第9話 師匠の教え
「う、そでしょ」
僕は口を手で覆い、尻を着いた。
「…何度でも倒すまでだ」
既にクオンは足が震えており、全力を出し切ったようだ。
「影展開ーー百鬼夜行」
地面から骸骨やアンデッドは当然、この古城で死んだ動物ですらも悪の権化となっていた。
「私だって戦えるんですもん!コピーなんてして隠れるような真似はしないです!」
この馬鹿野郎。流石に地雷少女に今は突っ込めないぞ。
「影展開ーー悪夢の狂想曲」
古城は夜に包まれ、光も魔力も何も感じなくなった。目を瞑っている時の視界がずっと見えている。
「何も出来ずに終わるのだ、お前たちは」
周りは真っ暗で見えないため、どこからアンデッド達が攻撃してくるか分からない。
それに加えて、僕は“地面”を認識出来ていないため、大樹すら生成出来ない。
「この空間を破る魔力はギリギリあるけどね」
クオンが見えない敵を正確に殴っていく。
僕とアルメリアは、倒れているアザミを守るように囲み、攻撃を受け凌いだ。
「けど、コイツは今ここで殺さなきゃマズイかもね」
クオンは静かに呟いた。そして魔法を唱えた。
「空術展開ーー空間支配」
なぜ団長は弱い魔法を使ったのだ?
しかしそれは杞憂だった。
「ほう…俺の影を更に上から囲んだのか」
古城全体を、クオンの生成した空間で閉じ込めたのだ。
「空間は脆い。それは、僕自身が最も体感していることだ」
深く息を吐いてクオンは手首を捻った。
その時、覆っていた影は綺麗に消え落ち、アンデッドとネブラが肉眼で捉えた。
「影展開ーー複製体生成」
ネブラが真っ先に自身のコピーを作り、それは2体、3体へと生まれていった。
「倒す…倒すのか、あれを」
僕が見上げた先にいる怪物を、限界を迎えたクオンと共に倒すのか。
「に、逃げてください!」
アルメリアが叫ぶと、ネブラとそのコピー達は両手を翳した。
「影は我らの味方なり」
彼らが詠唱をすると、夕日で照らされて作られた僕らの影から魔族が出た。
「今度こそ、毒で死ね」
根よ、コイツを貫け。
「ぐあああ」
大地より突出した鋭い根が魔族に突き刺さるが、感触は無かった。
「くそ、複製体か」
そいつは灰のように粒子になって消えた。
クオンとアルメリアは敵襲に気づかず首元に爪を突き立てられ、毒を入れられた。
「黒く染まっているっ…!」
団長は首元から黒い何かが螺旋状に広がる。
アルメリアも同様だ。
「やっちゃったなあ…ごめん」
クオンは吐血をし、地面にひれ伏せた。
「姑息魔族は、死ぬべき、です」
アルメリアも嘔吐を繰り返し、倒れ込んだ。
「俺の全力で終わらせてやる…深淵展開ーー暗黒竜」
古城にある全ての影が天空にて集まった。
「《進化の卵》こそが鍵なのに…」
力なく僕は言った。
集まった影はやがて形を成し、竜の姿へと変貌した。
『グォォォォォッッ!!』
ーー神話の王都起源の章にて、最強の竜種が7体観測されている。
そのひとつが、影と闇を司る不死身の竜、暗黒竜。
竜が咆哮した時には、諦めを悟った。
「…ドライアドくん、竜は私がやろう」
さっきまで気絶していたハズのアザミか腹を抑えながら微笑みかけた。
「!!良かった、生きてて…っ!!」
思わず涙が零れた。
「僕が戦っている間にーー」
「…大人が守るものはいつだって」
君たち子供なんだよ。
人格者ーーただその一言が僕の心を埋めつくした。
亡き城、そしてここに居る全ての生命に告げる。アザミという男は誰よりも勇敢だったと。いつまでも後世に語り継ごう。
「魔道具ーー封印魔晶石」
彼がバッグから取り出した小さな、破片はやがて青白く光り、竜を囲う魔晶石となった。
表面には魔法で作られた文字が彫られていた。
恐らく“情報屋”のみが知っている魔言だろう。
アザミと封印された暗黒竜は、古城の地面の中へと吸い込まれていった。
「お前を…殺してやるっっっ!!!」
《進化の卵:60%》
この前図書館へ訪れた時に調べたことがある。
進化の数値を上げるには、新たな魔法の開花、自己の精神の成長が必要不可欠となる。
そして最後のトリガーとなるのが、腹の底から湧き出る“殺意”だ。
《進化の卵:95%》
「やりやがったなこのクソジジイッ!!」
金切り声を上げるネブラを僕は睨んだ。
「んだよ雑魚」
直にクオン、アルメリアは毒によって死ぬことが確定しているので、ネブラは油断していた。
油断。それは、勝負に置いて最も命取りなこと。PvP対戦において、身をもって実感した。
「やっぱりーーラストは魔法の成長だよね」
樹木展開ーー森の恩恵。
今回は、矢のみを生成する。
「あん?弓は?」
弓ではどんなに頑張っても5連射しか出来なかった。
「要らない」
もしも、魔力による操作が可能なら?
「はは!ついに狂ったか」
もしもーー自由に操れたら?
さあ浮かべ、矢よ。
「宙に、浮かんだ?」
ネブラは呑気に屋根に座りながら眺めている。
1つ、2つ、3つ。
「4つ、5つ」
6つ。
「魔力を帯びた矢なんて聞いたことない」
忌々しき魔族は感嘆を漏らしていた。
「行けっ!!!」
1つ目の矢は、追尾。
「ちっ、面倒な」
防ぐことはせず、ネブラは立ち上がって避けた。
2つ目の矢は、死角から。
「魔力反応で分かんだよバーカ」
いとも簡単にネブラは避けた。
3つ目と、4つ目は同時に2方向から。
するとネブラは片方のみ腕で防いだ。
「貧弱な矢如きが、俺を殺せると思うなよ」
5つ目は、攻撃を受けた腕と同じ方向から。
案の定、再びその腕で防いだ。
6つ目は、術式を記して再度放つ。
「クソがっ!」
素早くスパンを無くしたため、体勢を戻すことは出来ず、またもや右腕で防いだ。
「広がれ大樹よっ!」
矢が防がれる直前に魔法を発動させ、奴を縛る。
「引き裂け!!」
そしてその言葉に警戒したのか、首に巻き付かれた大樹の根を両手で掴んだ。
勝利を、確信した。
「7つ目の、矢?」
ネブラが眼前に迫る矢を見て言った。
「君は、魔力探知に頼りすぎてしまった」
ただの弓から放たれた矢を、感知していなかったのだ。
クオンがいつも言ってた。
「油断というのは、此方がさせるものなんだよっ!」
ネブラの額に、一筋の矢が刺さった。
ドンッという音を立てて、ネブラは膝を着いた。
「俺の魔力が…抜けていく」
無惨にも体の崩壊は始まっていく。
「なぜだ…俺は四天王だぞ!!」
きっと、真正面から勝負をしたら、叶わなかっただろう。
「四天王だからこそ、じゃないかな」
僕は容赦なく念じた。
今度こそ、魔力を込めて。
「引き裂け」
ネブラに巻きついていた大樹はミシミシと締める音をたてながら、1つの命を葬っていった。
《進化の卵:100%》
《進化の儀式へ移行》
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