第4話 リアルのヤバさ

クオンは素早く男の方へ走って行った。

「もし違ったらどうするんですか!」

クオンの後をつきながら言った。

ノクスようには、異質な魔力は纏っておらず、特に怪しい雰囲気も無かったが、クオンには引っかかったようだ。

「長らく人間に扮しているから、差別化は難しいが…僕なら分かるんだな!!」

クオンが猛突進して、魔法を唱えた。

「空術展開ーー大気装甲」

彼の腕は靄のようなものに包まれた。ノクス戦で、盾兵を吹き飛ばした際と同じものだ。

クオンが腕を男に向かって突き出すと、その男は真っ直ぐ吹き飛ばされ、配っていた新聞の山はバサバサっと落ちた。

「うわああ」

壁に衝突した男は、情けない声を出した。

「あれ…なんでピンピンなんですか?」

盾兵のように重厚な装備はしていない。その男は生身のままなのだ。だから、必然的に、こいつが魔族ということが分かる。

「あれえ、生きてるんだ。ま…いっか」

クオンはゆっくりと倒れている男に近づいた。

一連の流れを見ていた人達はひそひそと小声で話し始めた。

“やっぱりあのギルドは狂っている”と。

「ねえねえ、君ってさーー」

クオンが男に話しかけた。

「ノクス・スタシスの右腕だよね?」

その瞬間、男の魔力が暴走して大爆発を起こした。後にクオンに、ノクスもやっていたこれの正体を聞いたが、“魔力暴走(スタンピート)“と呼ばれる魔族特有の技らしい。

男は荒々しい姿に変え、叫んだ。

「なぜ分かったっ!!15年間王都を牛耳ってきたと言うのにっ!」

殴られた胸を抑えながらその男は喋った。

「で、君はノクスの右腕だよね?魔力の形質が凄い似てるんだ」

ああ、クオンはきっと、魔力に敏感なんだろうな。それは一種の才能だ。

些細な変化にも気づいてしまう、所謂千里眼としての機能を果たしている。

「ああ。偉大なる四天王の傘下、カリュスであるっ!」

少年のように高い声、そして細身の体。身長も、クオンのようには高くなかった。ノクスと比べて見劣りした。

「へえ、じゃあ心置き無く潰していっか」

それを合図にクオンは飛び出し、大気装甲で攻撃を繰り出した。

「お前ら人間の弱みは、飛べないことだっ!」

白い翼を広げ、空を優雅に飛ぶカリュスを僕は見上げた。

「…クオン!僕の魔法なら届く!乗って!!」

樹木展開ーー大樹生成。

整備された地面から大樹が飛び出し、生成され、空へ伸びる。

屋根に乗っていたクオンは大樹の先端に飛び乗り、ぐんぐんと標的に近づく。

「ムカつくんだよ…お前ら人間は、一人じゃ何も出来ねえくせに!!」

何故か僕の心がズキっと刺さった。まるで自分に言っているのではないか、と錯覚してしまう程に、心当たりがあるから。

クオンが右腕で殴ろうとすると、カリュスは反撃に出た。

「銅術展開ーー青銅剣」

カリュスは魔法を唱えると、彼の手から青銅の剣が生成された。

そして身を翻し、クオンの拳を避けて、素早い剣戟を繰り出した。

「クオン危ないっ!」

枝よ団長を守れ。

鞭のように伸びた枝がクオンの腰に巻き付き、引っ張る。

「惜しかったねカリュス!あと1ミリズレてたら殺されてたよ!」

間一髪でクオンは危機を脱した。もし僕が助けなければ、彼は心臓を斬られていたとこだ。

「クオン、これは仮想空間じゃないんだよ。命を大事にしなきゃ」

彼は僕の方をちらりと見た。

けれどその目は意味を測っているというものではなく、音を聞いているだけだった。

僕は眉間に皺を寄せながらクオンの戦いを眺めた。

「空術展開ーー空間移動」

クオンのその魔法は、空間ゲートを通ることで、瞬間移動を可能にするものだった。

歪んだ色の着いた空間が人一人分くらいの穴を作り、そこにクオンが入る。するとカリュスの前に居たはずのクオンは、また別の穴から出てきた。

「後ろがガラ空きだよ、カリュスくん」

力の限り右腕を振るい、カリュスは頭を殴られた。カリュスの鼻から血が滴り落ちた。

「てめえこそな?」

その時、クオンの体は2本の杭に撃ち抜かれた。

背中に交差するように打ち込まれ、そのまま地上へと落下する。

僕は枝に念じ、再び彼を助ける。

「どうすんのさクオン…これじゃあ」

魔族が自由に動いてしまう。

本当に考え無しに動いて。

「うーん…先を越されちゃったね、“帳”に」

“帳”ーー現在世界1位のギルド。

驚いて空を見ると、ある剣士がカリュスと戦っていた。

「タ…タチバナ」

かつての、僕の故郷の友達。優秀な魔法使いだ。

「…仕方ないやつだなドライアドは」

ふっと笑って空中にいるタチバナは、僕の方を覗いた。

「なんだ、新手か?」

カリュスは剣を構えると、タチバナも構えた。

「悪いけど君は相手じゃないよ。俺は世界1位だから」

闇術展開ーー黄泉送り。タチバナがそう唱えると、彼の持つ漆黒の剣は更に闇を纏った。

「…!」

カリュスが驚き、目を見開いた。

僕はそれを見逃さなかった。

一瞬にしてタチバナは間合いを詰め、武器をカリュスの胸に突き刺す。

「解!」

タチバナが叫ぶと、剣を漂っていた闇が、傷口を起点に、カリュスの体に割れた鏡のように広がっていった。

「てめえ」

カリュスが次に口を開こうとした時にはもう遅かった。

体は崩壊を始め、灰となったのだ。

「こんなん戦いじゃない…!!」

一方的過ぎる。これが、世界1位の格だ。

「やあドライアド。随分と派手にやったようだね」

空中を飛んでたタチバナが下降して、僕の前へ立った。

「久しぶりの挨拶がこんな風になるなんてね」

恐怖を我慢しながら僕は笑った。冷や汗が額から出た。

「それにしても、まさかそんなギルドに入るなんて」

最強と謳われていた“白の境地”は弱いんだね、と彼は言った。

「違う!決して弱くないっ!」

「なら見せてよ。証拠を」

冷たい眼差しを向けられた。

「…クオンだ。団長は最強だから」

「ふーん、あっさり倒されてたくせにね。それに」

タチバナが僕の耳に囁いた。

「いつまでも守るだけじゃ、弱いままだよ」

同期の力の差を見つけられた上に、正論を突きつけられると、もうどうしようも無くなってしまった。

唇を噛み、必死にやるせない気持ちを押さえ込んだ。

「またね、ドライアド。多分、ギルド統括委員会が直にくるから」

タチバナと別れた後、一部始終を見ていた受付嬢がクオンに応急処置をした。そして僕に軽く取り調べを行い、直ぐに開放された。

今回においても、処分が下されたが、対象はクオンだけだった。

翌日の新聞の記事は、当然タチバナのことだ。

『“帳”の期待の新人が、王都に潜む魔族を瞬殺?!』

いい所だけ持って行きやがって。本当はクオンの手柄なのにーー。

言い表せない悔しさを胸に、模擬PvP対戦場に一人で足を踏み入れた。

必ず、強くなってみせる。もう、守るだけの堕天使にはなりたくないから。

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