第十三章「凱旋」

アリアハンの城門は、

ゆっくりと開いた。


人々の声が、波のように押し寄せる。

歓声。安堵。戸惑い。

そして――どこか拍子抜けした空気。


魔王城は崩れていない。

魔王を斬ったという報せもない。


だが、

勇者は帰ってきた。


アレルは城門をくぐりながら、

ふっと肩の力を抜いた。


(……終わった)


そう思えた自分に、

少し驚く。


かつてなら、

使命の重さが先に来ていた。

今は違う。


剣は腰にある。

だが、背中に乗っていた何かは、

もう無かった。



王の言葉


玉座の間。


王は、

言葉を選びながら言った。


「魔王は……

倒されたのか?」


アレルは首を振る。


「いいえ」


一瞬、

ざわめき。


だが、

アレルは続ける。


「でも、

もう斬る必要はありません」


王は理解できない、

という顔をした。


だが、

それでよかった。


理解されるために、

この旅をしたわけではない。



僧侶の立ち位置


ミリアは、

一歩後ろに立っている。


祈るでもなく、

語るでもなく。


ただ、

必要なら声を出せる位置。


それが、

彼女の居場所だった。


「……静かになりましたね」


アレルが言う。


ミリアは微笑む。


「世界が、

歩き出したのだと思います」



去る者


帰路の途中、

ガルドは立ち止まった。


「ここまでじゃ」


トーマスが振り返る。


「……行かないのか」


ガルドは笑った。


「役割を果たした老兵は、

ただ去り行くのみ」


杖を地面に立て、

それだけを残す。


振り返らない。


トーマスは、

引き留めなかった。


(……それでいい)



海へ帰る者


港では、

レイナが帆を張っていた。


「終わったみたいだね」


「ああ」


トーマスは短く答える。


レイナは笑う。


「でも、

あたしは海へ帰る」


「自由は、

手放せない」


「海賊は、

海賊だからさ」


トーマスは頷いた。


「……達者でな」


「そっちもね」


レイナは振り返らず、

船を出した。


同じ道を、

二度と歩かない者の背中だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る