4 幼馴染4

その日、放課後の教室は、夕日でオレンジ色に染まっていた。


「……しょうくん」


声をかけられて振り返ると、女の子が立っていた。

両手で小さな紙袋を抱えて、緊張した顔をしている。


「これ……よかったら」


中身は、焼き菓子だった。

素朴で、飾り気のないクッキー。


――俺の好み、ど真ん中。


「ありがとう」


思わず、顔が綻ぶ。


「すごく嬉しい」


その一言で、彼女の表情が一気に明るくなった。


それから少しずつ、会話が増えた。

図書室で隣に座ったり、帰り道が一緒になったり。

無理に距離を詰めるでもなく、自然に。


俺は、純粋に楽しかった。


誰かが自分のことを想ってくれる。

その気持ちが、胸にじんわり染みていく。


_________


可憐は、少し離れた場所からそれを見ていた。


直接は近づかない。

けれど、完全に目を離すこともない


_________


女の子が男子に絡まれていたら、さりげなく割って入る。


重い荷物を持っていたら、自然に手を貸す。


「大丈夫?」


「……ありがとうございます」


可憐は柔らかく微笑む。


「しょうの友達なら、俺も放っておけないし」


そう言って、冗談めかす。


本心は、別にあった。


――しょうの周りは、俺が守る。


女の子が安心していられるのも

しょうが余計なトラブルに巻き込まれないのも

全部、自分がいるからだ。


「しょうのことなら、なんでも知ってるから」


その言葉は、誇らしげで

同時に、どこか独占的だった。


女の子はそれを聞いても嫌な顔ひとつしない

むしろ安心したように頷く。


「しょうくん、優しいですよね」


「うん。だから、傷つけたくない」


その言葉に、嘘はなかった。


―――――


そして、ある日の放課後。


可憐は、いつものように校舎の影を通っていた。

ふと、中庭の方から声が聞こえて、足を止める。


そこにいたのは、しょうと――彼女。


二人は並んでベンチに座っていた。

距離は近いが、触れてはいない。


それだけなのに。


「……」


可憐は、息を止めた。


しょうが、笑っていた。


いや、いつもの笑顔じゃない。

可憐が何年も隣で見てきた、

ふざけた笑いでも、照れ笑いでもない。


もっと柔らかくて、

どこか――甘い表情。


「……そんな顔、するんだ」


知らなかった。


胸の奥が、ひやりと冷える。


あの表情は、自分に向けられたことがない。

少なくとも、可憐の記憶には存在しない。


「……俺の、知らない」


その時不意に聞こえてしまった声


「男から好意を向けられても……困る…」


「…」


女の子が何か言って、しょうが少し照れたように視線を逸らす。

その仕草すら、可憐には新鮮で、そして――不快だった。


「……おかしいな」


喉の奥が、きゅっと鳴る。


しょうのことは、なんでも知っていると思っていた。

好きなものも、嫌いなものも、癖も、考え方も。


なのに。


「……俺がいないところで、増えてる」


知らない表情。

知らない距離。


可憐の指先が、無意識に握り締められる。


自分は、応援している側のはずだった。

支えているだけ。

見守っているだけ。


なのに。


胸の奥で、確かに何かが軋んでいた。


――しょうは、俺の隣にいるはずだった。


その考えが浮かんだ

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