第3話 元日のこたつ、新年会とお祝い

元日の朝は、思っていたよりも静かだった。


薫が目を覚ますと、家の中に人の気配があった。

台所の方から、かすかな物音が聞こえてくる。


時計を見ると、まだ早い時間だった。


起き上がろうとすると、身体が少し重い。

昨日の疲れが、そのまま残っているようだった。


そのまま布団に戻ろうとしたとき、ドアがそっと開いた。


「お母さん、起きてる?」


恵だった。


「もう少し寝てていいよ。

 朝ごはん、兄ちゃんとやってるから」


「……そう」


薫は小さくうなずいた。

ありがたいと思いながらも、少しだけ落ち着かない。


――本当に、何もないのかしら。


それでも、子どもたちの顔を見てしまえば、

無理をして起きる理由はなかった。



居間には、こたつが出ていた。

正月用のテーブルクロスが掛けられ、

いつもより少しだけ、部屋が明るく見える。


智明は台所と居間を行き来していた。


「雑煮、できた?」


「あと少し」


慣れない手つきで鍋を覗き込みながら、

それでも、手際は悪くなかった。


「味、大丈夫?」


「たぶん」


恵は笑った。


「たぶん、って」


「お母さんの味じゃないけどさ」


その一言に、二人とも黙った。

それ以上、言葉を足さなくても通じている。



薫が居間に出てきたのは、その少しあとだった。


「……あら」


こたつと、湯気の立つ雑煮を見て、

思わず声が漏れる。


「準備、してくれたの?」


「うん」


智明は照れたように答えた。


「昨日言ったでしょ。

今日は、僕たちでやるって」


「そうだったわね」


薫は、ゆっくりとこたつに腰を下ろした。


湯飲みを手に取ると、指先がじんわり温まる。

それだけで、胸の奥まで緩んでいくのが分かった。



三人で雑煮を食べる。


味は、少しだけ薄かった。

でも、それを口に出す人はいない。


「……悪くないわ」


薫がそう言うと、

恵と智明は、ほっとしたように顔を見合わせた。


食後、しばらくこたつで過ごす。


テレビはついているが、誰も真剣には見ていない。


そのとき、智明が言った。


「じゃあさ」


二人の視線が集まる。


「今日は、新年会ってことで」


「新年会?」


薫は首をかしげた。


「うん。家族だけの。それとお祝いしたいことが有るんだ」


それ以上は、何も説明しない。


恵は、こたつの中で膝に手を置き、

少しだけ姿勢を正した。

お母さんにどのように言われるか、ドキドキしていた。


――そろそろ、かな。


薫は二人の様子を見比べて、

ようやく気づいた。


これは、ただの正月ではない。


子供たちが計画しているイベントがあるようね。

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