第2話 年末、それぞれの準備

年末は、いつもより時間の流れが早かった。


薫は例年通り、三十一日までパートに出ていた。

寒さのせいか、身体よりも気持ちのほうが先に疲れている気がした。


帰宅すると、家の中がいつもより静かだった。

恵は自分の部屋、智明はまだ戻っていない。


台所でエプロンを外しながら、ふと考える。


――何か、あるのかしら。


最近の二人は、必要以上に多くを話さなかった。

それは、反抗期というほど尖ってもいないし、

かといって、以前のような無邪気さもない。

それに、恵は部屋に篭って漫画に夢中になっている。

ちゃんと、勉強が出来ているか気にかかっていた。


薫はそれ以上、考えないことにした。

聞けばいいのに、聞かない。

それが、今の自分の選び方だった。



その頃、智明はアルバイト先で年末のシフトを終えていた。

レジ締めを済ませ、ロッカーで上着を羽織る。


財布の中身を確認して、少しだけ迷ったあと、

その中から一部を分けて、封筒に入れた。


大した金額ではない。

けれど、使い道はもう決めていた。


――派手じゃなくていい。


恵の言葉を思い出す。

それでも、「祝う」という形は残したかった。


家に帰る途中、スーパーに立ち寄り、

少しだけ値の張る肉と、母の好きな甘いものを買った。


レジ袋の重みが、妙に心地よかった。



恵は、部屋の机に座って、

月刊誌に載った自分の作品を、改めて読み直していた。

月刊誌の匂いが新鮮で心地良かった


自分の作品のページに栞をさしたとき、

スマホが震える。


「準備、順調?」


ゆかりからのメッセージだった。


「たぶん」


「元日、楽しみだね」


その一言に、恵は小さく笑った。


「うん」


送信してから、少しだけ胸が高鳴る。

でも、それ以上は考えないことにした。



夜。

薫は居間で座り込んでいた。

年末でお客が多く、疲れ切っていた。


智明が帰宅すると、

かろうじて「おかえり」と言葉がでた。


「お母さん疲れてるね。あしたの元日は僕たちで準備するから、

 休んでいていいよ」


「そうかい。うれしいね。

 なにかあったのかい?」


「……まあ、何も」


それ以上、薫は聞かなかった。


智明も、何も言わない。


言わないまま、年末の夜は過ぎていった。

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