第2話 もうすぐ終わります

 橘あずさは、困惑した表情で俺を見つめた。その澄んだ瞳が丸くなる。「隠し資産のリスト? それにカメラ? 一体何に使うんですか、佐藤さん?」

「俺たちの立場を確実なものにするためだよ、橘さん。君だって、昇進したいだろう?」俺は意味深な薄い笑みを浮かべた。


 橘は聡明なアシスタントだ。彼女もまた、俺と同じように海斗から虐げられてきた。

 彼女は静かに頷いた。「わかりました。極秘で進めます」


 七日間。それが本来の俺の「死」までに残された時間だ。一秒たりとも無駄にはしない。


 その日の昼、海斗マネージャーが俺を部屋に呼びつけた。男はふんぞり返って椅子に座り、傲慢な態度を見せていた。――あの時、俺の腹を刺した時と同じ態度だ。


「佐藤、この報告書はゴミだ! すべてやり直せ。終わるまで帰るなよ!」彼は俺の顔に書類の束を投げつけた。


 以前の俺なら、深く頭を下げて謝罪していただろう。

 だが今の俺は、奴の目を真っ向から見据えた。人殺しの目を。


「何か文句でもあるのか、佐藤? クビになりたいのか?」海斗がニヤついた。

「いえ、マネージャー。完璧に……仕上げてみせますよ」


 俺は部屋を出た。廊下でスマホが震える。あかりからのメッセージだ。


『ねえ、今夜は会社の同僚たちと夕食会があるの。迎えに来なくていいわよ』


 同僚だと? 今夜彼女が海斗とどのホテルに行くか、俺はすべて知っている。

 かつての俺は、彼女の言葉をすべて信じ切っていた愚かな男だった。だが今は、すべてが明白だ。奴らを地獄に突き落としてやる。


 ———~———


 その夜、俺は家に帰らなかった。

 海斗が会社の金を横領して支払っている高級ホテルまで、奴らを追った。

 橘が調べてくれたデータのおかげで、奴の違法な口座番号はすべて把握している。


 俺はあらかじめ予約されていた奴らの部屋のドアの隙間に、小型カメラを設置した。

 貪るようにキスをしながら部屋に入っていく二人を見て、胸が疼いた。だが、この痛みはすでに奴らを破滅させるための復讐心へと変わっていた。


 ———~———


 翌日、オフィスにて。

 橘が一本のUSBメモリを俺に手渡した。彼女の顔は少し青ざめていた。「佐藤さん……これは想像以上に酷いです。海斗マネージャーは会社の名前を騙って、多くのベンダーから金を騙し取っています」

「よくやった、橘さん」


 俺はあかりのスマホに短いメッセージを送った。

【あかり、会社から大きなボーナスが出たんだ。君が欲しがっていたエルメスのバッグを買ってあげたい。明日会えるかな?】

返信が来るまで、三秒もかからなかった。

【本当!? キャー! 大好きよ、蓮! ぜひ会いましょう!】


 大好きだと? 吐き気がして笑いそうになった。死にゆく俺を「ゴミ」と呼んだその口が、今は金のために俺を崇めている。


 コンピューターの画面を見つめる。準備は整った。海斗の脱税データ。奴らの不倫の証拠映像。

 そして、俺がアクセス権限を利用して、海斗の名義で意図的に作った多額の借金。


 記念日まで、あと三日。

 奴らに、今が幸福の絶頂だと思い込ませてやろう。

 足元の地面を抉り取り、底なしの深淵に叩き落とすその時まで。


「佐藤さん……今日のあなた、なんだかすごく、怖いです……」通りかかった橘が隣で囁いた。 俺は冷めたコーヒーを一口啜った。「これはまだ、序の口だよ。橘さん。奴らがどれほど大きな声で悲鳴を上げるか、今から楽しみなんだ」

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