第8話 崩壊の道標
「探検、探検〜」
アルメリアが声を弾ませながらスキップをした。
「なんて言うか…クオン団長の第一印象と、全く一緒です」
僕は情けなく笑った。
「というと?」
アザミが尋ねたため、丁寧に当時の事を教えた。
「…緊張感の無さは似てますね、確かに」
最終的にはアザミも苦笑する羽目になり、クオンとアルメリアは、顔を見合せた。
「うげえ、僕がこんなヤバめの子と似てるってわけ?」
「はい。危なっかしくてほっとけないと言うか」
理由を解説すると、クオンは僕を睨んだ。
「それはこっちのセリフね。一体どれだけ僕がドライアドに心配したかーー」
冷たい、空気が冷たい。
振り向いて確認出来ない。
クオンの隣にーー魔族の魔力を感じる。
「お前がクオンだな?」
低い声で圧迫感がある。それに、ノクスのように、四天王特有の何かがある。
「ドライアドっ!皆を逃がして避難し」
クオンが言い切る前に、その魔族は先制攻撃をした。
勢いよく振り返ると、短剣を握った暗殺者のような魔族が見えた。
「これが魔族かっ!!」
アザミはかっと目を見開き、その光景を焼き付けていた。
「あー周りが邪魔だな」
その魔族は魔法を唱えた。
「影展開ーー消失」
その瞬間、僕の隣に立っていたアザミの腹に穴が空いた。
「アザミ!!」
僕が駆け寄って叫ぶと、アザミは地面に崩れ落ちるように倒れた。
直ぐにアルメリアがバッグから何かを出した。
「魔道具ーー回復の唄」
彼女が出した壺から緑色の何かが辺りを覆った。
「アルメリア、これは?」
「魔道具です。リーダーが、魔法がゴミでも、これは皆使えるからって」
大粒の涙を零して言った。
死んだら嫌だよ、とも。
「…悪いけど逃げる訳には行かないね。僕だって覚悟は出来てるさ」
樹木展開ーーユグドラシル。
急速に成長する大樹の幹の中に彼らを入れた。
僕は戦うために来たのだ。隠れて待つなんてことは、もう絶対に。
「したくないっ!!!」
根よ、彼奴を縛って殺せ。
「…へえ、たまにいるんだよね」
魔族がクオンから離れて僕に急接近した。
「雑魚なのにイキがるヤツ」
根が、乗っ取られたーー?
「ぐ、あああっ」
大樹の根に魔力を送って操作していた手が、黒く染まった。即効性の毒か。
「眠れ、クソガキ」
僕は平衡感覚が保てず、よろめいて倒れた。
手から徐々に体全身へと黒く染まる。以前のタチバナの魔法よりも、遥かに強力だ。
ああ、死ぬのか。何も出来ずに。
「何やってんだよ、クソ魔族」
ただただクオンの怒りが聞こえる。
大地が震えた気がした。
「ははははっ!流石だクオン!」
クオンの大気装甲での攻撃も片手で受け止められた。
「お前も共に堕ちよう!!」
掴まれたクオンの両手は僕と同様に黒く染まっていく。
ダメだ、視界がもう開かない。
「ドライアドっっ!!アルメリアが撃たれるっ!」
疲れた、起き上がれない。
「終いだ、幹に隠れる羊共が」
ユグドラシルが生えている地面から影の空間が出され、どんどん飲み込まれる。
ごめん、僕は守りきれなかった。
「はっ…この僕を誰だと思っている?“白の境地”団長だっ!!」
空間なら空間をぶつける。
「空術展開ーー空間掌握っっ」
影の空間を、クオンの空間で閉じ込める。
「あーあ、全員死んだよ」
魔族は手首を曲げると、掌握した空間は黒いヒビが入り、クオンの体内に逆流して、毒が巡る。
「がっ…」
クオンも膝から落ちて、白目を剥いた。
「大したことねえ。まるでアリとじゃれ合ってるみたいだ」
まだ幹は飲み込まれている音がする。
それに、なぜかまだ僕は死んでいない。
「団長のせいだ…“白の境地”に泥を塗るなんて、絶対に出来ない」
暗黒に飲まれた僕の体は制御を失っているけれど、魔法は使える。
無意識に体が起きた。
「樹木展開ーー吸力樹…」
僕は、限界の先へ行く。
「あん?なんだあの樹は…」
魔族が此方へ向かって歩き出した。
「マナでも魔力でもない…魔法そのものを吸うんだよっ!!」
以前ーークオンと戦った時に学んだのだ。
幾つも魔法のバリエーションを増やして、穴が無いように、完璧な魔法体系にするのだと。
「影が吸われてる?」
魔力を見る限り、アザミやアルメリアはまだ生きている。
「団長…後は託します」
「…ああ」
いつの間にか、クオンが血を垂らしながら僕の横で構えてるのに気づいた魔族は驚いた。
「なんで生きているんだ?お前たちは」
「理由なんて無いでしょ。ただ気に食わないやつだけを潰したいから」
クオンは術式を大きく描いた。
「まさかお前、これまで一度も本気を出したことが…っ!!」
情報は何処から漏れているか分からない。だから、クオンは今まで全力を出さずに戦いに挑んできた。
「悪いけどーー負ける気なんてハナからないよ」
真空術展開ーー虚空断絶。
「影も魔族も毒も傷も人間も、皆等しく“空気”なのさ」
クオンは狂気に満ちた顔で笑っていた。
「ま…待て」
魔族は魔力暴走をして、逃げようとした。
クオンの前で蠢く何かから。
「遅いよ、雑魚」
それは本当に一瞬だった。
古城で起きた全ての事柄が、何も無かったように飲み込まれた。
魔族によって付けられた傷も、毒も、万物全てが虚空へと消えた。
それは、かの魔像も同様。
「さあ、じゃあ帰ろうか」
ユグドラシルさえ彼方へ消え、アザミとアルメリアが呆然と立ち尽くしていた。
「…いや、ほんとクオン団長凄いです」
一筋の光が僕の目から落ちた。本当に、今回ばかりは死ぬかと思った。
「多分今のが“影の刺客”ネブラ・ノアだよね」
ぐっとクオンは伸びをした。
そして、敵が独りだと思い込んでいた僕達は、確かに油断していた。
夕日の前の、天気雨のように。
「俺の複製体倒した如きで何調子乗ってんだよ」
住宅の跡の屋根に、先程と全く一緒の魔族が座っていたーー。
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