第二章「仲間は多い方がいい」

アリアハンを発って三日。


平原の風はまだ優しいが、優しいだけでは腹は満たされない。

野営の火を起こしながら、トーマスは何度目かのため息を吐いた。


(……二人旅は無理だ)


隣では勇者アレルが剣の手入れをしている。真剣な顔だ。

それはいい。いいが――若い。


若いというのは、弱いという意味じゃない。

ただ、崩れた時に戻す時間が足りないという意味だ。


そしてもう一つ、問題がある。


「ねぇトーマス、今日の夕飯なに?」


「干し肉だ」


「飽きた」


「生きるのは飽きるもんじゃねぇ」


アレルは頬を膨らませた。

こういうところが、若い。


トーマスは立ち上がり、剣のない腰を叩いた。


(必要だ。回復役と、経験者)


怪我の手当は命に直結する。

それと、旅の“空気”を知ってる奴。

道にいるのは魔物だけじゃない。人間もいる。


翌日、二人はルイーダの酒場へ戻った。


「あ、また来た!」


受付のルイーダが手を振る。

トーマスは真顔で言った。


「仲間を増やす。僧侶、できれば女。あと老練な魔法使い」


「すごい条件つけるね」


「命の条件だ」


アレルが横から手を挙げる。


「え、女僧侶はわかるけど、老練って?」


「若い魔法使いは、経験がない。経験のない魔法は怖い」


「トーマスのその偏見、絶対どっかで刺されるよ」


「刺される前に刺されない布陣を組む」


ルイーダは笑いながら、酒場の奥に声をかけた。


「ミリアー! ガルドー! 出番だよ!」


最初に出てきたのは、白いローブの少女だった。

控えめな笑み。静かな眼差し。だが立ち姿は揺れていない。


「僧侶ミリアです。……よろしくお願いします」


続いて、杖をついた老人。背は丸いが、目が鋭い。

酒場の空気を一瞬で“引き締める”タイプの魔法使いだ。


「ふむ。ガルドじゃ。……若造ども、死に急ぐなよ」


アレルが「若造って……」と小声でつぶやいた。

トーマスは軽く頷く。


(よし。これで――)


「じゃあ、自己紹介!」


ルイーダが急にテンションを上げる。


アレルが胸を張った。


「勇者アレル! えっと、魔王を倒す……!」


ミリアが小さく会釈。


「回復と補助は任せてください」


ガルドは鼻で笑った。


「魔法は貸す。命までは貸さん」


最後にトーマス。


「トーマスだ。ソードマン」


アレルが首を傾げる。ミリアも少し目を丸くする。

ガルドだけが察した顔で言った。


「……剣は?」


トーマスは拳を握って見せた。


「これは俺の武器じゃねぇ!――って言いながら殴る」


一拍。


「剣はいつか持つ。ただ今は、勇者の剣でいい」


アレルが少しだけ驚いた顔をしたあと、笑った。


「……へんな人。でも、頼もしい」


その夜、四人は同じ火を囲んだ。


トーマスは言う。


「勇者ってのは困難に勝って得る英雄の名前だ。

お前はまだ勇者になってない。怖くて当たり前。弱くて当たり前」


アレルは黙って聞いていた。

ミリアは祈るように目を伏せ、ガルドは酒を舐める。


トーマスは続ける。


「困ったら仲間を頼れ。お前は一人じゃない」


アレルが、はっきり頷いた。


「うん。……よろしく、みんな」


火がぱちぱちと鳴った。


その音が、旅の始まりの合図みたいに聞こえた。

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