2.蜃海迷宮
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ある朝、
いや、珍しいというかほぼ異常だ。
「ああ、あれな……」
呆れ顔半分、面白いものを見る目半分で蕗島は言う。
「いや、俺の読んでいた雑誌なんだが渡してみたら思いのほか集中して読みはじめてな。あんな感じだ」
そんなことだろうと思ったが。
それにしても……。
ぱらぱらと形の良い指が雑誌をめくる。
上品な印象の顔は無表情でただ目でページを追ってひたすら読んでいる。
今まで読書をしているのを見たことはあるがさすがにこれはーー。
読み終わったのかパタンと雑誌を閉じた。
「ああ、戸草くん。おはようございます」
今気づいたという顔で言う。
実際今気づいたのだろう。
「おはようございます。あの名護さんそれ」
「戸草くんも読みますか?」
「いえ、別にそういうつもりじゃ……」
「そうですか」
名護は蕗島に雑誌を返却する。
「どうだ。面白かったか?」
戸草は読んだことがないが、雑誌名はなんとなく知っていた。
たしか大手の青年漫画誌だったと思う。
「ええ、まあ」
本気か、と思う。
名護と漫画。
月とスッポンとはあまりに使い古された言い方だが、それくらい合わない組み合わせだと思う。
名護に似合うのは文学作品や小難しい実用書の類だろう。戸草は勝手にそう思っているのだが。
いやこの人でも漫画くらい読むのだろうか。
長椅子に足を組んで座り直して、名護は不意に言った。
「ところで戸草くん。
戸草は自分の浅い漫画知識から思い起こす。
一時期有名になっていた漫画家でどこかで目にした覚えはある。
「ええ、まあ名前だけは……。読んだことはないですけど」
「そうですか」
机の上で指を組んで顎を乗せる。
「今回の事件はその漫画家に関係があるそうなのですがその雑誌に読み切りの作品が載っています。最も、漫画の内容が捜査に関連するかはわかりませんが」
は、と戸草は思ってそれからふと納得する。
娯楽として読むとは思わなかったがそういうことかと思う。
「蕗島さん、俺にも貸してもらえますか」
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