第2話 #視聴者と相談しよう!

「あ!!あっちょっ!待って!いる!いるよね!?」


俺は机の上で膝立ちち、ディスプレイの両端を掴み

目を画面と擦れる程近づけて、ホラーゲームの絶叫ばりの声量でそう叫んでいた。


普段コメントなんかされない身からすれば、この1人という数字は偉大だった。

例えば配信同時接続者数1万人と1人がいたとして皆はどちらを視聴するか。


当然前者だ。というか、前者ばかりだから1人という数字があるわけで。


この動画配信飽和時代、膨大なコンテンツ量でまず見られるのは数字。

その数字で評価されなければ一瞥すらされない。


だからこそこんな無名の配信にいる酔狂な人は貴重なんだ。


コメントをしてくれた者のハンドルネームはミルクブッセと表示されていた。

何かしらの名詞をそのまま名前にする人はよくいるが

それにしてもどこかで見覚えがあるような名前だった。


なんだっけか…。


と俺がふと考え込んだ瞬間にコメントが帰ってくる


『これモ〇ハンじゃないよね?VRChat?』

「いやVRChatじゃない。モ〇ハンしようとしてたんだけど…あっ」


配信は俺が自宅ごと異世界に飛ばされる前の枠を利用している。

だからタイトルが【アプデきた!モ〇ハンやります!】になっている。

カテゴリもタグも概要欄もそのまま。そう、そのままだった。


配信とは映像をリアルタイムに記録、公開して楽しむコンテンツなのだが

シークバーという機能がある。


動画や配信の画面にマウスポインタを合わせると、画面下に

左から右にかけて横棒のゲージみたいなのが現れるよな。それのことだ。


データの再生箇所を視覚的に分かりやすく表示したもので

スライダーを動かすと任意の時間からデータを再生することができる。

そしてこの配信にもその機能はある。


「よく分かんないけど変な場所に転移してケモノの姿になっちまったんだ!

 配信を最初の方から確認してみてほしい!」

『何言ってんの?』

「とりあえず見て!俺もマジで分からんから!!」


その後コメントは返されなかった。

おそらく確認してくれているのだろうと信じたい。

そしてそう言った俺自身も映像を確認することにした。


膝立ちして机の上で興奮していたが、落ち着きを取り戻し

椅子に座って配信のシークバーから、再生時間を調整する。

およそ1時間程前。


部屋の内側から地鳴りと大きな縦揺れが発生している部分も記録されていた。

画面には人間の姿の俺が映っていたが、地鳴りとともに

映像が乱れ、落ち着く頃にはケモノの姿になっていた。


「記録されてるわ!ミルクブッセさん見た?あ今見てるのか」


しばらくして、コメントが返ってくる。


『見てきたけど確かにラビットさんの言う通りだったよ。てかケモナーじゃん!』


そのコメントに胸を撫でおろした。呆れていなくなった訳じゃなかったかと。


「いやケモナーは愛好家だから」

『AIとか使ったドッキリとかじゃないよね?』

「AIじゃないって!」


技術進歩により、誰もがAIで現実と見間違う動画が作れるようになった昨今。

リアルタイムの映像をもってしても疑われてしまうのは当然なのかもしれない。

というかAIじゃなかったとて、異世界に来たという事そのものが

信用できないだろう。いや荒唐無稽すぎて信用しようがない。


『じゃあ外見せてよ』

「分かった。ちょっとカメラ取ってベランダ出るわ」

『カメラ取る?』

「延長ケーブル10m付いてるから」

『長すぎだろwwww』

「こういう時長さに余裕持てっていうでしょ?」


ディスプレイに付けていたカメラを取り、ベランダに出る。

その後カメラを外に向ける。


森、大樹、空…気になりそうな部分を一通り見せ

コメントを見る為に部屋に戻り、カメラを机の上に置き椅子に座る。


『これ本当なら地球じゃなさそうだね』

「俺は異世界だと思ってる」

『あんな大きな樹が本物ならそうかもね』

「で、信じてくれた?」


『いやぁ~…』

「えぇ~」


やっぱり中々難しそうか。

自分がケモノになって、外が異様な景色であっても

それを見せただけで、へー異世界なんだ信じるわ、とはならない。

どうしたって常識と理性がそれを肯定できないだろう。


話が進まなくなってしまったためか、俺はふと先ほど一瞬だけ

考えていた疑問を投げかけてみた。


「そういやミルクブッセさんてチャンネル登録してくれてる人?」

『そうだよ。ROM専だけどね』

「あーなるほど」

『誰もいない上にすごい喋るからラジオ感覚で聴けて丁度良いんだよねーw』

「ちょっとくらいコメントしてくれよぉ!!」


人もいない、コメント返しもなく独り言が多いから聴いてるという

特殊な視聴者だった。


ああまぁ分からなくもないか。俺もイヤホン付けて人の配信を聴く時だけ

の場合とかあるけど、コメントと会話してるとコメントが読めないから

電車で誰かが電話してる時の嫌悪感みたいな…

会話の片方しか聞けない時の違和感みたいなのを感じる人もいるよな。


本当に世の中には色んな視聴の仕方があるなあとしみじみ思う。

少しだけ共感しつつ納得していると、脱線していた話を

相手側から戻してきた。


『やっぱり信じてみてもいいかも』

「え?マジ?」


急な答えの翻りに意表をつかれ、望んだ結果だが疑問を呈してしまった。

この変化はこちらが見せた映像より、相手側の状況の異変にあった。


『いま妹に映像見せたんだけどさ、何も表示されてないよねって言われたんだ』

「何も表示されてない?」

『スマホでラビットさんの配信見てるけど、それを妹に見せても真っ白だって』

「見えていない?」

『どう考えてもおかしい』


確かにおかしい。

配信には追放(BAN)という機能があり、特定のアカウントに

配信の視聴を制限させることができるが…

ただしそれはアカウントという内部データに対してであって

当然、現実の人間に対してなんて適用できるものではない。


同じ端末でミルクブッセさんが見えて、妹さんが見えないというのは

つまりどちらか一方の認識に異常を発生させている事になる。

そんな非現実的な事ができるのは、リスポーンのようなスキルしかない。


「ミルクブッセさん時間ある?このウルトラスーパーな問題の相談なんだけど」

『用事があるから少しだけなら。私も気になってきたし』

「ありがとう!」


俺はことのあらましを伝えた。


実家ごと転移したであろうこと、猪のような化け物に殺されたこと。

リスポーンしたこと、自分の死体を光にしたことレベルのこと…。

自分が身振り手振りで伝えきると、少しした後に会話が始まる。


『何はともあれ情報が少ないね』

「そうなんだよ。で俺はまず自分が持ってる事やできる事を知りたいんだけどさ」

『レベルアップの表示が見えたんだよね?じゃああるでしょ』

「何が?」

『ステータスオープン!』


ハッ!!

おまっなんで忘れていた、異世界あるあるステータスオープンを!!

雷に打たれたような衝撃を受け、気づけば椅子から下りて叫んでいた


「ステータス!オーーーーーーーーープンッ!!!!!!」


カメラの映りを意識しつつ、両手を強く握り上を向き叫ぶ。

喉は今までにないくらい縦に伸び、音が天井に向かい、反響し部屋中に響き渡る。


その遠吠えのような姿勢のまま10秒程経過するも

特に何も起きなかったし、見えなかった。


『うっさ』

「ッッッはあぁぁぁぁ~~~」


大きなため息をつき、両手の親指でこめかみを押し掌で顔を隠す。

恥ずかしさのあまり顔を隠す時にやる仕草だったが

人とケモノの身体では勝手が違かったため、こめかみを2度触ってしまう。


『だっさww』

「うるさいなぁ…ん?」


手を離し顔を上げると、黒い真四角の板と文字と数字が浮かんでいた。

ステータス表示だ。


もう一度先ほどと同様、両手の親指でこめかみを2度押し、掌で顔を隠してみる。

黒い板が消える。


右手のみで右のこめかみを2度軽く叩いてみる。

黒い板が現れる。


左手のみで左のこめかみを2度叩いてみる。

黒い板は現れたまま。


「ああ分かった。右のこめかみ2回連続で軽く叩くと出るんだ」


所謂ダブルタップ操作か。スマートフォン等で画像を拡大する際にある操作。

特定の動きで機能が使用できるとは露にも思わず、目が点になった。


黒い板に記されている文字と数字を読み上げた。


ラビビビ Lv2

STR 2 DEF 3 INT 1 DEX 3 AGI 10 SPD 30


スキル

リスポーン 

ミサイルずつき

衝撃耐性


「見えないと思うから読み上げてみたんだけど、どう?」

『見えてないね。 一応メモした』

「ありがてえ!」


いわゆるこのステータスはゲームによくあるものだ。

STRが力、DEFが防御力、INTが知力(魔力)

DEXが器用さ(命中)、AGIが敏捷性、SPDが速さ。


気になるのは体力を表すHPや、スキルを使用する時に消費したりする

MP的なものがないことか。


VIT(生命力)やLUK(運)っていうステータスも見当たらない。

こういうステータスって、ゲームによってあったり無かったりするけど。


あとはAGIとSPDは内容が似ているが少し違う。

AGI(敏捷性)は反応速度を表している。思考や感覚の速度というべきか。


SPD(速さ)は速度を表している。単位時間あたりの物体の位置の変化…

とかなんとか。要はゲームの場合走る速さとか行動の速さに関係している。


現実的なことをいうと走る速さは筋力も関係してるからSTRも必要なんだけど

もうそういうもんだと認識するしかない。


この数字が表示されている以上、この世界では何かしらの現象に適用されると思う。

その何かしらが今のところ分からないが。


『ステータスやスキルがあるなら、そっちの世界ではそれが基準にされそうだね』

「やっぱそう思う?でもじゃあなんで――」

『猪に追いかけられた時?』

「そう!ステータスを見る限り速度回避型なのに逃げ切れなかった」


俺は猪に殺された時を思い出す。

あの時、猪が立ちあがって前脚が人の上肢になり、それを見て走りながら驚いたのを覚えている。


呆気にとられたこととケモノの姿に慣れていないこともあるが

それにしても遅いなと感じた。


「精神が影響するか、SPD30が低いか、適用外だったか、相手の数値が上だったか…」


しかしこれらは判断できないため、今考えるべきでないと思い言葉を止める。

それを察してか、コメント側もそれ以降言及せずに話題を変えられる。


『とりあえず、まずすべき事を考えた方がいいよ』

「すべき事か」


地球に帰る、ここで生活する。今後どうしていくかを考える。

そしてそれをするために何をすべきか、障害があればどう対処するか。

少しの沈黙の後、俺は口を開く。


「どちらにしろ周囲を探索したい。んであの猪が邪魔」

『なら猪を倒すにせよ避けるにせよ、対処する事を考えるべき』

「確かに!」


色々課題はあるが、あの猪の化け物を対処することを目標に動くべきか。

コメントとの会話で考えはまとまる。


『ごめんそろそろ用事だから抜けるよ』

「ああ!ミルクブッセさん本当にありがとう!まじで助かった!!」


お世辞ではなく心からの感謝をもってそう言った。

ROM専が心配してコメントしてくれて、こんな意味不明な

状況に付き合ってくれる人はなかなかいない。


いや登録者10人同接ほぼ0にそんな人がいること自体酔狂か。

俺だけでも平然とやれていただろうが、ここまで考えの方向性を明瞭にできなかったかもしれない。


しかしそんなミルクブッセさんには申し訳ないが

1つだけお願いがあったため足を引き留めてもらおうと声をかけようとする。


「あ、そうだ」

『あと自宅ごと転移したみたいな話だったけど、事実ならこっちでは

家ごとラビットさんが行方不明になってるかもしれないから』


自分が懸念している事を先回りして話題にしてくれた。

今ミルクブッセさんがいったように、地球では自分と家のことが気になっていた。

運が良い事に両親は数日間の温泉旅行、妹は外出しているが

どの道、家には帰ってくることになる。


親戚や各々友人がいるから最悪住む場所には困らないだろうが

まず間違いなくニュースになるだろう。何故なら人と家が転移したんだから。


「とりあえず埼玉とだけ!」

『会話を飛ばすなw でも分かった。なんかあったらニュースになってると思うし

一応確認してみるね』

「重ね重ねありがとう!」


ミルクブッセさんはコメント欄からいなくなった。

本当に感謝してもし足りない。察しも良いし社会人なら相当優秀なんじゃないか?

それに話も進んでいうことなし。


同接0を除いてはな。


コメントが無さすぎて久しく数字なんて見ないようにしていたが

0の衝撃ってやっぱすごいよな!無名はこの衝撃といつも向き合ってるんだよ。


「じゃあ一旦配信閉じるわ、また次回!」


誰もいないだろうが、配信データは保存され後で誰もが動画として見る事ができる。

よってこういうセリフは人がいようといなかろうと大事なんだ。

という俺のこだわり。


盛り上がりの余韻と静寂が混ざり合う中、漸く俺は立ち尽くすのをやめ

椅子に座り、やる事を考えるために配信を閉じた。


絶対無いが、万が一ここで誰かきて再度説明して考え直したりするのは

時間が勿体ないと思ったのも閉じた理由だ。


「まず猪対処のために自分の力の確認と説明があればラッキーだなーっと」


俺は二度こめかみを人差し指で叩きし、真四角の黒いステータス画面を表示させる。

ふと触れるのではないかと手を伸ばして触ってみる。

が手は黒い板をすり抜けた


「俺にしか見えないんなら物理的なものじゃないか…ん?」


すり抜けた手を右から左に振ったのは偶然だった。

しかし動かした手と同時に、ステータス画面も遷移する。


そこには自分ではなく、レベルアップ表示の時にあったもう1つの名前

家…実家に対してのステータス画面が記されていた。


家のステータス画面は自分のものとは違ってSTRやDEFといった能力数字は存在せず

スキルツリーという文字と、その下に白色と灰色の文字と図形が並んでいた。


生活Lv.1 機能Lv.1 ...スキルポイント1。


今見た項目の文字色は白く、明るく表示されていた。

生活レベルと書かれている部分には電気、水道というような文字があった。

機能レベルには結界と解体という文字がある。


「そうか!じゃあ電気が通ってるのはスキル関係か。でバリアは結界と…」


ざっくりとした事しか書かれていないが、スキルツリーということもあって

項目の下にまだ続いている。


レベル1とは違い、文字色は灰色でレベル2、レベル3という表示だけで内容は見えなかった。


必要スキルポイントはそれぞれ1と書かれている。

おそらくポイントを使用して解放するタイプか。


「稼働してるのは白い文字とみていいか」


縦側がレベル上げによる拡張とすれば、横側は新システムなどがカテゴリ別のように分けられていた。

俺はふと何かに気づき、縦に動かしていた目を白文字まで戻し、横に目を動かす。


生活Lv.1、機能Lv.1、配信Lv.1。


この配信という文字に興味が惹かれ、急に目が動いたのか。

生活レベルが電気水道等、機能レベルが結界や解体だとしたら

配信レベルには何が書いてあるんだろう。


という疑問を持ち、俺は更に文字を読んでいく。

配信ドローンという文字と、モザイク処理という文字。


あーはいはいそうだよね。外で配信するとかでスマートフォン持ちは不便だ。

だから羽音が無い浮遊物で撮影配信みたいなのをよくゲームや漫画で見る。

それにモザイク処理も大方察しがつく。流血NGだろ?BAN対策のリアルタイム処理みたいなやつ。


と、詳細を見てもないのに頭が回る回る。まあ予想が当たってないかもしれないけどね。


えーともう1つあるな…なになに…え?

ドローンはまだ分かった。外配信で人が考えうる便利な想像物として理解できる。

モザイク処理も、必要性から考えれば察しがつく。


しかしなんだこの言葉は…いや分かるが…分かるけどお前…



【視聴者召喚】



俺はその言葉にそら恐ろしさを感じ、ゆっくりとこめかみを2度叩くのであった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る