第12話 決裂の回帰

「おっとおおお〜〜!!大逆転の末シオンの勝利〜っっ!まさか陰陽師だったとは!」

司会が僕とは対象的に明るく実況する。

「まさかの最強の竜種の登場で熱くなりましたが、第3回戦いきまっしょう!!」

進化の卵が孵化し、新たな魔法体系となった僕ーードライアドは、尽く敵のシオンにやられてしまった。

あれほど威張った態度を取っていたのに、あっさり負けるのが凄く居た堪れなかった。

息を切らして闘技場を抜け、一直線に宿へと戻った。

「あぁ、あああぁ」

悔しい気持ちと怒りが混じりあった。

もうこのままいっそ国外へ逃げて、新たな生活を始めてみようかーー。

ベッドをバンバン叩き、抑えきれない爆発的な衝動を発散した。

「ちょっと…うるいんですけどドライアドさん」

振り向くと、そこにはアルメリアが立っていた。

「入ってくるなっ!!」

「ドアがオープンされてたから入ったのにい」

アルメリアはぷくっと顔を膨らませた。

彼女のメンタルの回復速度はどうなってるんだ。

「とにかく帰れストーカー」

僕は花瓶を掴んだ。

「あ、違くて、たまたま見かけたから追いかけて、待ってください!!帰りますから」

ドアを閉め、アルメリアは外へ出た。

「こっから話しますね。実はクオンさんも修行を始めたらしいんです。それで、やっぱり右腕が使えなくて苦しんでて」

ドア越しに、籠った声が響く。

「それで?僕が何か励ましてやれと?」

「いえいえ…ただ世界樹魔法って、神話によると損傷した人体も再生させられるらしいんですよ」

アルメリアが嬉々として話した。

「すれ違いは、プレゼントと一緒に和解しましょ?」

いざ自分事の地雷を踏んでくるのはかなり憤る。

「…去れアルメリア」

これ以上は居ることが出来ないと、流石の彼女でも分かったようだ。穏やかに返事を短くし、宿を出ていった。

「ダメだ…このままだともう僕が僕じゃなくなる」

悲しい時に人が傍に居なければ、人格がおかしくなる。その言い伝えはあながち間違いではないかもしれない。

《警告:人格乖離》

負の感情が一定を超えると魔族となる。

その予兆が今、頭の中で反芻した。

そして僕は何も考えずにただ歩き出した。

雨が降ろうと、喉が渇いたと、腹が減ろうと、お構い無しに。ただただ歩く。

あれほど晴れていた空も今では真っ暗となり、夜の足音を告げていた。

それでも僕は強くなろうとすることを辞めなかった。

何も考えずに、ただ世界樹魔法の“文字付きの魔力”を開発していく。どのような魔法にしようか、と。

そしてアルメリアの言っていた“再生”についてもある程度の所まで言ったが、そこから先は頭が動かなかった。

体の底から拒絶していたのだ。

「ここ、どこだ」

気づけば王都から離れた大きい湖まで来てしまい、いよいよ帰れなくなった。

「はは」

力なく笑い、そこに座り込む。

アルメリアはどのようにして精神を保ったのだろう。大切な人が居なくなるのは、きっと耐え難い。

雨が僕の頬を濡らす。

「…」

湖が、僕を呼んでいるような気がした。

「今、行く」

朦朧としていても、足は前に動いた。

ゆっくりと、ゆっくりと水面に近づく。

「何やってるんだい、ドライアド」

湖の上を渡ってきたのは、他でもない、右腕が使えないクオンだった。

「あ…領土の反対側だったのか」

ここは“白の境地”の領地にある湖だったのだ。

「質問に答えてよ。何してたんだい?」

クオンは暗闇に隠れて、あまり顔が見えなかった。けれど、声色は震えていた。

「喉が、渇いた」

「嘘をつくなよ。死のうとしていたよね?」

ズキっと心臓の奥が鋭い痛みに襲われた。

「ふざけるなよっ!!」

クオンは岸に渡り、僕の頬を叩いた。

「…何だよっ!!今更団長面しやがって!!僕はクオンの為を思ってこんなにも頑張ったのに…っっ」

彼を守るために、わざわざなれないことをしてまで、距離を取ったのだ。

大切な人が、自分のせいで悲しむのは1番嫌だから。

「それなのに…っ何?世界1位を目指すことを諦めたって?諦めてねえよ!!」

雨の音だけが、僕たちのやりとりを見ていた。

「ふうん?急に一丁前に大会なんて出ちゃってさ。自分の力に溺れたんじゃないの?」

クオンは僕を睨んだ。

「溺れてない…っ。どれだけ僕が苦しんだと…」

クオンの実力を目の当たりにして、隣に立つためには相応しい力が必要だと、ずっと思っていた。

だから、葛藤して、挑戦して、悩んで、突き進んで。

勝手なことを言うなよ。

「世界樹展開っーー禁術・生命の恩寵」

だから、勝手に僕の隣から居なくならないでくれ、クオン。

団長が戦えなくなって、生きる希望を失っても、何度でも僕は背中を押す。

何度でも僕は、団長を治す。

勝手に再度、スタートラインに立たせるんだ。

「だからお願いします団長…っ。僕と共に、世界1位を取ってください」

ずっと、流したくて流せなかった物の全てが、今僕の脆いガラスから溢れ落ちる。

そして間もなくして、クオンの周りから大樹が生成され、根が彼の右腕に巻きついた。

「完全…再生…?」

彼が呆気を抜かれたような顔で、自身の体を見つめる。

僕はようやく分かったんだ。何のために僕が“白の境地”に居るか。

クオンを最強にするための鍵が、僕なんだ。

「とんだサプライズだ、ドライアド」

クオンも大粒の涙を零した。

「僕もですよ。まさかあの窮地で、手を差し伸べてくれるなんて」

きっと彼じゃなかったら、僕を見つけても助けないだろう。それ程まで、クオンの立場からしたら僕は酷いことをしたのだ。

クオンの右腕には魔力が通るようになり、やがて顔が綻んだ。

「…個人大会、見たよ。やっぱりーー」

クオンが夜空に照らす月を見上げた。

「僕が必要みたいだね」

彼は僕に笑いかけ、手を伸ばした。

僕もそれを受け取り、しっかり握った。

禁術の代償は、確かに僕の右腕を奪っていたーー。

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奇策の魔術師、頂に登る 鹿の子 @Shikanokonokonoko

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