第10話 代償

あれから、毒の大元だった魔族ネブラ・ノアが死んだことにより、黒く染まっていたクオンとアルメリアの体は元に戻った。

そして“情報屋”の他のメンバー達が古城まで迎えに来てくれ、僕達は無事王都に戻れた。

「…今回の事を心よりお詫び致します」

病院の一室に居るクオンと僕とアルメリアに、

任務を伝え渡したギルド統括委員会会長ーーソロは頭を下げた。

「ソロ、君は間違った決断をしていない。ただ弱かった僕の原因だ」

クオンは笑って許した。

「結果論ですが…1つの巨悪を討ち取ったので、謝る程ではないと思います」

僕も同様に、ソロを許した。

「ふざけないでっ!!返してよリーダーをっ」

アルメリアは布団をくしゃっと掴んだ。

それを見たソロも、申し訳なさそうに俯いた。

「アザミさんはきっとーー」

ソロは慰めようと試みたが、火に油を注ぐだけだった。

「何っ?!そうやって人の命を軽く扱ってっ!!」

彼女は苛立っていた。

神は理不尽にも戦える魔法をアルメリアに授けなかった。

神は理不尽にもアザミとの別れにアルメリアは立ち会えなかった。

神は理不尽にもーー。

「…死んでしまえ」

流石に言い過ぎだと僕は思ったが、クオンは何も言わなかったので、僕が言うのもお門違いだろう。

彼女の痛みは、彼女にしか分からない。

「…許してくれなんて甘い言葉は要りません。ただーー本当に強くなりたいのならば、また私の所に訪ねてください」

そう言ってソロは病室を出た。

窓越しに差した太陽が、酷く眩しかった。

「…実は僕も、ドライアドに強く嫉妬してるんだ」

クオンが悲しげに呟いた。

「なんでですか?」

僕は驚いて体を起こした。

「…君はどれだけ僕が努力したか知らないだろう?なのに新参の君に抜かされたのが悔しいんだ」

妙に、彼は後ろ向きだった。

いつもならそんなことも気にしないくらいポジティブに、「それは強くなれることを示している」と言うのに。

「…クオンさん何かあったんですか?」

僕は無言でこの話を終わらせようとしたのに、布団に包まっていたアルメリアは、ひょこっと顔を出して言った。

ああ、また地雷を踏みやがって。

「ふふっ…君なら聞いてくれると思ったよ」

クオンは静かに語り始めた。

「真空術は、本当はまだ未完成だったんだ」

真空術、それはクオンの全力の魔法だ。

「無理やり術式を、マナで創り出したんだ」

基本的に、魔法の方向性を決める、“文字付きの魔力”というのが術式に使われる。しかし、クオンの真空術の“文字付きの魔力”は未完成だったので、ただのマナを用いたのだ。

「そう、君たちが想像しているように、それは体の負荷を大きくかけるものなんだ」

アルメリアは問いた。

「もしかして、その右腕?」

確かに彼女の指摘通り、クオンの右腕に、魔力は通っていなかった。

「ま、突然の代償さ。ほんと恥ずかしい限りさ」

そうかーーこんなにやったのに、倒したのが複製体だったのが悔しいんだ。だから、行き場のない悔しさを、僕にぶつけている。

「…正直言うと、今は誰とも話す気は無い」

腕に魔力が通らないことは、実はかなり深刻なのだ。

魔法は、腕に魔力を通して放つので、思ったよりも腕は大事なのである。だから、これからは魔法の並立起動は出来ず、左腕、つまり同時に1つの魔法しか使えない。

戦うことが何よりも生きがいの彼に、これ以上の苦痛は無いだろう。

「…クオン団長」

どうせ今のクオンは戦えないし、向こうも僕と関わりたくないだろう。だから此方も、相手を思って距離を置きたい。

「個人大会に出てもいいですか?」

ギルド同士の対決ではなく、個人。

「はは…戦えない弱い僕は用済みだって?いいよ行ってきなよ」

クオンは僕と目を合わせてくれなかった。

「共に世界1位を目指そうと言ったのに」

彼は目頭を手で抑えた。

諦めた訳じゃない、見捨てたわけじゃない。ただクオンの為に距離を離したいだけなんだ。

それに僕はクオンより強いだなんて微塵も思っていない。

伝えたかったのに声は出なかった。声が出ないのに、伝えたい言葉ばかりが頭に浮かぶ。

「ドライアドさんは、強くなる度に何かを失うんだね。私と逆だ」

弱くなる度に何かを失うんだと、アルメリアは泣いた。

「ごめん」

僕はただその一言を残して病室を去った。

これは最も、自分を苦しめる拘束だと分かっていながら。

僕の人生を変えたのは、クオン団長、ただ1人なのだ。誰が見捨てると言うのだろう。

強くなる為には命すら惜しまないクオンにとっては、もしかしたら理解出来ないのかもしれない。

《進化の儀式:進行中》

強くなるためには、腹の底から湧き出る感情がトリガー。

《進化の儀式:終了準備》

強くなるためには、何かを捨てるという切り捨ての覚悟。

《進化の儀式:間もなく終了…》

強くなるためには、過去をも忘れる狂気の笑顔。

《進化の儀式:終了》

《新たな魔法体系の獲得》

そうやって、“クオン”という人格が形成されていったのだと、僕は改めて認識したーー。

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