第2話 努力とか言ってる奴は頭が悪い。銀河じゃ「強さ」はダウンロードコンテンツなんだよ。

姉妹セットを売り払ったあとのことだ。  俺は「在庫管理倉庫」の見回りついでに、新しいアプリのテストをすることにした。


 倉庫の奥、厳重にロックされた特別房(VIPルーム)。  そこに収容されているのは、昨日入荷したばかりの『特級品』だ。


「……貴様、カイドウだな!」


 強化ガラスの向こうで、男が吠えた。  大柄な体に、鋼のような筋肉。  全身には無数の古傷。    彼の名前は、ゴウダ。  旧地球時代、総合格闘技の無差別級王者であり、異星人襲来時には素手でドローンを破壊したという伝説を持つ『人類の英雄』だ。  まあ、最後は麻酔ガスで眠らされて捕まったらしいが。


「元気そうだな、チャンピオン。餌は食ったか?」 「毒入りの餌など食えるか! 俺は屈しない。貴様のような裏切り者を殺して、ここから全員を解放する!」


 ゴウダが叫ぶと同時に、彼の筋肉が膨張した。    バキィィィン!!


 なんと、彼は力任せに手首の電子手錠を引きちぎったのだ。  本来、象でも逃げられない強度の手錠を、人間の筋力だけで破壊するとは。    なるほど、これが『火事場の馬鹿力』ってやつか。  少年漫画なら、ここで主題歌が流れて逆転勝利する場面だな。


「うおおおおおおっ! 死ねぇぇぇッ!」


 ゴウダが強化ガラスを拳で粉砕し、飛び出してきた。  速い。  プロの俺から見ても、視認できないレベルの踏み込み。  殺意の籠もった拳が、俺の顔面へと迫る。


 だが。


 俺はポケットに手を入れたまま、あくびを噛み殺した。


「『自動防衛オート・ガード』、起動」


 ボソリと呟く。  直後。


 カシャン、ヒュンッ!


 俺が着ているスーツの肩口から、極小の『浮遊ビット』が2つ飛び出した。  それらは目にも止まらぬ速さで緑色のレーザーを展開し、空中に幾何学模様の「盾」を描く。


 ドゴォォォォォン!!


 ゴウダの拳が、俺の鼻先数センチで静止した。  見えない壁に阻まれ、衝撃波だけが周囲に散る。


「な……んだ、と……!?」 「惜しいな。あと0.5秒速ければ、俺の髪の毛くらいは揺らせたかもな」


 俺は空中に浮かぶウィンドウを操作する。  これは銀河通販「アマゾン・ギャラクシー」で買った、護身用ドローンセット。  お値段、たったの1500クレジット。  さっきの姉妹の売上の、2000分の1の価格だ。


「馬鹿な……! 俺は、俺は30年間、血の滲むような修行を……!」 「30年? プッ、無駄な時間を過ごしたな」


 俺は鼻で笑った。


「いいか、原始人。お前が山に籠もって滝に打たれている間、銀河の文明は数万年分進化してるんだよ。お前のその筋肉エネルギーは、俺のスーツのバッテリー残量1%にも満たない」 「ふ、ふざけるなぁぁぁ!」


 ゴウダは諦めずに連打を繰り出す。  だが、その全てが自動追尾するビットにあっさりと弾かれる。  俺はその間、コーヒーを淹れて一口飲んだ。    汗だくで必死に殴り続ける男と、優雅にコーヒーを飲む俺。  残酷なコントラストだ。


「そろそろ飽きたな。……反撃モード」


 俺がアイコンをタップすると、ビットの性質が変わった。  防御から、攻撃へ。


 バシュッ!    一条の赤い光線が、ゴウダの膝を撃ち抜く。


「ぐあぁっ!?」


 膝から崩れ落ちる英雄。  続いて右腕、左腕。  正確無比な狙撃が、彼の神経節しんけいせつだけを焼き切る。  血は出ない。ただ、動かなくなるだけだ。


「あ……動か、ない……俺の体が……」 「最新の『神経遮断レーザー』だ。命に別状はないが、もう二度と自分の意思で手足は動かせない」


 俺は床に転がるゴウダの頭を踏みつけた。


「なぁ、教えてくれよ英雄。30年の努力が、俺のワンタップで終わった気分は?」 「殺せ……俺を、殺せ……」 「だから殺さないって。お前、体格だけはいいからな」


 俺はニヤリと笑い、商品管理タグを彼の額に貼り付けた。


「『動かない重り』として、採掘場の労働力に最適だ。痛みを感じないように改造して、死ぬまで岩を運ばせてやるよ。筋肉自慢のお前には天職だろ?」


 俺は秘書ボットに回収を命じ、部屋を出た。    努力? 根性?  そんなもので宇宙が渡り歩けるなら、警察はいらねえんだよ。    俺が信じるのは『金』と『科学』だけだ。

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