第9話 【戦争】競合他社が艦隊を組んで潰しに来た。~AI搭載ミサイルは高いので、代わりに「人間」を積んで特攻させたらコスパ最強だった件~

株式会社・人類牧場本社、社長室。  けたたましいサイレン音が、優雅なクラシック音楽を掻き消した。


「社長! 大変です! 第1から第5防衛ライン、突破されました!」


 ホログラム通信に映る防衛隊長(トカゲ型)が悲鳴を上げる。  モニターには、空を埋め尽くすほどの敵艦隊。  その数、およそ3000隻。


 旗艦には『銀河貿易連合』のエンブレム。  俺の「血液サブスク商法」にブチ切れた競合他社たちが、ついに手を組んだらしい。


『カイドウ! 貴様の悪行もここまでだ! 独占禁止法違反と人道に対する罪で、この星ごと消滅させてやる!』


 通信回線に割り込んできたのは、連合艦隊の総司令官だ。  正義の御旗を掲げているが、要は「俺たちの利権を返せ」と言いたいだけだろう。


「やれやれ。話し合い(商談)もなしか。これだから野蛮人は困る」


 俺はため息をつき、デスクの『赤いボタン』に手を置いた。


「社長! 迎撃システムはどうしますか!? 高精度のAI誘導ミサイルは在庫切れです!」 「AI? そんな高級品、使う必要はない」


 俺はニヤリと笑った。


「うちの倉庫には、売るほど『誘導装置(CPU)』が余ってるだろう?」


     ◇


 牧場の地下深く。  そこは「廃棄予定」の商品が詰め込まれた、暗黒の収容所だ。    病気になった者、反抗的な者、あるいは単に「年を取って商品価値が落ちた」元・人間たち。  彼らは今、細長いカプセル型の機体に、無理やり押し込められていた。


「な、なんだこれ!? 狭い! 出せ!」 「ママ、怖いよぉ……!」


 カプセルの中は、人一人がやっと入れる棺桶サイズ。  目の前には操縦桿もモニターもない。あるのは、外部と直結された神経接続プラグだけ。


 ガシュッ!  プラグが彼らの延髄に突き刺さる。


「ギャアアアアッ!?」


 彼らの意識が、強制的に機体システムとリンクする。  恐怖も、絶望も、すべては「推進力」へと変換される。


 商品名『ヒューマン・トーピード(人間魚雷)Type-Z』。  AIチップの代わりに人間の脳を使用した、廉価版特攻兵器だ。    俺はマイクに向かって告げた。


「総員、発射ローンチ。――最後の仕事だ。役に立って死ね」


 ドシュッ! ドシュッ! ドシュッ!


 地下サイロから、無数の黒い影が飛び立った。  その数、1万発。  美しい幾何学模様を描き、敵艦隊へと殺到する。


『なんだあれは? 旧式のミサイルか? 迎撃しろ!』


 敵の司令官が叫ぶ。  敵艦から迎撃レーザーが放たれる。  だが。


「う、うわぁぁぁっ! 死にたくないっ!」 「避けてやる! 絶対に生き延びてやる!」


 ミサイル(人間)たちは、死への恐怖から、ありえない機動を見せた。  AIのような規則的な動きではない。  生存本能による、予測不能な回避運動。  レーザーの雨を紙一重でかわし、敵艦の懐へと潜り込む。


『ば、馬鹿な!? ミサイルがビームを避けた!? ありえない!』 『こいつら、生きているのか!?』


「当たり前だ。必死さが違うんだよ、お前らの機械とはな」


 俺はワインを揺らしながら、モニターの光点を眺める。


 ドゴォォォォォン!!


 一発の魚雷が、敵の巡洋艦のブリッジに突き刺さった。  中に乗っていたのは、かつて俺をいじめていた近所のガキ大将だったか。  最期に大きな花火になれてよかったな。


 連鎖的な爆発が宇宙を染める。  1万の「在庫」は、次々と敵艦を道連れに散っていく。


『ひ、退却だ! この悪魔め! 貴様には人の心がないのか!』


 半壊した敵旗艦が、捨て台詞を残して逃走ワープに入る。  勝負ありだ。


「人の心? あるさ」


 俺は爆散した『ヒューマン・トーピード』の破片を見つめ、静かに言った。


「だからこそ、兵器として優秀なんだろう?」


 俺は電卓を叩く。  今回の防衛費用。  人間1体(原価ほぼ0)×1万発 = タダ同然。  対する敵の損害 = 数兆クレジット。


 圧倒的なコストパフォーマンス。  戦争とは、結局のところ収支決算なのだ。

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