異世界ラビットちゃんねる~ケモノと化した俺と地球の視聴者で異世界を攻略しよう!~

肉塊丸

第1話 #異世界リスポーン

「ちょッ……ちょっと待てええええええっ!!!!!」


家を出て地球でないどこかの世界に足を踏み入れた。


そこから更に進み、どこか森の中…その木々の1つに手を当ててこれが現実だと

確信したその時、木々の間から大きい猪のような怪物がこちらに向かって突進

してきているのに気づいた。


やばいと思って家に向かって走りだすも、見てしまった。


突如その猪が二足歩行になり。


両前脚が筋骨隆々の人間の上肢になり。


何もない空間から先端が鋭く尖った鋭利な木の棒が現れ、それを持ち。


どう考えても突進の方がいいだろというような状態で襲いかかってきている姿を。


あまりにも不気味な光景と、慣れない体のせいで

思ったよりも走る速度が上がらず、追いつかれ。


鋭い突きで背を刺され、それが心臓に達し。



俺は死んでしまった――



その状況から数分前の地球にいた頃。


「はいどもこんにちはラビットちゃんねるでーす。今日めっちゃ寒いねー」


日曜の昼間、俺は兎のお面を被りながらパソコンの前で喋っていた。


俺の名前は宇佐美 隼人(うさみはやと)。28歳の普通の会社員。

会社も普通。多少残業することはあるが、それ以外は特に問題を感じない

本当に普通の会社。


ちなみに実家暮らしね。当然パートナーもいない。

普通に仕事して普通に家に帰り普通にゲームしたり漫画読んだりするのを

生きがいとしている男なんだが…一応趣味もある。


配信だ。

学生時代、動画配信文化の黎明期だったこともあり配信には興味があった。

しかし機材を揃える為のお金は当時の自分にはなく、いち視聴者にとどまっていた。


それが社会人となり、金銭的余裕ができた為自分も配信をしてみようと

機材を揃えて2年ほど前に配信を始めるという…まあ至って普通の無名配信者だな。


黎明期に何もしてないからファンもいないし

寧ろそこから少し過ぎたこの動画配信飽和状態の現在ではその無数に埋もれる側。

ありふれた一般側の、普通の状況。


それでも続けてるのはやっぱ好きだからだな。ゲームしながら喋るのが。

ということで仕事の休みの日曜昼から部屋で独り喋っているんだけど。


カメラをディスプレイの上に取り付けて顔出しはしているが

会社員として働いているため、顔はお面で隠している。


今どきアバターを用意したVtuberが主流だろうにな。

主流だからこそ逆張りしたいというか。そんな気持ちの結果だ。

だからずっと無名なんだろうな……アハハ!


「んじゃ今日はアプデがあったモ〇ハンをやるとしますか」


といってコントローラのボタンを押してハードを起動させる。

ピッという機械音が耳に入った…その直後。


地鳴りのような轟音が響き、部屋が縦方向に大きく揺れた。

あまりの音と揺れの大きさに家の内側から発生したんじゃないかと間違うほど。

いや内側というか俺の部屋が発生源のような…そんな感じだった。


音が消えるまでの数秒間、椅子の肘掛けに手を置き動きを止めていた。

しかしかなり大きく揺れたと思ったのだが、周囲の物は

転がったり落下したりしておらず

まるで揺れが錯覚だったかのような感覚に陥った。


部屋が落ち着きを取り戻す。

俺は音と揺れが止まったと判断し

再度部屋全体を見渡した後、窓から外を見た。


「なんじゃこれ……」


とんでもなくバカでかい大樹に幾重にも重なって渦を巻く雲。

部屋とベランダを繋ぐ掃き出し窓からその景色を見て言葉を出す。


家ごと異世界にでも来たのか?と突拍子もない考えが浮かんだ。

俺はすぐ外に出ようと考え、部屋の扉の前まで足を進める。


しかしそこで漸く自分の異変に気付く。

自分の目と同じ位置くらいにドアノブがある。

扉の前で足を止め、ふと横にある姿見に顔を向ける。すると…


うおおおおおおおッッ!!!


なんか…ケモノになってるうぅぅぅぅッ!!!!


人ではなくなっていた。


全身が薄い橙色の体毛に覆われており

人より大きめの手には、爪が見え隠れし肉球もあった。

お尻を姿見に見えるように向けると丸く短い尻尾。

目は真っ黒ではなく人間寄りの白目があり

身長は"耳"を除けば人間の頃よりも低く100cmほどだろうか。


そんな感じで自分の体を姿見で確認していたが

やはり目立つのは頭のてっぺん側から生えてる長い耳か。

どの動物にも該当しなさそうだが、この耳なら

俺だったら兎を思い浮かべる。


「ケモノウサギは女性が相場って決まってるのになぁ」


そんな相場はない。俺のイメージの話。


因みに人間のような頭身とシルエットなら獣人。


獣人より動物的要素が強い頭身やシルエットだとケモノ。


動物は獣という使い分けがあると聞いたことがある。

なら今の俺の姿はケモノと呼べるか。


自分を見回して肉球で身体を触りながら俺はため息をつく。

理解しがたいが理解せざるを得ない。

これは自分を無理やり納得させるためのため息だ。


ひとしき自分の姿を確認し終えると、扉を開け慣れない短い脚を使い階段を下りる。


階段を下りるとすぐリビングがある。

俺はその静かな空間を見て少し胸をなでおろす。


両親は温泉旅行中、8つ離れた妹は外出していた。

よって異変が起きた時、家にいたのは俺だけだった。

この訳の分からない状況に、家族が巻き込まれなくて良かったと心底思った。


玄関の扉を開け外に出て周辺を見てみる。

周囲は何もない平地だが、少し先…100m…より少しあるくらい。


そこから先は家を中心とした全方位木々で埋め尽くされているので

おそらく森の中だろうと判断した。

森の中の丁度開けてるとこがあってそこにいるみたいな感じか。


家の周辺をぐるりと歩きながら、家の外観と森側を見たが、特に何もなかった。


「ちょっと行ってみるか」


家に戻るべきかもしれないが、異変の手掛かりを探る事を優先した。

嫌でも目に移る大樹を見て、俺は森側へ足を進めることにした。


巨大な樹。かなり遠くにあるためか青がかっていて薄く見えている。

木の幹の下側に雲がかかっているのをみるに相当の筈…


その雲とは別に遥か上空、本来青空があるところ全体に雲が渦巻いている。

大げさかもしれないが、まるでこの地上全体を覆っているような印象を受けた。


「その割には晴れの昼間みたいに明るいんだよな~」


曇りがかった空の微妙な明るさなどなく、まるで晴天のように明るい。

まあ結構不気味といえば不気味だけど自然があるんなら問題ないんだろう。きっと。

と楽観視しているうちに森の入り口に辿りつく。


とりあえず手で触れてみるが、幻でもなんでもなく本物の木だった。

ああ夢じゃなくて現実なんだなと実感し、森の中を見てふと考えた。


昼間なのに、木々の奥に向かうほど暗くなっていく光景を間近にし

流石に準備も何もなく踏み入るのは危険かもしれないと。


「やっぱり戻ろう」


俺は無策の探索を諦め、家に戻る事にした。


無意識にそう言葉にした後、森に背を向ける。

その瞬間、鋭くなった聴覚が反応し耳が森側を向いた。


ん?


と、動かした事もない耳の筋肉に驚きつつも

音の方向へと顔を向ける。


そこには巨大な牙を持つ猪の怪物がいて。

俺は逃げ出し。


冒頭に戻るのであった。


背中を刺され、ああ死んだと確信した。

そういえば心臓や内臓が傷ついて絶命するとしても

数秒は意識があるなんて言われている。

その数秒は一体どんな気持ちなんだろうと考えたこともあるが。


その期待とは裏腹に、視界が暗闇に覆われ意識は一瞬にして途切れた。



THE END



「おわあああああああああああッッ!!!!!!!」


目を開けると視界が見知りすぎている天井が広がっていた。

俺の部屋の…ベッドの上で上半身を起こした。


あれ?今さっき謎の猪に刺されたよな?棒みたいなやつで!

不思議と刺された記憶は曖昧で、痛みの記憶はなかった。

不気味な猪の印象が強すぎたためだろうか?


いやそれよりこれって…


「死に戻りだ!!!死に戻りスキルだろこれ!!!!」


枕の横に置いてあるデジタル時計に目を向けると13時だった。


「地鳴りの時の時間確認してねえや!!」


戻ってるかどうかも分からない。

とりあえずベッドから飛び降り部屋のドアノブに手をかける。

しかしそこで身体が止まる。


「いや待て、同じ行動したら同じ結果になるよな?あの猪いる訳だし…」


今ここで1階に行っても誰もいないわけだから別の行動をするべきだ。


そう例えば。


ベランダに出て屋上に上って速攻で周囲を見渡すとかな!!

様々な漫画やゲームをしていたせいで

一丁前にありもしないスキル知識を持っていた俺は効率良く行動に移す。


べランダの端からよじ登り、屋上につくと立ち上がって周辺を見渡す。


「なんかいるな」


猪の怪物と何かが遠くにいるのが見えた。

目を凝らすと橙色の耳長の…ケモノだと分かった。


もしかして俺と似た種族か?

でもあんなの死に戻る前にいなかったが。

猪は暴れているように見えるがその場を動こうとしていない。

何もない空間を叩いているようにも見えた。


危険は承知だがよく状況を確認できないため、まずは近づいてみようと考えた。

その向こう見ずな判断が死んだ原因なのだが

不思議と死の恐怖みたいなのは今のところ感じていない。

ハイってやつなのかもな。異世界ハイ。


さっきは足がもつれたけど、最初から逃げる事を視野に入れてるなら

問題ないと思う、多分。


登った位置からベランダに降りようとする。


「うおっ!」


しかし手を滑らせ地面と背中が激突してしまう。


衝撃は身体で感じたが、不思議とそれだけだった。


屋上から地上まで落下したことがないが、人間であれば打ちどころが悪ければ

死んでしまうであろう鈍い音がしたが、それとは裏腹に痛みはなかった。


自分の身体のことも気になるが、まずは猪のほうだ。

すぐに立ち上がり大樹側の森の方へ走る。


ん…大樹側?


確か自分が猪に刺されたのも同じ場所だったような。


目的地の少し手前に辿り着く。

激昂している猪の怪物は空間を鋭利な棒で叩いている。


「なるほど…見えないバリアみたいなのがあるのか?」


様子からしてそう考えるのが一番納得できた。

これといった検証もしていないから断定はできないが

少なくともその猪は、それ以上こちら側に進めないようだった。


警戒しつつも自分と猪の間にいる、倒れているケモノに近づく。

体毛の色は姿見で見た自分と同じ色をしていた。


同種族か?いや…。

うつ伏せになっているそれの肩に手を置き、仰向けにさせる。


そこには自分でない自分の顔があった。


俺だ。

このケモノは俺だ。いやケモノの俺か。

姿見で見たものまんまのものがそこに転がっていた。


「うーわ俺じゃん…死んでるわ」


勿論死体を見たということで血の気は引いていたが、軽い反応が出た。

理由は自覚している。それが俺であるという認識がまだ芽生え切っていないためだ。

ケモノの姿が功を奏したといえる。

怯え、絶叫し、のたうち回るような真似はしなかった。


ふと昔飼っていた野良猫が脳裏をよぎった…が。

今思い出すのはやめておこう。横に騒がしいのがいるし。


ずっと空間を叩き続けている猪を見て、とりあえず離れようと判断し

死体を引きずろうとする。すると、目の前に何かが現れた。


―解体しますか?―


は?何?

なんかゲームの選択画面みたいなのが出てきたんだけど。

あぁいやあれか。異世界によくあるやつ。

ということはこれもスキルか何かなんだろう。


その黒い板に映し出されている "はい""いいえ"の選択肢の対象は

この死体のことか。

解体とはなんだ?具体的に言って欲しいんだが!ヘルプ機能ある!?

と問答をしていたが、死体を持て余してしまっているのは事実なので。


「はい」


そう答えた。

すると死体の全身が輝き、光の粒となって空へと霧散していく。

俺が天に召された。


自分の死体を自分で看取るという歪な状態に気持ちが追い付かなかったが

それでも少しだけ喪失感を感じた。

散っていく光を見上げそれが全て消えた頃、視界にまた何かが現れる。


経験値300


ラビビビ  150 Lv.1→2


家     150 Lv.1→2 スキルツリーポイント獲得


「あーレベルシステムがあったんだ」


これもあるあるだよな。異世界漫画にかなりの頻度であるシステム。

他人事で読んでると、中世を舞台にしつつ機能は近未来みたいな状況を

よく呑み込めるよなと思っていたが、なるほど。

そういうもんがあるんだなと納得するしか前に進めないからなんだろうな。


家にもレベルがあり、そしてその上にある文字はおそらく俺のことか。

そもそも宇佐美からウサギ、ラビットだからな。


ラビビビはラビットからきていると察することができる。

なんでビが3つあるかは分からないけど、名前なんてそんなもんか。


そしていつのまにかビー玉のようなもの2つ手にしていた。

何かは分からないが、家に持ち帰るべきと判断し強く握る。

そして顔を上げて静かになった二足歩行の猪を見る。


やはり俺とそいつの間に何かしらの隔たりがあるんだろう。


「お前の対応は後!」


今の状態では同じ轍を踏むだけだ。

疲労で鳴く事もできなくなったそれを背に俺は家へと戻ることにした。



2階自室に戻り、棚からノートをペンを取り出し椅子に飛び乗る。

持っていたビー玉を机に転がして、思考を整理することにした。

慣れない手でノートを開き、ペンを筒握りして書き込む。


自分がケモノになったこと。自宅ごと異世界のような場所にきたこと。

今まで起きた事をメモしていく。

そして自分が殺されてベッドで飛び起きた旨を書き始めようとした事で思い出す。


「そう!死に戻りじゃなかった」


死に戻り、と俺がしきりにいっていたそれは

絶命すると時間が巻き戻る能力のことだ。


特徴として、自分以外の全ては時間の巻き戻しと共にその経験が無かった事になり

スキル所持者だけが、巻き戻る前の情報や経験を記憶として受け継ぐ事ができる。

利点はやはり、情報の先取りだろう。巻き戻すということは

干渉しなければ同じ事が起こるということだ。

それが死んで戻る、死に戻りスキルの特徴。


しかし俺の場合は猪と殺されたケモノ…自分がそこにいた。

ここから考えられる事は1つ。


「リスポーン」


ゲームでプレイヤーが死んだ後、特定の地点と場所で復活して再開するシステム。

時は戻らず、記憶や経験などの情報は敵味方得られる。

利点は死んだ側はやり直す事ができること。

死に戻りに比べるとチート感はそんなないかもしれない。


「いや。もしこのスキルが俺だけ使えるなら不死身なのか?」


独り言をしながら考察をノートに書きこんでいく。

このスキルがこの世界にいる生物全員共通のものならチートでもなんでもない。


しかしもし自分だけしか持っていない特別なものだとしたら

強力な不死身ともいえるスキルなんじゃないか?


「不死が強いかどうかは議論の余地があるけど」


不死身はその名の通り、死を否定する能力。

致命傷を受けても死ななかったり、死んでも蘇生したりする。


しかしそれ単体に火力はない。

別途突破力を持たないと泥試合になるし

わりと無力化されがちだし封印されがちなイメージがある。


「んでリスポーン持ちがレアかどうかを調べる必要が…ん?」


喋りながら書き込む事によって思考を整理していると、ふと顔を上げた。

違和感を感じなさすぎてずっと気づいていなかったが

ディスプレイの電源が普通に入っていて、配信画面が映っていた。


つまり電気が通っているということだ。

あまりの普段通りの部屋に気づくのが大分遅れてしまっていた。


「電気も通ってて配信もついてる…けど流石に電波は…」


意識を一切していなかった。ネットは当然切れているだろうと。

そして慣れない手でマウスを触り、ディスプレイにあるポインタを

なんとか動かして、そこで追撃を受けるように衝撃を受けた。


通信が切れていない!!


え?まじで?あれこれインターネット繋がってる!?

電波あるの?じゃあここって地球なのか?いやそんなわけないよな!?


カメラにはケモノである俺が映っていた。


うっそだろお前!?

じゃあ何か?これ全部記録されてんのか!?


配信を切っていなかったこと。

インターネットが接続されていること。

配信が継続していること。


立て続けに今まで通りの普通の状態という異常に気付き

流石に驚きの表情のまま顔が固まっていた。


そして次に考えるのが…


コメント欄。

この異常が常に配信され続けているのであれば

もしかしたらコメントが書き込まれているかもしれない。


もちろん無名なので普段人はいない。

できるだけ毎日配信していてもコメントはここ数か月一切無い。

雑談だって常に独り言をいっているようなものだ。


でもそんなもんだろ配信者って。人がいるいないは関係ないはずだ。

…ってそれどころじゃない!


初めて手が震えだし、マウスを動かす腕の筋肉が強張る。

インターネットが繋がった状態で配信されているということは

おそらく地球との唯一の繋がりの可能性がある。

間違えて操作を誤って通信が切れて二度と繋がらなく…なんてことを想像する。


俺はおそるおそるマウスを動かし、配信者用画面のコメント欄を

ブラウザの一番前に表示させた。


もしも何かしらのコメントがあればかなり助かる。

なんなら今の状態も相談できるし何かしらの解決も…そう期待した。


そう思い表示されたコメント欄を見る。




同接1 コメント1



『なんの配信してんのこれ?』



配信歴2年、チャンネル登録者数10人。

数か月ぶりのコメントに俺の心だけが熱狂していた。

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