第7話 崩壊の序章

「あ!やべ、忘れてた!」

クオンは思い出して、飛び上がった。

「他の団長がお待ちですよっ。また怒られても知りませんからね!」

ギルド入団試験にも遅刻したクオンは、実は沢山の団長に怒られていたのだ。それでトラウマを覚えたクオンは、二度と遅れないと誓っていたのに。

「団長…自業自得ですね」

僕は苦笑して、彼を送り出した。

「さて、僕は何をしようかな」

続けて試合をして、《進化の卵》とやらを上げるのも良いかもしれないが、偶には勉学に励むのも良いかもしれない。

ということで、王都の有名な図書館に行き、魔族について知ろうと思った。

「…人間の負の感情が一定値を超えると、魔族へと変異する。そして極稀に、魔族からまた別の種族に変異することもある、と」

人格や、魂を保てなくなった場合、魔族はアンデッドのゾンビ等に堕ちる可能性があるらしい。

「今観測されている、勢力を奮っている魔族は、“時空の覇者”四天王ノクス・スタシス、“影の刺客”四天王ネブラ・ノア。そして魔王モルド・エクリプス」

まだ台頭して来ていない最強種が居るのも知った。

「魔弾を使ってたノクスは、なんで“時空の覇者”なんだ?」

ぶつぶつと独り言を呟いていると、それを見兼ねた男性が声をかけてきた。

「図書館は静かにしようね、少年」

読書に没頭しているその男性はにこやかに笑った。すいません、と謝罪し、軽く頭を下げると彼は下がって行った。

「(気配がカリュスに似てた?)」

けれど殺意は一切感じないし、魔力は魔族のように異質では無い。最近、そのように疑心暗鬼ばかりしている。

悪い癖だなと自覚しつつもつい、思ってしまう。

「やあドライアド!お待たせ!」

かれこれ数時間文献や資料を見ていると、クオンが戻ってきた。

「ずっと思ってたんですけど、どうして僕の居場所が分かるんですか?」

「そりゃ魔力を探知すれば分かるでしょ」

つまり何処に居ようがクオンには分かると?なんと恐ろしいことなんだ。

「あのおー静かにしてくれますか?」

先程の男性が僕らに再び注意した。

「すいませんっ!」

今度は深々と頭を下げた。

「ほら、クオンも…」

彼にも謝らせようとすると、クオンは男性の前にある空間を見つめていた。

「何か?」

不思議そうに男性が尋ねると、クオンは、はっと現実に帰ってきた。

「お兄さんもしかして陰陽師だったりします?」

唐突にクオンが聞くと、少し間を空き、男性が眼鏡をクイッと上げて答えた。

「…いえ。どうして?」

「ふーん、ま、いっか」

男性からクオンは目を背けると、踵を返した。

「これから調査に行かなくちゃ行けないんだ。なんか古城らしいんだけど」

クオンは僕の手を引き、そう言った。

「あ、旧帝国城跡ですね?」

「なんでわかんのさ!」

僕の数時間分の結晶に驚いて、彼が出口の前で止まると、管理員の方が注意した。

「お静かに」

いたたまれない雰囲気の中、会釈して外へ出た。

「もお、皆短気だよね」

クオンは管理員に向かって舌を出していた。

「今回は100僕達が悪いですけどね」

そして図書館を離れ、ギルド統括委員会から指令を受けた“白の境地”と“情報屋”が、北の城門に集まった。

「初めまして、アルメリアと申します。クオンさん、ドライアドさん、宜しくお願いします」

丸眼鏡を掛けて、いかにも文学女子のようだった。

「同じく“情報屋”の団長、アザミだ。本日から始まる遠征調査、よろしく頼む」

猫のような灰色の髪で、一際目立っていた。

それより、かなり長い時間調査することを知り、クオンに耳打ちした。

「めんどくさいやつですよね?」

「…これやったらギルド戦の謹慎処分返してくれるらしいから」

どこまでも、彼は世界1位を取ることしか考えていない。ここまで来るともはや凄い。

「“白の境地”団長のクオンだ。僕は天才で無敵だから、何でも頼るといい」

「同じく“白の境地”のドライアドです。不束者ですがお世話になります」

ぺこりと礼をすると、アザミが目を薄めた。

「…もっと礼儀がなって無いギルドだと思ってたよ」

そう思うことは仕方ないと、僕も思ってしまう。

「ちょっとリーダー、失礼ですよ!こんなに清々しく小馬鹿にした態度を取るのは一種の才能です!!」

うわあ、この子地雷踏みに行く系女子だ。

思わず顔を引き攣らせてしまった。

「…君たち!今回の調査はどれだけ危険になるか分かってないでしょ!」

珍しくクオンが、説教を始めた。

「魔族が出るっていう噂があるんだよ?戦えない君達を守るのは誰さ!」

魔族が出るのか。僕は唾を飲み込み、肩に力が入る。

「他でもないドライアドさ!!」

え?

「失礼ですが、ドライアドさんって初心者じゃないんですか?この間選抜試験に居たのを記憶していますが…」

地雷少女アルメリアが聞いた。

「うん、でもここ短期間でかなり強くなったよ。そうだね、魔族の四天王と、10秒なら渡り合えるくらいに」

クオンが僕の肩を持ってくれ、誇らしげに語った。

「ふむ…それは凄いな。我々は2秒すら稼げないというのに」

アザミも僕のことを褒めてくれ、鼻の下が伸びてしまった。そう、大樹の根のように。

「さ、そろそろ行こう。このままだと、ドライアドの死亡フラグが立ってしまうから」

クオンはネタとして茶化してくれたが、上手くやったな、と感じた。僕の株を落とさず、尚且つ僕の心配もする、という策士ぶりを見せた。

「あー、でもドライアドさんって結構有名だったかも。確か奇策の魔術師で」

アルメリアが、幾つの地方も離れた古城へ歩きながら呟いた。

「奇策の魔術師?」

僕は聞き返すと、彼女は大きく頷いた。

「ええ。PvP場でふらりと現れた期待のルーキーだとか」

クオンの言う通りだ。このままだと、僕は調子に乗ってしまうかもしれない。

「アルメリア嬢、そんなことより見てご覧、この壮大な景色を。最強の僕が居なければこんな景色は見れなかったよね、ね」

果たしてそれは嫉妬なのか。クオンはアルメリアの手を取って、走り回っていた。

「ふ…ドライアドと言ったか。我々は感謝してるんだよ、戦える君たちに」

アザミは温かい眼差しで、彼らの光景を見ていた。

「“情報屋”は、どんな魔法を扱うんですか?」

「簡単に言うと、ゴミのようなものばかりだ。ガラクタが集まるギルドさ」

時折悲しげな表情を見せるアザミは、苦労していることが垣間見えた。

「だから、実はあの入団試験の日、君は誰にも選ばれなかったから、僕らが取ろうと思ったんだ」

「…ならなぜ取らなかったんですか?」

「ドライアドくんは、戦いたそうな顔をしていたから。非戦闘ギルドが取るべきではないと、直感的に思っんだ」

アザミは、その大きな手で、僕の頭を撫でた。

「きっと、つらいことも、苦しいことも沢山ある。でも、その度に君は強くなる。大樹のように、ね」

《進化の卵:40%》

「は…はいっ!」

涙が零れてしまいそうだったが、ぐっと堪えた。

それから何日も野宿とウォーキングを繰り返し、断腸の思いでやっと辿り着いた。

「ここが古城っ…」

アルメリアが感動に震え、声を出した。

そびえ立つ旧帝国の城門。周りは夜の木々が覆い、満月が空に輝く。

城内に入ると、そこは“跡”だった。

昨日まで人が居たような感じでは無く、もう形は崩れ落ち、ただただ残骸となっていただけだった。

「さて、調査を始めようか」

クオンがパンっと手を鳴らすと、僕は手を挙げた。

「何を調査するのですか?」

「あれ?言ってなかったっけ?古代遺跡へと続く入口を見つけるんだよ」

聞いてませんけど、そんなの。

「…まあ細かいことは置いといて、レッツゴー!“白の境地”からは離れないでね!」

アザミとアルメリアは軽快に足を動かし始めた。僕も渋々後を追った。

この時は誰もーーここで「崩壊の始まり」が起きるなんて知る由もなかった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る