8 幼馴染8
可憐は、一人で部屋に座っていた。
制服を脱ぎ捨てたまま、ベッドの端に腰を下ろし、
天井を見つめる
頭の中に浮かぶのは、昔のことばかりだった。
山で虫を追いかけて、
転んで膝を擦りむいた日
悔しくて泣きそうになったとき
何も言わず隣に座ってくれた少年
――しょう。
心が男の俺を、
何も疑わず、何も否定せず、
ただ「可憐」として受け入れてくれた。
その顔を、思い浮かべる
笑った顔。
困った顔。
俺を見て、安心したように目を細める表情。
……あぁ。
「これが、恋なんだ」
ぽつりと、声に出す。
ずっと、分からなかった。
分かりたくなかった。
「俺、心は男だと思ってたけど……」
喉がつっかえる。
「……ほんとは、女だったのかな?」
そう口にしてみても
胸の奥に残るのは、違和感だけだった
「好きだから女とか」
「男だから好きにならないとか」
そんな単純な話じゃない
「……しょう、だから」
しょうだから、好きになった
それだけだ
でも――
それでも
(困らせたくない)
あの優しい人を。
大切な親友を。
―――――
次の日
可憐はスカートを履いた
声色を少し高くして
仕草も、歩き方も、意識して
「……」
しょうは、すぐに気づいた
「可憐、お前……それ」
視線が、スカートに落ちる
可憐は、無理やり笑った
「女の子の服の方が、しっくり来てさ」
言葉は軽い
でも、胸は重かった
しょうが黙ったまま可憐を見る。
その目が、あまりにも真っ直ぐで。
「……お前、無理してるだろ」
可憐の喉が、きゅっと鳴った。
しょうは、静かに言った。
「親友が、いなくなったみたいだ」
その言葉が、胸に突き刺さる。
「……仕方ないじゃん」
可憐は、絞り出すように言った。
「男からの好意は、困るんだろ?」
しょうが、目を見開く。
「……は?」
「…あの子に告白されてたでしょ」
声が震える。
「その時、見てたんだ。
ほとんど聞こえなかったけど……
これだけは、聞こえた」
可憐は、覚えている
唯一、はっきりと
「男から好意を向けられても、困る……って」
しょうは、数秒、言葉を失った
それから、ゆっくり首を振る
「……違う」
可憐が顔を上げる
「俺が言ったのは」
しょうは、真っ直ぐに可憐を見て言った
「俺(男)から好意を向けられても
可憐が困る、って意味だ」
「っ……」
息が、詰まる
「俺は、可憐のそばに居たかっただけだ」
沈黙が落ちる。
風の音だけが、二人の間を通り抜けた。
「……そっか」
可憐は、かすれた声で笑った。
「空回ってたんだな、俺ら」
その言葉に、胸が熱くなる。
親友。
幼馴染。
でも――
それだけじゃない
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