第5話魔王からの「低評価(ディス)」

魔王軍の砦をスタジオにリフォームしてから三日。俺、ハルトのチャンネル登録者数はついに五百万人を超え、魔導ネットワークの歴史を塗り替え続けていた。

「ハルト、これを見て。魔導ネットの公式掲示板が大変なことになってるわ」

リリスが青ざめた顔で端末を差し出してきた。

そこには、赤黒いノイズにまみれた「公式声明」が投稿されていた。

投稿者:魔王・ディアボロス

内容:新参の配信者ハルト。および裏切り者のリリス。お前たちのチャンネルを、今夜零時をもって物理的に垢バンする。

「……ついに本人が動いたか」

魔王ディアボロス。この世界の頂点に君臨する、一〇億フォロワーを持つ絶対的なインフルエンサーだ。

彼が「低評価」を下すということは、世界中の魔族と、魔王を恐れる人間たちが一斉にアンチに回ることを意味する。

実際、画面のコメント欄には、魔王様に逆らうな、垢バン確定、裏切り者を許さない、といった誹謗中傷が急増し始めていた。

「これ、まずいわよ……。魔王様の宣戦布告は、魔力的な呪いとして拡散される。今夜零時、この砦ごと消されるわ!」

「いいや、リリス。これはピンチじゃない。絶好のコラボチャンスだ」

俺は端末を掲げ、緊急生放送の予約ボタンを叩いた。

タイトル、魔王ディアボロスと直接対決。垢バンされるか、僕が勝つか。

「ハルト!? 正気なの? 相手は世界最強のインフルエンサーよ!」

「相手がデカければデカいほど、倒した時のインプレッションはデカいんだよ。……それに、俺には隠し球がある」

零時。

砦の空が血のように赤く染まり、巨大な魔王の顔がホログラムのように出現した。

それは魔王の持つ一〇億人の畏怖が具現化した、広域抹殺魔法だ。

「ハルト。その不快な端末を置け。絶望の数こそが、この世界の真理だ」

魔王の言葉と共に、砦全体が黒い霧に包まれ、俺の端末の視聴者数がガクンと落ち始めた。フォロワーたちが、魔王の威圧に負けてログアウトしているのだ。

「……そう来ると思ったよ。でも、絶望に飽きてる奴らも多いんだ」

俺は端末の「サブアカウント」を起動した。

それは、昨日リリスに無理やり撮らせた、魔王の私生活の隠し撮り動画。

「みんな! 魔王の威圧が怖いか? でも、こいつの『寝起きの寝癖姿』を見れば、そんな怖さも吹き飛ぶぜ! さあ、拡散開始!」

俺が動画を投稿した瞬間。

魔王の荘厳な姿の隣に、間抜けな顔で欠伸をする魔王のプライベート映像が特大サイズで投影された。

コメント、……え、魔王様って意外と普通の人。なんか親近感湧くわ。ダサすぎわろた。

「なっ……!? き、貴様ぁぁ! なぜその映像を撮ったぁ!」

「注目こそ力、なんだろ? お前への『恐怖』が『笑い』に変換された。……今、主導権イニシアチブは俺にある!」

視聴者数が再び爆発的に上昇する。

魔王の「威厳」という名のブランドが崩壊し、その魔力がハルトのチャンネルのエネルギーとして吸収されていく。

「これがお前の垢バン(敗北)の味だ、魔王!」

虹色の閃光が夜空を貫き、魔王のホログラムを粉々に砕いた。

その夜、世界で最もバズったのは、魔王の寝顔だった。

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