<祝100PV>人権? 知らねえよ。俺が売ってるのは『ヒト科の生体端末』だ。

角煮カイザー小屋

プロローグ 在庫処分セール

銀河辺境、第9商業コロニー。  無機質な白い壁に囲まれた「保管室ケージ」には、鼻をつく消毒液の臭いと、わずかな汚物の臭いが混ざり合っていた。


「……あ、ぅ……」


 強化ガラスの向こうで、商品番号『E-009』が小さく震えている。  俺は手元のタブレット端末を指先で弾き、彼女の生体データをスクロールした。    旧名称、ホンダ・サクラ。  16歳。日本人。未通。  栄養状態はランクA。排泄トレーニング済み。  特筆事項:『無駄なプライドあり』。


「チッ、また体重が落ちてやがる」


 俺は舌打ちをして、電子ロックを解除し、ケージの中へと足を踏み入れた。  硬い靴音が響くと、隅で膝を抱えていた裸の少女が、ビクリと肩を跳ねさせる。  彼女の首には、指二本分ほどの厚みがある黒い首輪。そこからは鎖ではなく、青白い光のリードが伸び、壁のフックへと繋がれている。


「立て」


 短く命じる。  だが、E-009は動かない。うつろな瞳で床の一点を見つめたまま、涙で汚れた頬を膝に擦り付けている。  まだ自分が『人間』だと思っている証拠だ。  教育しつけが足りないな。


 俺は無造作に彼女の髪を掴み、無理やり引きずり立たせた。


「きゃあっ! い、痛い、やめ……!」 「立てと言ったら立つんだよ、家畜」


 悲鳴を無視して、顎を強引に上向かせる。  口を開かせ、指を突っ込んで歯並びを確認する。  うん、悪くない。カルシウム不足による欠損もない。これなら観賞用として十分な値がつく。


 次は肌だ。  俺は彼女の二の腕、太もも、そして腹部を、商品チェックのためにペタペタと触る。  性的興奮など一切ない。八百屋が大根の鮮度を確かめるのと同じ手つきだ。それが逆に彼女の屈辱を煽ることを、俺は知っている。


「やめて……お願い、触らないで……私は、私は人間なの……!」 「人間?」


 俺は鼻で笑い、彼女の左耳を掴んだ。  そこには、バーコードが刻印された黄色いタグが、ピアスのように打ち込まれている。


「鏡を見てみろ。人間の耳にこんなタグがついているか? お前は銀河連邦法で認可された『テラ・サピエンス種』。ただの希少生物だ」


 俺はポケットから高栄養ペーストのチューブを取り出し、蓋を開けた。  腐ったドブのような強烈な臭いが広がる。人間には吐き気を催す臭いだが、テラ・サピエンス種の毛並みを良くするためには最適化された餌だ。


「ほら、食え。今日の商談で痩せっぽちだと思われたら、値が下がる」 「いや……食べたくない、こんなの……お母さんのご飯が……」 「お母さん?」


 俺はケージの壁面にあるモニターを指さした。  そこには、かつて『太陽系』があった宙域が映し出されている。  今はもう、砕けた惑星の破片が漂うだけの、広大な墓場だ。


「お前の母親は、あそこのデブリのどれかだ。運が良ければ、次の宇宙船の装甲材として再利用されてるかもな」 「あ……あぁ……っ!」


 少女が崩れ落ち、絶望の声を上げる。  その目から光が消え、ただの絶望という暗闇だけが残る。    そうだ。その顔だ。  絶望に染まり、抵抗の意思を失った『人間』の表情こそが、サディスティックな異星人の富裕層にはたまらないご馳走なのだ。


 ブーッ。  入室ブザーが鳴った。客のお出ましだ。


「カイドウ様、ガルバドス星のバイヤー様が到着されました」 「通せ」


 自動ドアが開き、巨体が滑り込んでくる。  全身から粘着質の体液を垂れ流す、ナメクジのような軟体宇宙人。  その複眼が、怯える少女の肢体をねっとりと舐め回した。


「フォフォフォ……これは極上だ。地球種特有の、その滑らかな皮膚……。剥いでコートにしたら、さぞかし良い手触りだろうなぁ」


 バイヤーの言葉は自動翻訳機を通じて、少女の耳にも届いている。  彼女はガタガタと震え、助けを求めるように俺を見た。  唯一の、同じ外見をした同族である俺に。


「助けて……お兄ちゃん、助けて……」


 縋るような細い声。  俺はにっこりと微笑み、彼女の頭を優しく撫でた。


「安心しろ。……この旦那は、皮を剥ぐときは麻酔を使わない主義らしいが、死ぬまではたっぷり可愛がってくれるさ」


 少女の表情が凍り付く。  俺は彼女の手を取り、ナメクジのぬめぬめした触手に握らせた。


「さあ、ドナドナの時間だ。精一杯、愛想よく鳴けよ?」


 絶叫が、白い部屋に吸い込まれていった。    俺は端末を取り出し、入金を確認する。  300万クレジット。  同族一匹の値段としては、悪くない。


 俺はカイドウ。  地球最後の生き残りにして、宇宙一の『裏切り者』だ。

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