3 幼馴染3
その日、放課後の廊下はやけに静かだった。
可憐は、校舎の裏手に呼び出されていた。
相手は、クラスでも大人しい方の女子――確か、図書委員の子だったはずだ。
少し緊張した様子で、彼女は切り出した。
「……あの、可憐くん」
「なに?」
「……しょうくんの、好きなものを教えてください」
その瞬間、可憐の中で何かが弾けた。
「……え?」
聞き返す声が、わずかに上ずる。
「しょうくんに、渡したいものがあって……でも、好みが分からなくて」
そう言って、彼女は頬を赤らめた。
可憐は一瞬、言葉を失った。
そして次の瞬間、胸の奥から込み上げてくる感情に、思わず笑ってしまった。
「――なるほど」
口元が、自然と緩む。
「君、見る目あるね」
「え……?」
「しょうはさ、派手なのは苦手だけど、実用的なのは好きだよ。
あと、甘いものならチョコよりクッキー派」
すらすらと出てくる言葉。
幼馴染だから知っていること。
誰よりも近くにいた証。
「それにさ」
可憐は、少しだけ前かがみになって続けた。
「しょう、優しいから。
きっと君の気持ち、大事に受け取ると思う」
その言葉に、女の子はぱっと顔を明るくした。
「ありがとうございます!」
小さく頭を下げて、走り去っていく。
――一人になった後。
可憐は、廊下の窓から校庭を見下ろした。
サッカー部の練習を、しょうがぼんやり眺めているのが見える。
「……ついに、春が来たか」
呟いた声は、どこか弾んでいた。
胸の奥が、じんわり温かい。
幼馴染に幸せが訪れる。
それは、本来なら喜ばしいことのはずだった。
なのに。
「……」
なぜか、視線が逸らせない。
しょうが笑う未来を想像する。
知らない誰かと並んで、距離を縮めていく姿を。
――胸の奥が、きゅっと締まった。
「……おかしいな」
可憐は小さく首を傾げる。
自分は応援する側だ。
そうあるべきだし、そう思っていた。
なのに。
「……しょうのこと、一番知ってるのは俺なのに」
その言葉は、無意識にこぼれ落ちた。
しょうの好み。
しょうの優しさ。
しょうがどう喜ぶか。
――全部、俺の中にある。
それを、他人に「分け与えてあげた」感覚。
「……まあ、いいか」
そう言い聞かせるように呟く。
「しょうが幸せなら、それで」
でも、その視線はまだ校庭から離れなかった。
知らない女の子が、しょうの隣に立つ未来を、
頭の中で何度もなぞりながら。
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