【短編】彼女の浮気現場を目撃した瞬間に、俺は殺された!?

ミハリ | カクヨム

第1話 彼氏の秘密の情事

 俺は彼女を愛していた。心から愛していた。

 名前は水樹あかり。大学時代の苦しい時期から俺を支えてくれた女の子だ。

 彼女のためなら、奴隷のように働くことだって厭わなかった。毎日残業? 問題ない。

 毎日上司に罵倒される? 愛する彼女のためなら、俺はいつだって耐えられた。


 すべては、俺たちの結婚資金のためだった。


 今日は12月30日、俺たちの3周年の記念日だ。

 俺はわざと仕事を早めに切り上げ、バラの花束と、給料三ヶ月分もした指輪を持って帰宅した。

 彼女を驚かせたかった。だが、現実に打ち砕かれたのは俺の方だった。


「あ……あっ! 海斗さん……そこ……すごく、いい……」

「く……っ! もっと……もっと、海斗さん……」


 あの声だ。 いつもは優しく、控えめに漏れるはずの吐息が、今はこれほどまでに荒々しく響いている。

 少しだけ開いた寝室のドアの隙間から、俺は見てしまった。


 俺はこの目で、あかりが他の男と情事に耽っている姿を見てしまったんだ。

 相手は、死神海斗。職場でいつも俺を虐げているマネージャーだった。


「あ……あかり……? こ、これはどういうことだ……?」


 声が震える。手に持っていた花束が、バラバラに地面に落ちた。


 二人は動きを止めた。海斗は満足げにニヤつき、俺の目の前であかりの腰を抱きしめたままだ。

 だがあかりは? 恐怖の色など微塵もなかった。涙一滴すら流してはいない。

 彼女はただ、凍りつくような冷たい目で俺を見据えていた。


「どうして……どうしてだ、あかり……? なんで俺たちの3周年の記念日に? 答えてくれ……なんでこの男と身体を重ねてるんだ……?」

「うるさいわね、蓮」彼女は平然と言い放った。身体を隠そうともしない。「あんたって本当に退屈なのよ! 仕事、家、仕事、家。毎月安い居酒屋で夕食を食べるだけで、私が満足してると思ってたの?」

「でも、俺は二人の未来のために! 貯金だって——」

「おほほほ? 未来ですって?」あかりが笑った。人を底知れず見下した笑いだ。

「聞きなさい、蓮。あんたみたいな貧乏人と過ごす未来なんて、悪夢でしかないわ。海斗さんはブランドのバッグも、高級ホテルも、それに……仕事でいつも疲れ果ててるあんたより、ベッドの上でもずっと凄いのよ」


 心臓が締め付けられる。三年間……すべてが無駄だった。


「佐藤くん」海斗がベッドから降りて口を挟んだ。彼は果物を剥くために置いてあったナイフを手に取った。「俺たちの秘密を見ちまったな。これが広まれば、会社での俺の立場が危うくなる」


 海斗が歩み寄ってくる。俺はショックのあまり、動くことさえできなかった。


「あかり、このゴミを処分してもいいよな?」海斗が聞いた。


 あかりはワインを啜り、俺を汚らわしい虫ケラでも見るような目で見た。「その気色の悪い男なんて捨てちゃって。毎日その情けない顔を見るのは、もう飽き飽きしてたの」


 ぐさっ——。


 ナイフが俺の腹に突き刺さった。温かい血が溢れ出す。


「う……あ……」


 海斗は何度も、何度も俺を刺した。俺は床に倒れ込み、残業代を貯めて買ったカーペットの上で血まみれになった。

 意識が遠のいていく。最後に目にしたのは、俺の血溜まりの上で再び激しく口づけを交わし、情事を再開するあかりと海斗の姿だった。

 痛い。ナイフのせいじゃない。奴らの、俺への屈辱のせいで。


(畜生……もし二度目の人生があるなら……お前ら、死を乞うほどの目に遭わせてやる……) …… ……


「佐藤さん? 佐藤さん! 起きてください! 海斗マネージャーが部屋に呼んでますよ!」


 大声に、俺は飛び起きた。

 息が激しく乱れ、冷や汗が止まらない。

 自分の手を見る。血はない。 辺りを見渡す。ここは、散らかった俺のデスクの上だ。

 目の前には、いつも心配そうな顔をしているアシスタントの橘あずさが立っていた。


「橘……さん……?」

「はい? どうしたんですか? 顔色が真っ青ですよ」


 コンピューターのカレンダーを見た。記念日の七日前。


(まさか……過去に戻ったのか?)


 ああ、そんなことはどうでもいい。確かなのは、俺が戻ってきたということだ。本当に、過去に戻ってきたんだ。

 腹の傷跡がまだ痛む気がするが、胸の中の怒りの炎はそれよりも遥かに熱い。


「橘さん」

「はい、佐藤さん?」


 俺は、今まで見せたことのないような笑みを浮かべた。


「海斗マネージャーの隠し資産のリスト、全部調べてもらえるかな? それから……最高性能の隠しカメラを準備してくれ」

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