1章

第1話 【朗報】売り飛ばした商品の「姉」が殴り込んできた件。~即捕獲して「姉妹丼セット」で再出品したら、落札価格が3倍になった~

300万クレジットの電子送金を確認し、俺はオフィスに戻った。  合成皮のソファに深く腰掛け、安酒のボトルを開ける。    今日もいい仕事をした。  在庫サクラは無事にハケたし、顧客ナメクジも満足げだった。これぞWin-Winの関係だ。


「……さて、次の仕入れはどうするか」


 端末を開き、闇オークションのリストを眺めようとした、その時だ。


 ドォォォォン!!


 爆音と共に、オフィスの鋼鉄製の扉が吹き飛んだ。  舞い上がる黒煙。  警報が鳴り響く中、煙の向こうから一つの影が飛び込んでくる。


「カイドウゥゥゥゥッ!!」


 裂帛れっぱくの気合い。  現れたのは、ボロボロの戦闘服を着た長い黒髪の女だった。  手には、旧地球時代の遺物であるアサルトライフル。  彼女は俺に狙いを定め、躊躇なく引き金を引いた。


 ダダダダダダッ!


 銃弾が俺の眉間を捉える――直前。  俺の目の前に、半透明の六角形の壁が出現した。


 キン、キン、キキンッ!


 弾丸は無力に弾かれ、床に転がる。  『対物理障壁フィジカル・シールド』。  銀河連邦の一般市民なら誰でも持っている護身用ガジェットだ。  だが、文明レベルの低い「人間」にとっては、魔法の壁に見えるだろうな。


「なっ……弾かれた……!?」


 女が驚愕に目を見開く。  俺はその隙を見逃さない。  懐から『制圧用スタンロッド』を抜き、ソファを蹴って跳躍した。


「遅いんだよ、レジスタンス崩れが」


 一瞬で距離を詰め、女の腹部にロッドを突き刺す。


 バヂヂヂッ!!


「あがぁぁぁっ!!」


 高電圧が彼女の神経を焼き、女は白目を剥いてその場に崩れ落ちた。  痙攣する手からライフルが滑り落ちる。  制圧完了。所要時間、わずか5秒。


「ふう……危ないところだった」


 俺は襟を正し、倒れた女の顔を覗き込んだ。  ……ん?  この顔立ち、どこかで見覚えがある。


 黒髪、切れ長の目。  さっき売り飛ばした『E-009(サクラ)』によく似ている。


「おい、起きろ」


 気付けのために、軽く頬を張る。  女がうめき声を上げて意識を取り戻した。俺の顔を見るなり、憎悪に顔を歪める。


「殺してやる……よくもサクラを……私の妹を……!」 「ああ、やっぱりか」


 俺はポンと手を打った。  姉妹か。道理で顔の造形レベルが高いわけだ。  妹は愛嬌のあるアイドル顔だったが、姉の方は気の強そうな「クールビューティー」ってところか。


「返せ……サクラを返せぇっ!」 「あー、それは無理だな」


 俺は端末の画面を彼女に見せた。  そこには『取引完了:所有権移転済み』の文字。


「クーリングオフ期間はないんだよ、ウチは。もうあいつはナメクジ旦那の所有物だ。今頃、粘液まみれで可愛がられてる頃じゃないか?」 「き、貴様ぁぁぁっ!」


 女が涙を流して怒鳴る。  美しい。  妹を想う純粋な愛情。そして、裏切り者への激しい憎悪。  その感情の揺れ動きが、生体エネルギーとしての価値を高める。


 俺はニヤリと笑い、彼女の手首に、予備の『商品用手錠』をかけた。


「離せ! 殺せ! 私を殺せえええ!」 「殺す? 馬鹿を言うな」


 俺は彼女の顎を掴み、じっくりと値踏みした。  年齢は19か20歳。肉付きは妹よりいい。  何より、『妹を助けに来た悲劇の姉』というストーリーがついている。


「いいか? ビジネスってのは『セット販売』が基本なんだよ」


 俺はバイヤーの連絡先を呼び出した。


「もしもし、旦那? ええ、カイドウです。実はですね、さっきの商品に『付属品』が見つかりましてね。ええ、姉の方です。……はい、もちろん。二匹並べて泣き叫ばせれば、興奮も2倍ですよ」


 通話を聞いていた女の顔から、血の気が引いていく。  自分がこれからどうなるか、理解したようだ。


「や……やめ……」 「姉妹感動の再会だ。喜べよ」


 俺はスタンロッドの出力を上げ、彼女の首筋に当てた。


「さあ、商品らしく大人しくしろ。――これからは二人仲良く、地獄行きだ」


 意識を刈り取られる寸前、女の絶望に染まった瞳が俺を焼き付けた。  俺はその視線を、最高の賛辞として受け取った。

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