第6話 【新商品】売れ残りを「猫耳・発光肌」に品種改良してみた。~脊髄を抜いて『生体家具』にしたら、単価が10倍になった件~

 株式会社・人類牧場、地下第3セクター。  ここは、一般社員(家畜)が決して立ち入ることのない、当社の心臓部「商品開発局(R&D)」だ。


「社長! お待ちしておりました! 素晴らしい試作品が完成しましたよ!」


 白衣を着た開発主任の異星人、ドクター・ゲロが興奮気味に駆け寄ってくる。  彼の複眼は、狂気と情熱でギラギラと輝いていた。


「期待しているぞ、ドクター。最近、富裕層の間じゃ『ただの人間』は飽きられつつあるからな。何かパンチの効いた新商品ラインナップが必要だ」 「ええ、ええ! 地球人の遺伝子は実に柔軟だ! 少し弄れば、すぐに環境に適応する!」


 ドクターが培養カプセルのスイッチを押す。  プシュウゥゥ……と白煙が上がり、中の液体が排出される。


 そこに立っていたのは、一人の若い女性だった。  ――いや、かつて女性だったモノだ。


「ご覧ください、この『発光肌ルミナス・スキン』を!」


 彼女の肌は、暗闇の中で青白く、幻想的な光を放っていた。  血管の一本一本がネオン管のように美しく脈動している。


「深海魚の遺伝子を組み込みました。リビングに一人置いておくだけで、ムーディーな間接照明になります。もちろん、寿命も通常の3倍です!」 「ほう……美しいな。これなら『インテリア』として売り出せる」


 俺は光る肌を指でなぞる。  彼女の瞳に理性はない。脳の機能は、生命維持と発光制御だけに特化されているからだ。


「しかし社長、これだけではありません。最近のトレンドは『実用性』です。こちらをご覧ください」


 ドクターが次のカーテンを開ける。  そこに置かれていたのは、奇妙な形の『椅子』だった。  いや、よく見ればそれは――四つん這いに固定され、背中が平らに改造された人間だ。


「商品名『ヒューマン・チェア』です」


 ドクターが得意げに解説する。


「四肢の骨格をチタン合金で強化し、背中に低反発のクッションを埋め込みました。そして最大の特徴は……」


 ドクターが『椅子』に腰を下ろす。  すると、座面(背中)の下から、温かい体温と共に、かすかな吐息が漏れた。


「……あ、ぅ……」 「この『生体温熱機能』です! 常に36.5度の人肌が、オーナーのお尻を優しく温めます。冬場の寒冷惑星では爆発的に売れますよ!」


 俺は感心して唸った。


「素晴らしい。だが、座り心地はどうだ? 商品が痛がって暴れたら、クレームになるぞ」 「抜かりありません。痛覚神経は切断済みです。それに、声帯も除去してあるので、どれだけ重い客が座っても『鳴き声』で雰囲気を壊すことはありません」


 ドクターが椅子(人間)の上で跳ねても、それはピクリとも動かず、ただ静かに呼吸を続けている。  完璧だ。  これこそ、俺が求めていた究極の『奉仕』の形。


「採用だ。すぐに量産ラインに乗せろ」 「ありがとうございます! ……あ、素材はどうしますか? この加工には、骨格がしっかりした若いオスが適しているのですが」


 俺は少し考え、ニヤリと笑った。


「ちょうどいい在庫がある。昨日入荷した『レジスタンスの捕虜』たちだ。あいつら、俺を見るたびに『貴様の椅子になんかならないぞ!』と吠えていたからな」


 俺は端末を操作し、製造指示書にサインする。


「夢を叶えてやろうじゃないか。彼らの頑丈な体は、きっと最高級の椅子になる」


     ◇


 一週間後。  当社の新作カタログが銀河中に配信された。


 『あなただけの特注家具、作りませんか? ~素材(人間)持ち込み可~』


 注文は殺到し、工場のラインはフル稼働となった。  俺はオフィスの新しい椅子に深く腰掛け、その感触を確かめる。    温かい。  そして、かすかに聞こえる、規則正しい心音。


「……悪くない座り心地だ。なぁ、英雄?」


 俺が問いかけると、椅子の背もたれに埋め込まれた元・レジスタンスのリーダーの顔が、虚ろな目で宙を見つめたまま、微かに痙攣した。


 イノベーションとは、常に常識の外にあるものだ。  我が社の株価は、今日も右肩上がりである。

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