第7話 【朗報】当社のアイドルは「恋愛禁止」です(物理的に)。~脳の前頭葉をカットしたら、24時間神対応できる「絶対的センター」が完成しました~

銀河エンターテインメント市場、規模50兆クレジット。  この巨大市場に、我が社が送り込んだ新兵器。  それが、純地球産アイドルグループ『テラ・ドールズ』だ。


 ドーム型の巨大スタジアムは、異星人たちの熱狂的な声援で揺れていた。


「おおお! ミキちゃーん! こっち向いてェェェ!」 「その滑らかな皮膚! か細い手足! 儚さがたまらねぇ!」


 ステージ中央、スポットライトを浴びて歌い踊るのは、5人の少女たち。  フリル満載の衣装を翻し、一糸乱れぬダンスを披露している。  その笑顔は、まるで春の日差しのように完璧で、寸分の曇りもない。


 貴賓席(VIPルーム)で、俺は大手芸能事務所の社長(タコ型異星人)とグラスを傾けていた。


「素晴らしい……! なんという統率力だ! それに、あの笑顔。3時間踊りっぱなしだというのに、全く疲れを見せない!」 「ええ。彼女たちは『プロ』ですから」


 俺は余裕の笑みを浮かべる。    従来のアイドルには欠陥が多すぎた。  疲れたと言ってレッスンをサボる。  陰で男と付き合ってスキャンダルを起こす。  加齢と共に劣化する。  給料を上げろとゴネる。


 だが、当社の製品は違う。


「彼女たちの脳には、特殊な『リミッター』を埋め込んであります。疲労感、不満、そして『恋愛感情』を司る回路を物理的に遮断カットしました」 「なんと! では、スキャンダルの心配は……?」 「ゼロです。彼女たちにとって、ファンへの愛想笑いは呼吸と同じ。そこに感情はありません。さらに、性欲も食欲もありませんから、体型維持も完璧です」


 タコ社長の足が、興奮でクネクネと動く。


「完璧だ……! これぞ私が求めていた『理想の偶像アイドル』だ!」 「でしょう? それに、オプションで『握手会』もご用意しています」


 俺はステージ下の特設ブースを指差した。  そこでは、ライブを終えたばかりのメンバーが、長蛇の列を作るファン一人一人と握手をしている。    剥がしスタッフもいない。  彼女たちは休憩なしで、数千人の異星人の、ぬめぬめした手や触手を、満面の笑みで握り続けている。


「普通の人間なら精神が崩壊するでしょうが、彼女たちは平気です。『握手=快感』という電気信号が脳に流れるよう設定してありますから」 「おお……なんという献身……!」 「ちなみに、センターの『ミキ』ですが」


 俺は一番人気の黒髪の少女を指差した。  かつて地球で『地下アイドル』をしていた少女だ。  売れない時代、必死にビラ配りをしていた彼女の「もっとたくさんの人に見てもらいたい」という夢。  俺はそれを叶えてやったわけだ。銀河規模でな。


「彼女は特注品です。喉の声帯をボーカロイド用のシンセサイザーに入れ替えてあります。どんな高音でも出せますし、決して喉が枯れることもない」 「すごい! これなら明日からすぐに銀河ツアーに行けるな!」 「ええ。365日、24時間稼働可能です。メンテナンス(点滴と排泄処理)の時間さえいただければ」


 ステージでは、アンコールの曲が始まった。    ♪~『アナタノ コトガ スキ スキ スキ』~♪


 合成音声のような、しかし人間味のある歌声。  ミキの瞳は、観客席の誰とも視線を合わせていない。  ただ、プログラムされた『虚空』を見つめ、プログラムされた『可憐な角度』で首を傾げているだけだ。    その瞳の奥に、かつての人格ミキはもういない。  あるのは、企業の利益を生み出すためのアルゴリズムだけ。


「契約しよう、カイドウ社長! 彼女たちを全宇宙に売り出したい!」 「ありがとうございます。……では、契約書にサインを。ああ、酷使して壊れたら、すぐに『新品(二期生)』をご用意しますので、ご遠慮なく使い潰してください」


 俺たちは握手を交わした。    歓声に包まれるステージ。  それは、少女たちの夢の舞台であり、彼女たちの永遠の牢獄でもあった。    まあ、本人は気づいていないんだから、幸せなもんだろ?

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