第3話 この雌犬め!

 今日は12月30日。3周年の記念日だ。

 俺は本社ビルの前に立っている。

 手にあるのは花束じゃない。会社の忘年会をぶち壊すための、プロジェクターに繋がったタブレットだ。


 ステージの上では、海斗が王様にでもなった気分でシャンパンを飲んで笑っている。

 そしてあかりは、俺に買わせる予定のエルメスを待って、VIP席で澄ました顔をして座っている。


「佐藤さん、準備できたわ。いつでもいける」橘の声が聞こえる。

「やれ」


 ピッ。


 パーティーの音楽が止まった。海斗の背後のデカいスクリーンに、俺の隠しカメラの映像が映し出された。ホール中に、あかりと海斗の下劣な喘ぎ声が響き渡る。


「あ……っ! 海斗さん……そこ、最高……」


 海斗の顔が真っ白になった。

 あかりは固まって、ワインを床にぶちまけた。

 役員連中や海斗の嫁は、開いた口が塞がらない様子でそのゴミみたいな映像を見ている。


 だが、これはただの始まりだ。


 画面が切り替わる。億単位の横領データと、海斗名義の借金リストだ。

「海斗さん、デジタル署名を勝手に使わせてもらったよ」俺は心の中で嘲笑った。

 俺は堂々とホールに入っていった。

「れ、蓮!? 何してんのよ!?」あかりが狂ったように叫ぶ。さっきまでの美人はどこへやら、今はただの化け面だ。

 俺は近づいて、指輪の代わりにジュエリーボックスを投げ捨てた。「プレゼントだ。受け取れよ、あかり」


 震える手で開けた中身は指輪じゃない。あかりが別の5人の男と寝ている証拠写真だ。


「か、海斗さん、嘘よ! ハメられたの!」あかりが海斗に縋りつく。

「離せ、このビッチが!」海斗はあかりを殴り飛ばした。海斗が血走った目で俺を睨む。「佐藤! てめえ、殺してやる!」


 奴は俺に襲いかかってきた。あの死んだ日と同じように。

 だが今回は、俺が呼んだ警察が全員の前で奴を床に押さえつけた。


「死神海斗、横領と殺人未遂の容疑で逮捕する」


 俺は床に這いつくばって泣いているあかりの前にしゃがんだ。高級な服が台無しだ。「蓮……お願い、許して……愛してるの……」

「蓮、私はただハメられただけ! 信じてよ……」俺はあかりの髪を掴んで引き寄せ、耳元で一番低い声で囁いた。

「何言ってんだ、このクズが。死ぬなんて生ぬるいよ。お前の田舎の両親には全部バラした。それから海斗の借金、お前を保証人にして移しといたから。一生、地獄で這いつくばってろ」


 俺は立ち上がり、引きずられていく二人を眺めた。

 海斗は獣みたいに喚き、あかりは許しを請うて泣き叫んでいる。


「佐、佐藤さん……」橘が少し怯えながら近づいてきた。

「これで、終わりですか?」


 俺は雪の空を見上げた。前世で刺された腹の痛みが、やっと消えた気がした。


「いや、まだだ。奴らの人生が壊れただけだ。この無様な姿を、もっとじっくり拝ませてもらうよ」


 俺は歩き出した。街灯の下で醜く罵り合う二人を捨て置いて。

 今世で俺は死なない。だが、奴らは死ぬより辛い目に遭う。

 俺が用意した本当の地獄は、ここからなんだ。

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