第3話 敗戦処理
『“魔弾の子”メンバーのノクス、アゼル、ベルは敵陣のコアを破壊したため、勝利となります』
その知らせを最後まで信じることは出来ず、僕は目をユグドラシルの中にあるコアに向けた。
「破壊されてる…っ!!あの時の黒い塊かっ!!」
あいつが放った塊は全て消えたと思って油断していた。もしコアに向かっている魔弾に気づけていたら、僕は相手のコアを破壊していたのに。
「…ここまで、か」
僕も体に限界が来たため、身を任せるままに、眠っていった。青空だけが、眩しかった。
「おはよう、ドライアド」
目を覚ますとそこは王都の病院だった。
「クオンっ!良かった、生きてて」
目から込上がる熱いものを我慢した。
「大袈裟だね、君は」
彼の体は包帯でグルグル巻かれていて、よっぽど危ない容態だったのが伺える。
「試合映像見たけどさ、もうドライアドは戦えるね」
クオンは優しく僕に笑いかけた。
「…」
辛気臭い空気が嫌いなのか、クオンはさっと話題を変えた。
「ところでもう順位が発表されているんだけれど、一緒に見ないかい?」
彼が透明なモニターに電源を付けた。
「順位は3日目の試合が終わってからですよね」
「うん。あ、そっか、君はあれから何日眠ったから分からないもんね」
一体僕はどれだけ寝ていたんだ。
「ここに運ばれてきてから2日くらい」
リアクションしずらい長さで、返答出来ずに居ると、モニターが助太刀してくれるように画面を映した。
「あれ、僕達…」
僕が画面に映る順位を食い入るように見ると、面白いことに気づいた。
「1位だね…下位グループの」
「1位じゃないですか!クオン団長の夢が叶いましたねっ!」
喜ぶ僕と対照的にクオンは顔を俯かせていた。
「ちっ…あんなところで魔族が現れなかったら僕達は余裕で上位1位になれたのに」
確かに魔族は僕達の道を邪魔したけれど、得たものも大きかった。だから、そこまで僕は悲観的は見ていない。
「ま、僕が弱かったのもあるけどね」
決して人のせいにはせず、自分の非を認めるクオンはかっこいいと、少し感じた。
「ところで上位1位はどこのギルドですか?」
「えっとねー、“帳”だね」
クオンは顎に手を当てながら呟いた。
「“帳”は知ってます。僕の幼馴染も、入団試験でそこに入りました」
「今年“帳”に入ったのは1人しかいないからよく覚えているよ。タチバナだっけ?」
タチバナ。彼は僕と同じ辺境の地の生まれで、群を抜いて天才だった。あの試験においても、頭ひとつ抜いていた。
「彼は…ノクスを簡単に殺せる程の実力はあると思います」
「へぇ、つまり僕より優れていると?」
クオンが僕を睨んだ。
「相性というのもある気がしますね…」
例えば、槍を持つ人と剣を持つ人とでは、槍の方がリーチは長いので必然的に、剣の人の方が負ける確率は高くなる。それと同じだ。
「まあいいや。早く次のイベントに申し込もーっと」
彼が切り替えて、冬のギルド大会にエントリーしようとすると、丁度伝書鳩がテラスに来た。
「伝書鳩なんて初めて見ました。あ、手紙が付いてる」
白い柵に足を置いた鳥に、手紙が括り付けられているのを発見した。
紐を解いて、縦長の手紙を読むと、僕は驚いて手紙を落としてしまった。
「クオン…できない」
「何が?」
鼻歌を歌いながら聞いた。
「エントリーだよ。半年の停止処分…」
ギルド連合大戦において、安全面に配慮しない行動が著しくあったので、暫くはギルド戦に参加出来ないという内容であった。
「おかしいでしょっ!僕達は世のため人のために尽くしたというのにっ!!」
両手で今にも引きちぎりそうな勢いで手紙を掴むとクオンは激怒した。
「抗議だ、ドライアド。ギルド統括委員会に乗り込むぞ!!」
そして約4日ぶりに訪れ、入口から入る僕達を見る受付嬢は怪訝な顔をした。
「おい受付嬢!代表を出せ」
周りに人が居るのもお構い無しに、堂々と叫んだ。よく見ると、“白の境地”と戦ったギルドの人もちらほら居る。
気まづくなって出来る限り大衆と、目を合わせないようにしていると、ある男が話しかけてきた。
「きみきみ、“白の境地”の子だよね?僕は“漫画の子”の盾兵だった人だよ!」
クオンが瞬殺した、あの盾兵達、アゼル、ベルのどっちかの人。
明確には覚えておらず、俯きながら返事をした。
「いやー悪かったねあの時は。まさかウチの団長が魔族だなんてさ」
はっはっはと元気に笑うこのおじさんは、例の件について謝罪してきた。
「いえこちらこそすみませんでした。どうやら今、大問題になってるらしくて…」
「まあ、1番悪いのは君のとこの団長ということで!」
あんだけ一人で大暴れしたのだ。確かに悪いのは彼かもしれない。
「ところでさっきまで居た白い人、居なくなってるけど大丈夫?」
盾兵のおじさんが受付を覗くと、クオンが居なくなっていることに気づいた。
「え、ほんとだ!僕を置いて何処に…」
せっかくの休日を潰された挙句、どこかへ行ってしまうなんて、本当に自由気ままな人だ。
「ほんとクオン団長はイケメンでスタイル良いのに勿体ないねえ」
おじさんが疎むように言った。
なんだか居心地の悪さを感じたので、僕は用を思い出したと言って、その場を離れた。
案外、僕らのことを悪く思う人は少ないのかもしれない。
「あ…前言撤回」
王都の街中を歩いていると、新聞を配っているお兄さんが居た。僕も受け取って、広場のベンチで読んでいると、奇妙な見出しを見た。
『“白の境地”、その戦いぶりに批判殺到!』
インタビューを受けた人のコメントがずらりと並んであった。
『あの団長姑息だわっ!突然現れたと思ったら直ぐ消えて!戦いじゃなかったわ、あれはっ!!』
『顔1つ変えずに私達を嬲り殺す団長は、犯罪者予備軍よ』
『団長追放!追放!』
恐らく、殆どが対戦相手だろう。しかし、今の所、クオンの悪口しか書かれていない。
『あの木を生やす男がうざかった。役立たずの雑魚が、団長のおこぼれを貰ってるだけだわ!』
絶対初戦のあの少女だ。なぜなら、僕と対面したのはその子しかいないから。
ショックを受け、がくんと首を垂らすと、聞きなれた声を感じた。
「おいドライアド。勝手に消えるなんて酷いじゃないか」
顔を上げると、太陽とクオンの顔が重なり、眩しくて思わず目を背けてしまった。
「そんなに僕のことが嫌いなのかいっ?!」
ショックを受け、がくんと力無く倒れるクオンに僕は弁明した。
「違いますよ、ただ眩しすぎただけで…」
「だよね!やっぱり僕のイケメンぶりに目を背けちゃっただけか!」
彼もさっきの盾兵に話しかけられ、容姿を褒められたらしく、酷く調子に乗っていた。
「それよりどこ行ってたんですか」
「ん?2階で代表と話してた」
あの建物に2階があったんだ。
「なんか色々抗議したんだけど、もし魔族を倒せなかったら、国民に被害が及んだかもしれないらしくて、当分は反省だってさ」
あの仮想結界の外は王都の繁華街にある闘技場だったので、確かに甚大な被害が出ていたかもしれない。
「後悔はしてないさ。君が手を抜かず、魔族を仕留めていたら尚更良かったんだけどね」
猫のような目でじろりと僕を見つめた。
「と・に・か・く!君は何も気にしなくていい。僕の落ち度さ」
僕が先程地面に投げ捨てた新聞を拾い、あのページを読んでしまった。
「それ笑えないくらいクオン団長のこと悪く書かれてますよ」
「ははーっ!負け惜しみのコメントが面白すぎて腹がちぎれそうだ!」
ゲラゲラとお腹を抑えて笑う彼を、不思議そうに、通行人は見ていた。
「ちょっと、恥ずかしいですから…」
「特に君へのコメントが秀逸過ぎる!木を生やす男だってっ」
ぷぷぷ、と頬を膨らませてクオンは馬鹿にして笑ったため、僕は新聞を取り上げて、引き裂いた。
「どうせ僕は弱いですよ」
クオンを置いて僕は歩き出した。
「待って、待ってよ!笑いすぎて、治りかけのお腹か再発した…」
ここまで来てまだ煽るのかと思って、はあとため息を付いた。
「そういえば土手っ腹に穴空いてましたもんね。魔弾に打たれても尚立ち上がるクオン団長はかっこよかったですよ」
地面に倒れるクオンを見ながら笑って言った。
「ほんと!?弟子に言われるなんて、頑張った甲斐があった〜」
当初の予定では、「まるでカエル斑点模様のようでしたよ」と言うところだったが、弟子なんて呼ぶもんだから、そうも言えなくなってしまった。
こういうのを人たらしと呼ぶんだろう。
「師匠のように強くはありませんけどね」
自虐的な笑みを浮かべると、クオンは快活に話した。
「いやいや、僕が攻めの神様だとしたら、君は守りの堕天使さ!」
相変わらず変なワードセンスで、喜べない微妙なラインだった。
「…」
急にクオンは黙り込んだ。
「どうしましたか?ちゃんと嬉しいですよ!」
無理やり笑顔を作っても、クオンは反応しなかった。
「団長?」
聞いても無反応だったので、流石に僕も怪しく思った。
「…魔族のマナだなぁ」
クオンが広場の先にいる、新聞を配る爽やかな男に、目をやったーー。
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