AIとドラゴンクエストⅢを遊んだ結果。

駄文亭文楽

第一章「剣を持たぬ戦士」

ルイーダの酒場は、今日も騒がしかった。


剣の柄がぶつかる音、

甲冑が軋む音、

勝ち誇った笑い声と、負けを誤魔化す酒の匂い。


トーマスは、酒場の隅で腕を組み、壁にもたれていた。

背は高く、体つきは戦士そのものだが――腰に剣はない。


それが、この男の異様さだった。


「……まだか」


誰に向けるでもなく、呟く。


彼は待っていた。

勇者を。


ここに来ると聞かされてから、すでに半日は経っている。

酒場の連中は、トーマスをちらりと見ては視線を逸らした。


剣を持たぬ戦士。

名乗りはソードマン。


――冗談か、狂人か。


だが、誰も笑わない。

それが、この男の放つ空気だった。


トーマスは自分の拳を見下ろす。

硬く、古傷だらけの手だ。


(剣は、まだ持たねぇ)


誓いがある。


この世でもっとも強い剣に出会うまで、

剣は握らない。


それは自分に課した縛りであり、

逃げ道を断つための誓約だった。


――剣を持てば、頼ってしまう。

――剣を持てば、前に立てなくなる。


だから持たない。


「……来たか」


酒場の扉が開いた。


外の光が差し込み、

人の視線が一斉にそちらへ向く。


入ってきたのは、若い少女だった。


年の頃は十六、七。

旅装は整っているが、どこか新しい。


だが――

剣の握り方だけは、素人ではなかった。


(ああ)


トーマスは、確信する。


(こいつが、勇者だ)


少女は、酒場を見渡し、少しだけ戸惑ったように目を瞬かせた。

そして、まっすぐこちらを見る。


なぜかわかった。

前に立つ人間を、自然と見つけてしまう目だった。


トーマスは、壁から背を離す。

酒場の喧騒が、ほんの少しだけ遠のく。


「自己紹介が、まだだったな」


低く、通る声。


「トーマスだ。

ソードマンのトーマス」


少女が、首を傾げる。


「……剣は?」


トーマスは、口の端だけで笑った。


「剣は、まだ持ててない」


一拍。


「だが――前には立てる」


少女は、数秒だけ黙った。

それから、なぜか安心したように微笑う。


「私、アレル。

勇者……らしいです」


“らしい”。


その言い方に、トーマスは心の中で頷いた。


(いい)


(まだ、背負ってねぇ)


酒場の空気が、少しだけ変わる。


誰かが囁く。

誰かが息を呑む。


だが、トーマスはもう周囲を見ていない。


アレルの背後――

その先にある道を、見ている。


「一つだけ、言っておく」


トーマスは、前に立つ。


剣を持たずに。


「勇者ってのはな、困難に勝った英雄の称号だ。

最初から役割の名前じゃねぇ」


アレルは、真剣な目で聞いている。


「だから怖くて当たり前だ。

弱くて当たり前だ」


「だがら――」


トーマスは、拳を軽く握った。


「困ったら、仲間を頼れ。

お前は一人じゃない」


一瞬、酒場が静まり返る。


アレルは、ゆっくりと息を吐き、

そして、はっきりと頷いた。


「……お願いします」


その一言で、

トーマスは覚悟を決めた。


(前に立つか)


(この旅が終わるまで)


彼は知らない。

この選択が、剣よりも重い旅の始まりになることを。


だが――

それでも前に立つ。


剣を持たぬまま。

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