第6話 進化の卵その2

「はは!そりゃ災難だったね」

翌日、クオンのお見舞いのために王都の病院へ赴いた。しかし、かなり元気な様子だ。

そして昨日、“魅惑の花園”の団長とPvPしたことを伝えた。

「盲目の条件は、一定の高さを保つだと思ったんですけど」

「良いとこはついてるね。でも、僕が答えを教えたらつまらないだろう?」

彼はバスケットに入った林檎を1口かじった。

「はい。必ず次再戦する時は、見破ってみせます」

決意を胸に、宣言した。

「うん、励むといい」

「ところで、《進化の卵》って知ってますか?」

「おお!遂に出たのかい?」

クオンが急に瞳を輝けせて体を乗り出した。

「ええ…」

「それはね!万能な魔法体系にする為に、神様が貸した達成値だよ!」

よく分からず、首を捻っていると、クオンが続けた。

「つまり、《進化の卵》の数値が上がる度に、その人は強くなって、100%になった時には、無敵になってるってこと」

ピンと人差し指を上げて説明してくれた。

「クオン団長は幾つなんですか?」

「70%さ。まだ強くなれるなんて面白いよね」

きっとーー限界を決めつけないからこの人は強いんだ。だからこそ、団長にもなれた。

「そうだ、明日くらいに僕ともやらないかい?」

「いやいやいや、またぼろ負けですよ?」

昨日の悪夢が蘇り、身震いをした。

「ハンデはあげるよ。うーんそうだな、じゃあ僕は最初の1分間動かないはどうだい?」

自分自身にも縛りを課すことで、またそれが進化の種となる。

「いいですね。でも怪我の方は大丈夫なんですか?」

「全く大丈夫さ」

無理はさせたくないと感じたが、クオンが言うので大丈夫だろう。それに仮想結界だから。

次の日、対戦場でクオンと待ち合わせると、約束通りの時間に来た。

「さあ早くやろう!」

彼は僕の手を引っ張って、水晶に触れさせ、強制的に仮想空間へとワープした。

もしやこうやって誘拐が起きているのでは?と思ったりもした。

「それじゃあ、今から1分間は、動かないね!」

両手を広げて、胸を顕にした。

まさか僕が殺せないとでも思っているのか。

もう今までの僕なんかじゃない。

「悪いけど、ハンデなんか要らなかったかも!」

樹木の弓を生成し、思いっきり矢を撃つ。

「わあ!成長してるね!」

けれど矢は虚空に消え、状況の理解をしようとしている時に、また現れ、今度は僕の方へ向かってきた。

そうか、動かなくても魔法は使えるのか。

「くっ」

サイドにステップし、避けた。

「5連射だ!!」

5本指で器用に弓を引き、同時に5本の矢がクオンに向かう。

「うんうん、戦いの中で人は強くなるからね」

またしても矢は消え、此方に向かってきた。

「こんなに空術相手がやりづらいなんて…」

避けきれず、1本の矢が肩に刺さってしまった。

「もう弓は引けないよね。次行こう!」

激痛が走り、弓を落としてしまった。

考えるんだーー。

「樹木展開ーー大樹生成!!」

ノクスの時のように、地面から生やして、クオンの心臓を貫けば勝てる。

その考えが一瞬にして閃いた。

「君1パターン過ぎて面白くないよ。空術展開ーー空間支配」

大樹が思うように成長せず、透明な立方体の部屋に閉じ込められてしまった。

こんなに魔力が伝えられないのは初めてだ。

「これもダメか…どうすれば」

「はい1分過ぎたよ。僕を越えられなければ、到底世界1位なんて無理だね」

悲しげな表情が伺えたのは気のせいだろうか。

以前、僕は、クオンは僕に期待していないと思っていた。けど、それは完全なる被害妄想だったかもしれない。

「…クオンの為に、殺す、か」

共に頂きを見ると決めたから、逃げてはいけない。

「さてと、僕も試したいことがあるんだよね〜」

軽やかな声が前方で聞こえた。

「空術展開ーー空間掌握」

ノクスには、空間支配は通じなかったから、その魔法を1段強くしたっていうことか。

支配空間は辛うじて魔法は使い手によって出せるけれど、掌握空間は何も出来ない。

「やっぱクオン団長はすごいな…」

だからこそ、僕の発想が止まらないんだ。

きっと空術は、維持するのに莫大な魔力が必要だ。だから、魔力さえ奪えば勝機は十分にある。

「このまま押し切っちゃうか」

クオンが手を翳すと、重苦しい空気が僕を潰した。

「(喋ることも、まま、ならないっ)」

でも、幸いにも生成した大樹は掌握されていない空間にあった。

根よ、彼の魔力を奪え。

「(予想通り、空間外なら魔法は操作できる!)」

「うーん、果たして僕の魔法が強いのか、或いはドライアドが弱いだけなのか」

頭に手を当てて考えるクノンには、後ろから迫る根なんて気づいていない。

貰った。

伸ばした根がクオンの体に巻き付く。

「うわ!」

そのままみるみると、クオンの体は圧迫され始め、顔を歪めた。

「うげぇ、えげつないねドライアド。それにただの大樹が、吸力樹になってるし」

魔力が抜かれる体感は、想像できないほど気持ち悪いらしい。

「ギブギブ、拷問だよこんなの〜!!」

引き裂け、吸力樹よ。

徐々に掌握されていた空間も、弱くなり始め、僕は息が出来るようになった。

そして、直ぐに僕の体は光に包まれ、元の世界に戻ってきた。

「僕としたことが…」

クオンは悔しそうに歯を食いしばった

「今の勝ちはハンデがあってこそですから」

言葉通りの意味だ。確かに、この戦いにおいては僕は、彼の想像を超えることが出来た。けれど、実戦ではーー。

「まあ、そうだね。思考する時間なんて与えてくれないからね」

とはいえ、これでスタートラインに立てた、とクオンは笑った。

彼が拳を突き出したため、僕も拳を当てた。

暫く余韻に浸っていると、突然対戦場の入口の扉がバンと開かれた。

「緊急会議ですよ!クオンさん!」

ギルド統括委員会の受付嬢が、息を切らして怒鳴ったーー。

《進化の卵:35%》

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