第8話 【商機】銀河で致死率99%の奇病が流行ったので、特効薬(人間の血液)を「サブスク」で売ることにした。~貧乏人は死ね、金持ちは俺に星を寄越せ~

銀河歴4025年。  宇宙は『ヴォイド・ポックス(虚空疱瘡)』という奇病の恐怖に包まれていた。  全身が黒く壊死し、内臓が溶け出す死の病。  銀河連邦の人口の3割が死滅し、経済は崩壊寸前だった。


 だが、俺の会社だけは、創業以来の最高益を叩き出していた。


「社長! アンドロメダ星雲の王族から入電です! 『頼む、血液をくれ! 言い値で買う!』とのことです!」 「保留にしておけ。焦らすほど値段は上がる」


 俺はオフィスの窓から、眼下の工場を見下ろした。  かつての「アイドル養成所」や「家具工場」は閉鎖され、すべてのラインが『抽出プラント』に作り変えられていた。


 そこには、数万人の人間たちが、白いベッドに拘束されている。  腕には太い針が刺さり、彼らの体から「赤い液体」がポンプで汲み上げられていく。


 そう。  皮肉なことに、劣等種と見下されていた人類の血液の中にだけ、この病の抗体が含まれていたのだ。  人間は一夜にして、家畜から『救世主(の原材料)』になった。


「……う、うぅ……」


 俺の目の前で、一人の少年がベッドに横たわっている。  商品番号『B-774』。  希少な血液型を持つ、極上のドナーだ。  彼の肌は幽霊のように白く、頬はこけている。限界ギリギリまで血を抜かれているからだ。


「おい、顔色が悪いぞ。輸血してやれ」 「はっ!」


 部下が点滴パックを交換する。  中身は血液ではない。造血剤と、高カロリーの栄養液だ。    抜いて、造らせて、また抜く。  死なない程度に生かし続け、最後の一滴まで搾り取る。  これが我が社の『循環型エコシステム』だ。


「……おじさん……もう、痛いのは嫌だ……」


 少年が虚ろな目で俺を見る。  俺は彼の頭を優しく撫でた。


「我慢しろ。お前の血は、銀河の偉いさんを救う『聖水』なんだ。人助けだぞ? 誇りに思え」 「お家に……帰りたい……」 「ここが家だ。お前の心臓が動いている限り、な」


 俺は冷たく告げ、商談室へと向かった。


     ◇


 部屋で待っていたのは、銀河連邦の首相だった。  プライドの高い鳥型宇宙人が、今は見る影もなくやつれ、俺の前に土下座しようとしている。


「カイドウ殿……頼む! ワクチンを! 私の娘が感染したんだ!」 「おやおや、それは大変だ」


 俺は分厚いアタッシュケースを机に置いた。  中には、赤く輝く小瓶が一本。わずか100ミリリットル。  だが、今の相場なら、これ一本で戦艦が買える。


「しかし首相。この『完全ワクチン』をお売りするわけにはいきません」 「な、なぜだ!? 金ならいくらでも払う!」 「完治・・させてしまっては、ビジネスになりませんからね」


 俺はニヤリと笑い、別の契約書を取り出した。


「提案です。ワクチンではなく、『抑制剤』を契約しませんか?」 「抑制剤……?」 「ええ。これを打てば症状は治まります。ただし、効果は1ヶ月。毎月打ち続けないと、すぐに再発して死に至る」 「なっ……貴様、病気を治す気がないのか!?」 「治したら、来月から商品が売れないでしょう?」


 俺は平然と言い放った。  これが俺の考案した最強のビジネスモデル、『生命のサブスクリプション』だ。


「月額料金は、そうですね……あなたの星の国家予算の5%で手を打ちましょう」 「あ、悪魔め……!」 「嫌なら帰っていいですよ? 他にも顧客は山ほどいますから」


 俺は小瓶をしまおうとする素振りを見せる。   「ま、待て! 待ってくれ!」


 首相が叫び、震える手で契約書を掴んだ。  娘の命と、国家の財政。  親としての情が勝った瞬間だ。


「……契約する。だから、薬を……」 「毎度あり」


 俺はサインされた契約書を確認し、抑制剤を放り投げた。


「ああ、それと。来月からは少し値上げしますから。原材料(人間)の管理費も馬鹿にならないんでね」 「…………ッ!」


 屈辱に顔を歪ませながら、首相が去っていく。    俺は窓の外を見た。  広大な宇宙の星々が、すべて俺の「財布」に見える。    工場のモニターには、今日の生産量が映し出されていた。  『本日出荷量:5000リットル』  『廃棄ドナー数:12体』


「12体も壊れたか。……まあいい、また難民キャンプから補充すれば」


 俺はグラスに入った赤いワイン(本物の酒だ、念のため)を光にかざす。    血は命なり。  そして金なり。  このパンデミックが永遠に続くことを、俺は心から願った。

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