第3話 【悲報】「人権派」の美少女監査官が来た結果。~論破して賄賂(ショートケーキ)渡したら、即堕ちして共犯者になった件~

数日後。  俺のオフィスに、面倒な客がやってきた。


「あなたがカイドウね? ここで行われている非人道的な飼育について、通報があったわ」


 凛とした声が響く。  現れたのは、透き通るような白い肌と、長い銀髪を持つ美少女だった。  種族は『ハイ・エルフ種』。銀河連邦の中でも特に倫理観が高く、潔癖なことで知られる上級種族だ。  胸元には『銀河人権保護局・特別監査官』のバッジが輝いている。


「ようこそ、ルフィナ監査官。非人道的? とんでもない。うちは法令順守コンプライアンスがモットーですよ」 「ふざけないで!」


 ルフィナはバン! と机を叩いた。


「さっき飼育エリアを見たわ。狭いケージ、強制労働、商品としてのナンバリング……。これは明白な『知的生命体保護法』違反よ。即刻、業務停止命令を出します。全人類を解放しなさい」


 彼女の目は本気だ。  正義感に燃える瞳。美しいねぇ。  こういう手合いが一番御しやすいことを、彼女は知らない。


「解放しろ、ですか。……いいんですか? 本当に」 「え?」 「今ここにいる在庫は200名。彼らをこの真空の宇宙に放り出したらどうなります? 行くあてもなく、酸素もなく、野垂れ死ぬだけだ。それとも保護局が全員養ってくれるんですか?」


 俺は痛いところを突く。  保護局は予算不足で有名だ。


「そ、それは……保護局のシェルターで……」 「シェルターは満員でしょう。それに比べて、うちは衣食住完備、医療ケア付きだ。どっちが『人道的』ですかね?」 「っ……! それは詭弁よ! 自由を奪うことは許されない!」


 ルフィナが唇を噛む。  論理ロジックで揺さぶった次は、実利メリットだ。


「まあ、堅苦しい話は抜きにしましょう。遠路はるばる来ていただいたんだ。地球の『おもてなし』をさせてください」


 俺は机の下から、小さな保冷箱を取り出した。  蓋を開ける。  そこには、白く輝くクリームと、真っ赤な果実が乗ったスポンジケーキが鎮座していた。


 ――再現料理『イチゴのショートケーキ』。


 砂糖や乳製品が希少となったこの銀河において、この一皿の価値は、辺境の惑星ひとつ分に匹敵する。


「な、なによこれ……甘い匂い……」 「監査官、あなたは激務でお疲れだ。糖分が必要でしょう? これはほんの『試供品』です」


 俺はスプーンを彼女の手に握らせた。  ハイ・エルフ種は、遺伝子レベルで「甘味」に弱い。


「わ、賄賂なんて受け取らないわ! 私は公務員なのよ!」 「賄賂? まさか。これはただの『廃棄予定のサンプル』ですよ。処分を手伝っていただくだけです」 「……は、廃棄予定なら……仕方ないわね……」


 彼女の喉がゴクリと鳴る。  震える手でスプーンをすくい、口へと運ぶ。


 パクッ。


「……んっ!?」


 ルフィナの動きが止まった。  次の瞬間、彼女の頬が紅潮し、瞳がとろんと潤む。


「あ、甘い……! なによこれ、脳がとろけそう……! こんな美味しいもの、銀河の首都星でも食べたことない……!」 「お口に合いましたか。……あ、そうそう」


 俺はケーキの横に、さりげなく『封筒』を置いた。  中身は裏金クレジットのチャージカードだ。


「これ、今回の『監査手数料』です。あなたの素晴らしい指導のおかげで、当社の飼育環境が改善されましたからね」 「え……でも……」 「もし業務停止になれば、このケーキも二度と食べられなくなる。……残念だなぁ」


 俺は意地悪く囁く。  彼女の視線が泳ぐ。  『正義』と『欲望』。天秤はすでに傾いている。


「……わ、わかったわ」


 ルフィナは封筒を素早く懐に入れ、残りのケーキを貪るように食べ始めた。  口の周りをクリームだらけにして、さっきまでの高潔さはどこへやら。


「今回の監査は……『異常なし』とするわ。飼育環境は……ええ、とても『適切』だったわよ」 「賢明な判断だ。これからも『指導』をお願いしますよ、先生?」 「ふん……来月も監査に来るから。その時は、チョコ味を用意しておきなさい!」


     ◇


 数分後。  監査官を見送る俺の背後で、ケージの中の少女(E-009の姉)が叫んだ。


「待って! 監査官さん! 助けて! 私たちは人間なんです!」


 少女の手が檻の間から伸びる。  だが、ルフィナは冷たい目で彼女を一瞥した。


「うるさいわね、家畜。飼い主様に迷惑をかけるんじゃないの」 「え……?」 「あなたたちは幸せなのよ。こんなに素晴らしいオーナーに飼われているんだから」


 ルフィナは俺に媚びた笑顔を向け、足早に去っていった。  残されたのは、絶望に顔を歪めた少女と、空になったケーキの皿だけ。


「聞いたか? お墨付きをもらっちまったよ」


 俺は少女の前にしゃがみ込み、ニヤリと笑った。


「正義の味方も、俺の『共犯者』だ。……さあ、諦めて働け」

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