によって――リセットされたことだろう。


「おめでとう、シルビア。お前がNo.1だ。ドクター、お前は命拾いしたな」 「あ、ありがとうございます……社長……!」


 シルビアが恭しく頭を下げようとした、その時だ。


 ドォォォォォン!!


 轟音と共に、社長室の強化ガラスが一斉に粉砕された。  爆風が血なまぐさい空気を吹き飛ばす。  警報が鳴り響く中、舞い上がる粉塵の向こうから、一人の少年がゆっくりと歩いてきた。


 輝く白銀の鎧。  手には、まばゆい光を放つ聖剣。  その背中には、物理法則を無視した「光の翼」が浮かんでいる。


「……見つけたぞ、諸悪の根源」


 少年が剣先を俺に向けた。  その瞳は、一点の曇りもない正義の炎で燃えている。


「貴様らの醜い争い、外まで聞こえていたぞ。仲間同士で殺し合うとは……やはり貴様は、魔王以上の外道だ!」


 俺はため息をつき、ひび割れたグラスを床に置いた。    ヤマト・タケル。  かつて地球から異世界に召喚され、魔王を倒して帰還したという「本物の勇者」だ。  噂には聞いていたが、まさか防衛システムがダウンしたこの一瞬の隙を突いてくるとは。   「ようこそ、勇者様。アポなし訪問とは感心しないな。うちはセキュリティ会社と契約してるんだが?」 「黙れ! 貴様の悪行は全て調べがついている!」


 ヤマトが一歩踏み出す。  それだけで、床のコンクリートが陥没した。  凄まじいプレッシャーだ。科学の理屈じゃない。「魔力」という得体の知れないエネルギーを感じる。


「同胞を売り飛ばし、命を冒涜し、私欲のために戦争まで起こした! 俺は……俺は貴様を裁くために、この世界に帰ってきたんだ!」 「裁く? 誰が? お前が?」


 俺は鼻で笑った。


「いいか小僧。俺は銀河連邦の法律を遵守している。納税もしている。俺を裁けるのは法だけだ。剣を振り回すテロリストじゃない」 「法律が間違っているなら、俺がその法ごと叩き斬る! それが勇者だ!」


 ヤマトが叫ぶ。  青臭い。眩しすぎて目が潰れそうだ。  だが、今の俺たちには分が悪い。  警備隊長は死に、防衛システムはダウン中。俺自身も昨夜の暗殺未遂で手負いだ。


「社長……戦闘力測定不能です。あいつのエネルギー値、戦艦クラスです……!」


 シルビアが警告する。  なるほど、正面からやり合えば消し炭か。


 だが。  俺はカイドウ。  力(パワー)で勝てないなら、盤面(ルール)を変えるまでだ。


「いいだろう、勇者ヤマト。俺と戦いたいなら相手をしてやる」


 俺はデスクのスイッチを押した。  ウィィン……。  壁が回転し、巨大なモニターが現れる。  そこに映し出されたのは、地下の「保管庫」だ。  そこには、数千人の人間たちが眠るカプセルが並んでいる。


「だが、その前に一つ取引だ」 「取引だと……?」 「このボタンから俺が手を離すと、保管庫の生命維持装置が停止する。5000人の在庫が即死だ」


 俺は赤いボタンの上に指を乗せ、ニヤリと笑った。


「さあ、どうする? 俺を斬れば、この指は離れるぞ。正義の味方なら、当然、人質を見捨てるような真似はしないよな?」


 ヤマトの動きが止まった。  苦悶の表情。  剣を握る手が震えている。


「き、貴様……っ! どこまでも卑怯な……!」 「卑怯? これは『交渉』だ。ビジネスの基本だよ」


 俺はゆっくりと立ち上がり、動けない勇者へと歩み寄った。


「歓迎するぜ、勇者。ここが、綺麗事の通用しない『資本主義の戦場』だ」

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