第5話 進化の卵その1
模擬PvP対戦場ーーそれは個人の力を高めるために造られた、所謂訓練場。ギルド戦でも用いられる仮想結界仕様だ。そのため安心して、戦える。
「あれ、見た事のある顔じゃないか」
突然、入口でおじさんに話しかけられた。
「貴方は…!」
ギルド統括委員会でも会ったあの盾兵のおじさんだ。確か、アゼルかベルだ。
「あれ?あのヤバめな団長さんは?」
「治療と罰を受けています」
彼に下った処罰は、1週間統括委員会の雑務をこなすという地味なものだ。だが、謹慎処分と比べたらかなり優しい。
「じゃあドライアド1人なんだ。そうだ、1戦してかね?」
水晶を指さして笑った。
「いいですね」
やはり強くなるためには、実戦を積むしかない。今度は、攻める立場として。
そして両者の承諾を得たため、二人で水晶に手を触れ、仮想空間へとワープする。
これを通して、僕の成長を祈るばかりだ。
「ただの変哲もない空間、か」
僕は辺りを見回してステージの情報を知ろうと思ったが必要は無かった。ただの、果てしない空間だった。
「早速やろうぜ。勝敗は、先に死んだ方が負けだ」
彼が持ち前の盾と斧を持った。
そうかーー僕も何かしらの武器を持てばいいんだ。
新たな発想を得ることが出来、2分の1おじさんに僕は感謝した。
なぜ2分の1って?名前がアゼルさんかベルさんの2択だからだよ。
「樹木展開ーー森の恩恵」
新たな術式が僕を中心に地面に描かれた。
「見たことねえやつだ!新魔法かっ?!」
彼が盾を前に、僕へと突っ込んできた。
急いで創った弓を構え、撃つ。
「甘えぞ!!」
パキンと矢が折られ、勢いは止まらない。
「樹木展開ーー大樹生成!!」
彼の足元を目掛けて大樹を創り出した。
すると注意が散漫だった足元から木が出てきて、彼は宙に飛んだ。
「今だ!」
もう一度、力強く矢を放った。
「盾術展開ーーシールドっ」
彼の体は結界で覆われ、矢は結界に弾かれ、又しても地面に落ちた。
「くっ…考えろ」
強くなるために来たのだ、諦めてはならない。
明らかに弓は、殺傷性に欠けている。
「貰った!!」
ドンッと踏み込んだ彼は斧を回して、僕の腕を斬り落とした。
「ああっ!」
必死に考えている最中に狙われた。
「姑息なっ…」
僕は片手で斬られた腕を抑えながら、大樹の根に念じた。男を縛れ、と。
「姑息じゃねえっさ。油断している方が悪いんだ、よ!」
再び斧を振り、咄嗟にしゃがんで避けた。本当にスレッスレのところだったので、負けという言葉が、一瞬脳裏に過ぎった。
しかし、体勢を整えようとする彼を狙って、一気に根を伸ばした。
「うわわわ」
瞬時にしてシールドを突き破り、腕と足を縛り、行動不能にした。
「このまま引きちぎれ!!」
もう殺す迷いなんて無かった。実際に、完全に攻める側となると分かるものなんだ。勝利の為にはやるしかない、という貪欲故の覚悟がそうさせるのだ。
根はキツく歪み、軋んだ音を立てながら、彼の四肢を思いっきり引き裂いた。
「勝った!!」
喜びを噛み締めていると、僕の体は光に包まれ、対戦場へと戻ってきた。
前に呆然として立っているおじさんが言った。
「絶対に勝ったと思ったのに…油断した」
「油断している方が悪いんだよ!」
試合の時言われた言葉をまんまと返した。
「お兄さ〜ん、私ともやって…」
振り向くと、試合の映像を見ていた観客の一人が僕に寄ってきた。
「ぜひお願いします」
おじさんに別れを告げ、新たな対戦相手と共に仮想空間にワープした。
「随分とお強いのね。きっとお嫁さん達も多いでしょうに」
「えっ?」
いつの間にか、僕の首筋に剣が突きつけられていた。
「ちょっと…何が起こって」
剣の刃が肌を擦り、血が流れる。
「もう1回やりたぁい?」
ニマニマと笑う綺麗な女性に僕は頷いた。
「いいわよ。じゃあ今度は、ドライアドくんから始めて」
1戦目と同じように僕は弓を創り出し、彼女に向けて撃った。
「単調な男はつまらないわよ」
急に矢が制御を失い、地面に力なく落ちた。
「も、もう一度!」
再び矢を放っても、彼女に届く前に減速し、落下した。まるで、暴風に向かって矢を撃っているみたいだ。
「魅惑術展開ーー恋の盲目」
彼女の魔法が発動したと同時に、僕の目は見えなくなった。
「くそっ!大樹よ!」
大樹を生成し、その上へ乗っかって上空へ避難した。
「あれ…見える」
ある程度の高さまで来ると両目が見開くようになった。
「そうか、高さが条件なのか!」
そうなれば簡単だ。
そして僕は、また新たな案を思いついてしまった。弾は数打ちゃ当たるーーつまり、矢を何本もセットしておくのだ。
「2連射、いや3連射で」
弓に矢を3つかけ、器用に指で矢を握る。
根が感知する魔力に向けて、静かに撃てばこの戦いは勝てる。
研ぎ澄ませ、感覚をーー。
「…違う。登ってきている?!」
「ばあ!」
この巨大な大樹をよじ登ってきたのか?ありえない、常識が通じない。
「ぐっ!また見えない…」
高さを取ろうと、大樹から降り、地面に足を置く。
しかし、一向に瞳孔は開かない。
「もしかしてドライアドくんは、高さが条件だと思ってる?」
大丈夫、魔力は感じる。彼女に向けて放つんだ。
直感的に信じて、ある場所へと矢を3本一気に放った。
「ざんねーん。届かないよ、坊や。君には私が早いみたい。…魅惑術展開ーー高嶺の花」
矢がコントロールを失い、大樹に刺さる。
「ま、よく頑張った方よ」
次の瞬間、目の前に彼女が現れた気配がし、首筋に剣が当てられた。
「ま、まっ」
当然許しを乞うても彼女は躊躇なく、切り裂いた。
「冥土の土産に教えてあげる。…私は“魅惑の花園”の団長よ」
そりゃ叶うわけないかーー僕の負けに納得がいってしまった。
けれど、いつかは超えなければ行けない壁なんだ。タチバナを超えて、この団長を超えて世界1位へと輝くには必要なことなんだ。
だからまだ僕は進化の途中だ。まだ孵っていない。
《進化の卵:20%》
光に飲み込まれながら、無機質な音が僕の耳に響いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます