第11話 進化の卵その3

機械音が頭に流れると同時に、僕が覚えていた“文字のある魔力”の全てに変化が起きた気がした。

虚無感の中に放り込まれた、新たな進化がまた僕を強くしようとしている。

「なんだよ…神はまだ僕を苦しめようとするのか」

僕は肩を震わせ、泣き叫んだ。

今となっては、強くなることよりクオンが大切なのに。

「まあいいや…もう疲れた」

あれから一度もお見舞いにも行っていないし、睡眠も取っていない。

「こんなに顔やつれてたっけ…」

個人大会のエントリーをしに行く道中、窓に映る自分の顔が見えた。

目はクマができてて、口周りは荒れている。

今にも崩れそうな雰囲気だ。

「あれ、ドライアドじゃん。個人大会出るの?」

僕に話しかけたのは、いつも通りの“魔弾の子”の2分の1おじさんだ。

「ええ」

元気なく呟いた。

「もし当たったら、負けねーからな!」

彼の明るいオーラは、今の僕には毒だった。

「そして遂に!この度アゼルはギルド団長へと昇格しましたあ〜」

そうか、この人がアゼルなのか。口髭を生やしてダンディな方の盾兵がアゼル。

「おめでとうございます」

「あ、団長って分かったら怖気付いちゃうよねえ。ごめんねえ」

アゼルは軽い挑発をしてきて、喜びが現れていた。

「楽しみです」

ニコッと笑いかけると、彼は首を傾げた。

「なんか元気ないよな?」

察しの良さに僕は驚き、背筋を伸ばす。

「い、いえありますよっ。ただアゼルさんの覇気に圧倒されて…」

しどろもどろに話しても、アゼルは納得したように何度も頷いた。

「うんうん!それでこそドライアドだっ」

そして彼は僕の背中をバンバン叩き、ギルド統括委員会の建物へと送り出した。

「はは、痛いなあ」

背中をさすりながら中へ入ると、受付嬢と目が合った。

「ドライアドさんっ…」

「…もう過去のことはいいんです。それより個人大会にエントリーしてもいいですか?」

受付に肘を置いて僕は話し始めた。

「は、はい可能です。クオン団長とは一緒じゃないんですね」

脳裏に彼の優しい笑顔が過ぎった。

「…まあ、そうですね」

ふっと視線を逸らして愛想笑いをした。

「何か、雰囲気変わりました?ドライアドさん」

顔を覗き込む彼女に、僕は眉間に皺を寄せて言った。

「…さぁ。それでもういいですか?」

貧乏ゆすりをして、彼女の返答を待った。

「もちろん構わない、です。が、初戦は明日なので、一覧表を見てお越しください」

受付嬢は罪悪感に満ちた瞳で僕を見てくるので、いい加減鬱陶しさを感じた。

「(何もかもに苛立ちを感じる。自分自身にもーー)」

お礼も返事も一切せず、僕は席を乱暴に立ち上がり、出ようとした。

「ダメじゃないか、受付嬢にそんなことは」

僕の後ろで並んでた、紳士そうな男が僕に注意をした。この人は以前、図書館に居た男だ。

「何ですか。貴方に言われる筋合いは無い」

見向きもせずに彼の横を通ろうとした時、耳元で囁かれた。

「あんま調子乗るんじゃないよクソガキ」

予想だにしないことを言われて、頭を回転させて振り向くと、受付嬢の顔も視界に入った。

見るなよ、哀れな目で。

「こんにちは、レティスさん。個人大会へエントリーしたいのですがーー」

親しみを込めてその男は受付嬢と話し始めた。

名前すら知らなかった受付嬢と、見知らぬ男に何故こんなにも腹が立つのか。

「(きっと図星だからだ)」

そう適当に理由を付けて、体を戻した。

騒がしい声が交差するここは、居心地が悪かった。そして僕は宿を取り、明日の初戦へと準備をした。


翌日、結局魔法の違和感をそのまま放置して、初戦を迎えた。

「初っ端から、団長かよ」

“太陰循環”というギルドの長をやっている、シオンという者だ。ギルド名が何とも独特な名前である。

僕は身支度を整え、王都の格安の宿屋から闘技場へと直で行った。

「レディースエーンジェントルメン!!」

仮想結界で覆われた闘技場へ入り、観客席につくと、司会の仮面を被った男が快活に、皆を歓迎した。

「早速1回戦目を発表していくよっ。最初は…アゼル&モミジ〜っ!」

司会がマイクを振りかざすと、闘技場の決闘場の両方の入口から、人が出てきた。

「っ!モミジって…」

以前PvP対戦場で戦った、“魅惑の花園”の団長だ。

「まさかこんな所で見れるなんてっ!」

喜びを噛み締めてガッツポーズをした。

もう一度、なんとしてでも“恋の盲目”の魔法の有効条件を見極めてみせる。

「双方構えっ!!」

司会が元気よく言った。

「行けえええっ!!!」

それを合図に、アゼルが先に仕掛ける。

ほう、盾術の魔法でシールドを展開したまま突っ込むのか。そうすることで攻守を兼ねることになる。

だが当然モミジにはシールドなんて関係なかった。モミジはレイピアを軽く振っただけでシールドは粉々に壊れた。

「…今のは恐らく、シールドの脆い部分を見極めたんだ」

全体を覆うシールドは、相対的に部分的な攻撃に対しては弱なってしまう。

そしてモミジはすかさず距離を詰め、ゼロ距離となった。

アゼルは盾を前に突き出し、攻撃に備えた。だがしかし、モミジが行ったのは攻撃ではなく、魔法。しかもそれは相手の視界を閉ざす、例の魔法。

「なんだ、一体何が条件なんだーー」

アゼルは視界が無くなったことによりパニックになり、魔法で障害物を沢山出して、距離を保った。

その障害物は、かなり大きい金棒のような盾でそれが何本も、彼らの間に出現した。

「(アゼルの目が戻ったっ?!)」

ああ、分かってしまった。

そこからの試合展開は一瞬だった。冷静を取り戻したアゼルは再び体勢を戻そうと、前方に集中した。その時だった。いつの間にかアゼルの後ろに居たモミジは迷わず剣で後ろから突き刺した。

「条件を理解したって、あれは理解出来ないよ」

冷や汗を僕は額から流した。

瞬間移動の類だろうか。以前、僕も同じことをやられたのに、客観的に見ても分からなかった。

「勝者は〜〜モミジっっ!!」

わっと観客席に居た人達は歓声を上げ、モミジを称えた。

「金返せおっさんっ!」

「何負けてんのよっっ!!」

賭博もしているらしい。

「…戦いを楽しむのには、金なんて要らないだろ」

思わずぼそっと声に出してしまい、隣に居た男性が反応した。

「同感です、ドライアドくん」

猫撫でするような、この声はーー。

「…お節介紳士が何でここにいんだよ」

それに名前だって何で知っているんだ。

「ふふ、昔の方がドライアドくんは良かったよ」

そんなの分かってる。今と前の僕は大きく変わったって。

歯を思いっきり食いしばり、殴りたくなる感情を抑えた。

「第2回戦目は〜〜〜ドライアド&シオンっっ!!!」

司会が丁度よく宣言したため、僕は気持ちを切り替えて勢いよく立った。

「さあ、行こうか」

僕と同じ目線に居るこの男は軽やかに言った。

ふざけるな、まさかこの男がーー。

“太陰循環”ギルド団長、シオンなのか。

「えっ、あの子って…」

ヒソヒソと周りがざわめき始める。

「今話題の奇策の魔術師じゃない!」

黄色い発狂を観客の女性達はする。そしてどんどん他の人へと伝染し、一瞬にして僕は有名人となった。

「…へえ、2つ名がある程強いんだ」

シオンは見下したような目つきで僕を見た。

「うっさいな、強いかどうかは戦って判断しろ」

そうだ、戦わなきゃコイツが本当に強いのか分からない。ただ肩書きに左右されるようじゃ、いつまで経っても世界1位にはなれない。

「(…団長も見て欲しかったな)」

目をぐっと瞑って、歩き出した。


「双方用意っ〜!」

正面に気味の悪い笑みを浮かべているシオンがいる。

「開始っ!!!」

そして僕はゆっくりと前へ歩き始めた。

「(実は、僕はある程度見立ては着いている)」

数日前の図書館で、クオンは奇妙なことを言った。

「(そう、シオンが陰陽師である可能性だ)」

僕はクオンの言葉を思い出した。

“陰陽師”は呪いを祓う立場にいるから、規格外の技は幾つかある、と。

「(陰陽師は、魔法使いで言う召喚魔法を用いて戦う)」

予想通り、シオンは術式を描いた。

「式神展開ーーからくり人形・零式」

小さな白いのっぺらぼうの人形が、今にも倒れそうな足取りで向かってくる。

「遅い」

この距離と遅さなら弓で射抜ける。

始めは油断させる為に、弓を使って撃とう。

「樹木展開ーー森の恩恵」

何も、変化は起きなかった。

魔法を唱えても、弓はおろか、矢すら出てこない。

「ん?樹木魔法が使えないドライアドってさーー」

シオンが突然声をかけた。

「偽物の方?」

怒りがフツフツと込み上げ、目の血管が切れた。

「な、なんとっ!!今旬の“奇策の魔術師”ではなく、偽物のドライアドだ〜〜!!!」

司会も大盛り上がりで実況する。

「こんなに似てる人って居るんだね。あ、だから人格も本物と違ったのか」

言葉が出ない。本当に怒りに支配されてい時って、声が出ないんだ。

「式神よ、偽物退治だ!」

シオンが指示すると、人形達は走り始め、持ち前の武器で僕を攻撃しようとした。

「(なんで魔法が使えないんだよ)」

ここ直近の出来事を走馬灯のように並べた。

「(行き違い、人格否定、感情起伏)」

刀を持った式神が僕に斬りかかる。

「(魔族撃破、アザミの封印)」

シオンも距離を詰め、勝利を確信していた。

「(ああ、肝心なことを忘れていた)」

進化の卵が、100%になっていたのでは無いか。

「ははっ」

僕はやっと声が出るようになった。

「?」

シオンは化け物を見るような目で首を傾げた。

「…制御が出来なければ自滅する、万能の魔法体系」

式神の攻撃を避けて、大きくステップし、距離を保った。

「世界樹展開ーー」

そうだよ、これだ。

頭の中に、機械音がずっと流れていた。モールス信号で、ずっと“世界樹”と言っていた。

「何だよ、世界樹って?!」

シオンは下がった。

「樹竜ユグドラ・ヴェルデ」

世界最強の竜種の7体。

森羅万象を司る神話の大樹ユグドラシルを守る守護神。

「な、なんと〜〜っ、ドライアドの魔法は、進化ていたっ!!!」

司会が熱狂して状況を整理しようとした。

「くっ…」

制御が難しく、今の僕には出来ることは限られていた。

そして高みの見物のように飛ぶ竜に念じる。

壊せ、ここの全てを。

『グゥアアアアアアッッ!!!』

ヴェルデの口に、魔力が溜まる。

「ま、待ってくれっ!!」

シオンが手を挙げ、懇願した。

「…アザミさんの凄さが分かるな」

こんなのが、撃たれていたら全滅だった。

翠天穿モード・カタストロフィ

竜が放つ破滅の技は僕の身に余るの程強力だった。

放たれたビームのようなものは式神に触れた瞬間に、粉々に破壊し、シオンへと向かった。

「終いだ」

もっと制御が出来たら、自由にヴェルデの魔法を扱えるのか。そう勝ちのアナウンスを待っていた時だった。

ーーそのビームは彼の体に当たることは無かった。

「太陰展開ーー反転」

太陰魔法、それは陰陽師が持つ、2つ目の特権。

あらゆる攻撃を反転させる、反則じみた技。

三角形の魔法陣がシオンの前に現れ、ビームを完膚なきまでに跳ね返した。

「調子に乗るお子ちゃまは、こういうのが1番効くから」

ーーシオンはずっと今まで演技だった。

「ふざ、けんなよ」

太陽のように輝く翠天穿は僕とヴェルデを貫き、虚無の世界へと葬送した。

音だけが、僕の耳に残っていた。


“白の境地”領土にて、ある男は調べていた。

「うーん、情報統制かな」

彼はなぜ四天王の魔族の死亡が、世間に語られていないのか疑問に思っていた。

そして出した結論は「ギルド統括委員会による情報統制」だ。

「あ」

遠隔映像の個人大会の中継を流しっぱなしにしていると、丁度ドライアドとシアンの戦いが流れた。

「…君の動きに葛藤が見える」

世界樹へと進化した魔法を扱うドライアドを眺め、呟いた。

「強くなって、僕を抜かすことを心配してるのかな」

彼は笑った。

「ダメだね、僕は。弟子があんなに頑張っているのに、僕は右腕を失ったくらいで諦めてさ」

テラスに優雅に左手で紅茶を飲む男ーークオンは言った。

「待っててね、ドライアド」

カタンとテラスの椅子が揺れ、その音が静かな領地に響いたーー。

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