第4話 #VS人間腕イノシシ

自室のデジタル時計は20時と表示されている。

俺は配信すべきかすべきじゃないか迷ったが、これは検証や確認の裏作業ではなく

明らかに局面を変える場面なので、記録も兼ねて配信することにした。


外に出るがやっぱり昼間のように明るい。

本当に時間が経過してるのかも怪しいが…若干空腹になっているから

動いているものと信じたい。


俺は充電しきったスマートフォンで配信の設定をする。

タイトルは< 異世界転移生活 人間腕イノシシを討伐する!>だ。


厳密に言うと "討伐" というのは兵を派遣して反逆者とかを征伐する時に使う

のが正しいらしいが、現代ではゲームとしての使い方――モンスターを倒す

という意味としても受け入れられている為、分かりやすさを意識してそう入力した。


タグはモ〇ハンでいいか。カテゴリは…なんだ?ゲームか?エンタメか?


配信には視聴者が検索しやすいよう色々区分けできるようになっており

カテゴリというものもそれの一種だ。


ゲーム、エンタメ、音楽、アニメや映画…と多岐に選択できるが

異世界転移はどれだ?エンタメか?

でもタグをモ〇ハンにしてるならゲームか。


一応初見がきても説明できるようにしてるけど、最悪新作のVRゲームやってますで

通せるしゲームでいいか、うん。


そしてその他諸々の設定を終えて配信を開始する。


「どうもこんばんは、ラビットちゃんねるです。てことで前回までのあらすじなんですが――」


ざっくりと転移したことと、人から兎のようなケモノになってしまったこと

猪に殺されたこと、スキルのこと、探索の邪魔だから猪を倒すことを説明していく。


「――てことなんですよ。コメントは見れないかもしれないですが後で見直しますので気軽にコメントください!それじゃあ討伐開始!」


当然コメント欄は豆腐のように白い。ポン酢でもかけるか?

同時接続者数は当然0。ほぼ突発配信なのでこれは当たり前ではあるが。


俺は持っていたスマートフォンを自分の斜め左後ろの球形空間に置く。

このドローン(仮)空間は便利なもので、色が少し赤みがかってて視覚的に

分かりやすい。

そして物が空間に入ってくると色が消える。


俺の思考を不可思議なスキルか何かで把握していて、必要な時に現れ

スマートフォンを置くと配信であればしっかりと撮影できるよう

カメラをこちらに向けてくれる。


配信は既に始まっている。前口上は済んだものの。

…討伐開始とはいったが、結構行き当たりばったりな作戦かもしれない。

しかし相手に知性がそこまで無ければ簡単に倒せる筈。


俺は数時間前、見えない結界を小石を使って探っていたが、別のやり方を

思いついていた。


こめかみを2度叩きステータス画面を表示させ、およそ結界がある空間を直視した。


思っていた通りプログレスバーが出現し、黒い板が現れる。

それと同時に見えない結界が薄く黄色く色づけされ、視覚的に分かるようになる。


予想と同じで、家を中心とした円形に広がっている。

側面は壁のように結界が展開されていて、上部は半球形に丸く盛り上がっている。

所謂ドーム状というやつか。

全体を見渡し、おおよその範囲を記憶していく。


俺は猪が現れた大樹側の森の結界の傍まで歩き、足を止める。

そしてゆっくりと結界外に出て森へ近づいた。


殺された時を思い出すが、ぶっちゃけ猪に対して俺は何もしていなかった筈だ。

森に近づいて覗いてすぐに引き返した。

そこから急に襲われ殺された。おそらく死体は突き刺しきって押され、前側に動き

結界内に入り、猪と槍状の棒だけが弾かれてあの状況になったと思う。


更に執拗な俺の死体に対する執着をみるに、相当な激情さがあると踏んでいる。

俺を獲物と見たか、はたまた縄張りに入った事で怒ったかは分からないが。


俺は背後にあるスマートフォンに顔を向けて実況する。


「まぁつまり殺された状況を再現しようという訳だ。ああ配信に映ってなかったから皆は知らないだろうけど、俺はここで前脚が人間になる猪の化け物に襲われ――」



ピクリと耳が動く。

そして俺はその動いた耳と音に反応し、言葉を止めて顔を向けずに四足で

全速力で結界内に逃げ込んだ。


「あっぶねえ!」


案の定、猪が俺めがけて突進してきていた。

更に都合の良い事にそいつは結界に全速力で衝突した。


「しめた――こいつバカだぞ!」


野生動物によっては賢い動物もいるため、半ば博打だったが…こいつは重畳だ。

猪も学習能力があるが、それは地球での話であって、異世界側の化け物がそれと同じとは限らない。更に言えば、何を持って賢いと言えるかだが――いやそれよりも!


「鑑定!」


結界に対し先端が鋭い木の棒で攻撃するそれに対し、俺は直視する。

約8秒!物よりも遅いが生物に対しても鑑定は有効のようだ。


<<ボルガー>>


「なんだよ名前ボルガーって!なんとかボアとかが定石じゃねえの!?」


Lv.10

STR:40 DEF:15 INT:1 DEX:18 AGI:1 SPD:30


「レベル10!桁が違う!ステータスはSTR,SPD型、他はレベルにしては低め!

SPDが30でレベル2の俺と同じってことは俺は超SPD型だ!」


俺はそのまま視線を少しずつ下に向ける。


スキル:槍術


やっぱスキルに槍関連があったか。でも触らないと詳細が見れないから分からん!

いや…俺のスキルがステータス何倍とかだったから、それと似たものと仮定しよう。


「鋭い棒が出たり二足歩行だったり人の手になってるのは多分スキルの槍術が関係してんだろうなぁ蹄じゃ持てねえから!!」


配信者は、配信してるならとにかく声を出す。

思考した上で声出しすることで複唱の役割を果たしている。

俺は視界を明瞭にするためこめかみを叩き、余計な板を消滅させる。


そして勢いのまま身体を地面に預け、ころころと転がってみせた。

余裕を表現しているつもりだが…果たしてどう反応してくるか。


猪の化け物――ボルガーは激昂し突きが高速化する。

結界と棒が当たる衝撃音の間隔が、たまに重なる程近くなる。

それだけの激しい連続突きをここで見せてきた


「ッ…や、槍といえば乱れ突きだよな!」


音と槍さばきと表情と飛び散る涎で、流石の俺も一瞬声が引っ込んだ。

だが長くは持たず、ボルガーは大きな息を吐き続け動きが止まった。

2度目だぞそれ。


俺は左に向かって移動し、距離をとって結界外に出ようとする。

切り札であるミサイルずつきは結界の内側では使えないからだ。


「ほとんど勢いでやってみた作戦だけどこうも上手くいくとはね」


本当にそう思う。というか結界ありきすぎる。

これがなければ一生家で過ごしていたに違いない。


「名付けてデカ腕イノシシブチギレ作――」


喋りながら、おそらく左半身が結界外に出て…左足が地面に触れた――刹那。

相手の気力がまだあったか、俺が配信に意識を取られて離れる距離が短く

油断していたのか。


槍が左目の前まで飛んできていた


あ、やべ…死――


んだ。…そう思っていたが右半身が何かの力によって引っ張られ

事なきを得る。

槍は空を裂くだけだった。


俺は引っ張られた勢いで背中から倒れ、呆ける。


心臓の音だけがこだましていた。


――あ、そうか。俺は死んだ時や後が怖いんじゃなくて――


――死を回避してしまった後が怖いんだ。



死神の鎌で首を切り裂かれた時ではない。

俺が恐怖を感じるのは死神の鎌を首にかけられ、生きてしまった時。

スキルで生き返ったら、終わった事だと割り切れていたが。

生きたままだと終わっていないから。

それが俺の弱点か――



視界が雲しかない空だけになり、騒がしい筈の空間に

静けさが漂う。そのせいでふと――考えてしまった。


が。


両手の肉球で俺の頬を強く叩き、鋭い音が響く。


「悪い油断してた」


すぐに結界の範囲を再度確認し、四足で走り出す。

今度は猪がいる場所の真反対、直径でいえば約200m離れた場所の結界外まで

全力を超えた全速力で走り、結界外に出る。

速度を上げたまま結界の外周を走りボルガーまで向かっていく。


後ろにスマートフォンが追尾してるかどうかも分からない。

今ようやくめっちゃくちゃシリアスな展開になろうとしていたが

それを破壊するために即座に行動していた。


恐怖を克服する、というのは言い過ぎかもしれないが、俺がそういう気持ちを

抑える為にやっていることがある。


納得だ。理解だ。受け入れて進む事だ。


死んでリスポーンすると、夢に近い記憶になる。…多分スキルの効果かも。

高い所から落下して、地面に激突する寸前で起きるような感覚。

冷や汗が出て危ない、死ぬかと思ったー。そんな感覚で恐怖を感じていなかったが。

死を回避するとスキルも何もない。

"普通の俺" が "普通に死を体感" する。だからさっき怖かったんだ。


なーにが<不死身でも記憶は残って精神はすり減るとか漫画でよくあるけどー>だ

バカが。

スキルで守られてただけで俺もそんな感じじゃねーか!

冷笑だろこれ!


俺も同じだ。いや違う!そういった人達の方が俺なんかより遥かに精神力がある!


俺なんかケモノになってリスポーンできて結界に守られて自宅まで用意されて生活も担保されてステータスもスキルも必殺技があって優遇されてるじゃねーか!

あと28歳で学生よか人生達観している!30代40代の会社の上司達には及ばないが!


化け物を目で捉える。


死ぬのは普通に怖い!納得したし理解した!スキル守ってくれてありがとう!

普通の人間のままだったらこんなに立ち回れなかったと思う!ケモノ化ありがとう!

そしてボルガー!油断したのは俺が動物殺した事なくて無意識に躊躇してたからだ!

槍を投げる発想は考えるべきだった!自宅がなかったら負けてたわ!


でも俺を殺したんだから死ね!


切り替えの早さは負けねえ!

そう意気込み俺は姿勢を低く低くして走り、最高速度のまま軽く跳ねる。


低空でふんばるように屈んで両脚に力を入れて。

目の前の敵に頭を向けて、目で見定める。


その姿勢のまま転がっていく。

いつのまにか鋭い木の棒を持っていた――おそらく一定距離を離れると手元に戻る――ボルガーは、鋭い突きを繰り出すが

疲弊しきっていたことと、俺が至近距離且つ限りなく低い位置にいたことで

俺の左耳の端を貫くのみだった。


ボルガーの後ろ脚に軽くぶつかり俺の構えは完成する。

ボルガーは木の棒を消失させ、同時に人間の上肢が化け物の蹄に戻り。

後ろ脚を蹴り上げ、俺を踏みつぶそうとしてくる。


構えから5秒――


慣性を使って構えたまま動いてなかったら間に合わなかっただろう。

今もマジで殺すのも殺されるのも怖いんだけどさ。


俺は地球に戻って地球スローライフを送りたいんだ!!!あばよ!!!



「くらえや!!ミサイルずつーー―――――――ッッッッカハァッ!!!??」



音が消えて視界が闇に包まれる。

身体の感覚が消えて一瞬だけ、浮遊感を感じ――


ベッドの上にいた


「死んだああああああああああッ!!!!!!!!!!!」



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