第11話 【社内政治】寝室に暗殺者が来た。~返り討ちにして、重役たちに「犯人を見つけないと全員ミンチ」と伝えたら、楽しい殺し合いが始まった~

深夜2時。  『株式会社・人類牧場』の最上階、社長私邸。  最高セキュリティを誇るこのエリアに、無音で侵入する影があった。


 影は、俺のベッドサイドまで忍び寄ると、音もなくレーザーブレードを振り上げた。  狙いは心臓。迷いのないプロの動きだ。


 ジュッ!


 焼けるような音と共に、ブレードが布団ごと俺の胸を貫いた――はずだった。


「……硬いな」


 暗闇の中で、俺は目を開けた。  ブレードは俺の皮膚を焼き焦がしたが、その下にある『超硬質ナノカーボン装甲』で止まっていた。


「なっ……!? サイボーグ……!?」


 覆面の暗殺者が驚愕する。  俺はこの瞬間のために、稼いだ金の半分を自身の「肉体改造」に費やしてきたのだ。  心臓は予備を含めて3つ。骨格はチタン合金。脳以外はほぼ機械だ。  ただの人間でいるわけがないだろう?


「残念だったな。チェックメイトだ」


 俺の右腕が変形し、掌から高圧電流が放たれる。


 バヂィッ!!


「ぐあぁぁっ!」


 暗殺者が床に崩れ落ちる。  俺は起き上がり、覆面を剥ぎ取った。  ……知らない顔だ。どこかの傭兵だろう。  だが、問題はそこじゃない。


「この部屋のセキュリティコードは、俺と……『最高幹部トップ・エグゼクティブ』の3人しか知らないはずだが?」


 俺は冷たい目で、泡を吹いて気絶している暗殺者を見下ろした。  外部犯じゃない。  手引きした奴がいる。


     ◇


 翌朝。緊急役員会議。  円卓には、昨日祝杯をあげた幹部たちが青ざめた顔で座っていた。


 AI秘書のシルビア。  開発主任のドクター・ゲロ。  そして、警備隊長のボガード(トカゲ型)。


 俺は包帯を巻いた胸をさすりながら、テーブルの上に『何か』を放り投げた。  ゴロリ。  それは、昨夜の暗殺者の生首だった。


「ひっ……!」


 誰かが息を呑む音が響く。


「昨夜、俺の寝室にネズミが入り込んでな。……実に不思議だ。鍵はかかっていたはずなんだが」


 俺は一人一人の顔をゆっくりと見渡す。  シルビアのホログラムはノイズが走っている。  ドクター・ゲロは複眼を忙しなく動かしている。  ボガードは尻尾を隠すように丸まっている。


 全員が怪しい。  そして、全員が俺を殺す動機を持っている。


「社長! わ、私ではありません! 私のセキュリティログは完璧です!」 「わ、ワシでもない! ワシは研究室にいました!」


 見苦しい言い訳が飛び交う。  俺はテーブルを指先でトントンと叩き、静まらせた。


「犯人が誰かはどうでもいい。……だが、俺は気分が悪い。裏切り者が作った空気など吸いたくないんだ」


 俺はニヤリと笑った。


「ゲームをしよう。期限は24時間」


 モニターにカウントダウンが表示される。


「お前たちの中で『真犯人』を見つけ出し、処刑しろ。証拠は捏造しても構わん。とにかく『誰か一人』が生贄になれば、残りの二人は許してやる」 「なっ……!?」 「もし期限内に誰も死んでいなければ……」


 俺は手元のスイッチを見せた。  それは、彼らの首に埋め込まれた『社章チョーカー』の起爆スイッチだ。


「全員仲良く、花火になってもらう」


 会議室の空気が凍りつく。  次の瞬間、彼らの目つきが変わった。  恐怖の色から、獲物を狙う『獣』の色へ。


「……ドクター。そういえば昨夜、あなたの研究室から外部への通信記録がありましたね?」


 シルビアが冷徹な声で指摘する。


「なっ、貴様! それを言うなら、お前こそセキュリティログを改ざんできる権限を持っているだろう!」 「俺じゃない! 俺は警備を強化しようと……!」


 罵り合いが始まった。  昨日の友は、今日の敵。  自分の命を守るためには、同僚を売るしかない。  ああ、どこかで見た光景だ。  かつて俺が、同族(人間)たちに強いた『椅子取りゲーム』と同じじゃないか。


「ハハハ……! いいぞ、もっと争え!」


 俺は狂ったように笑いながら、部屋を出た。  背後からは、何かが砕ける音と、悲鳴が聞こえ始めていた。


 孤独? 違うな。  誰も信じないということは、誰にも裏切られないということだ。  これぞ、完全無欠の安全保障セキュリティだ。

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