第4話魔王軍の砦にアポなし突撃してみた

「ちょっと、いつまでこの魔力の鎖で私を繋いでおくつもり!? 私は四天王なのよ、こんなの公開羞恥プレイじゃない!」

リリスが顔を真っ赤にして叫ぶが、俺、ハルトは平然と自撮り棒を構え直した。

「いいから黙って笑え、リリス。今、同接は四百万人だ。お前が怒れば怒るほど、コメント欄は『てぇてぇ』って文字で埋め尽くされてるぞ」

俺たちが向かっているのは、王都から最も近い魔王軍の最前線、鉄血の砦だ。

本来なら軍隊が数ヶ月かけて攻略する難攻不落の要塞だが、俺の手元には視聴者四百万人の熱狂が、物理的な推進力となって渦巻いている。

「さあ、リスナーのみんな! 今からこの『魔王軍の恥晒し』リリスちゃんと一緒に、彼女の古巣にアポなしで突撃していきまーす! 合言葉は、いいねで門をぶち破れ、だ!」

画面上のいいねボタンが、一秒間に数万回のペースで連打される。

そのエネルギーが俺の右足に集束し、黄金の輝きを放った。

「突撃ーーッ!」

俺が砦の巨大な鉄門を蹴り抜くと、爆音と共に門が紙屑のように吹き飛んだ。

視聴者四百万人の「期待」を乗せた一撃の前では、魔法の防壁も意味をなさない。

「な、なんだ!? 敵襲か! ……って、リリス様!? なぜ人間と肩を並べて……」

砦を守る魔族の兵士たちが、武器を構えたまま硬直した。

俺はすかさず端末をリリスに向け、マイクを突き出す。

「ほら、リリス。元部下たちに挨拶しろよ。これからは平和の時代、魔王軍の福利厚生の悪さを暴露するって、さっき裏で言ってたよな?」

「言ってない! 変なデマを流さないで! ……あ、あんたたち、違うのよ! これは、その……番組の企画で……!」

リリスの動揺が、さらなるバズりを生む。

コメント欄には、魔王軍ホワイト化計画、四天王の裏切り、といったハッシュタグが乱舞し、情報の濁流が砦全体の魔力ネットワークをジャックしていく。

「おのれ、リリスをたぶらかした不届き者め! 処刑してくれる!」

砦の司令官である巨漢の魔族が、巨大な斧を振り上げて突進してきた。

だが、俺は動かない。端末の画面を「アンケート機能」に切り替える。

「はい、アンケートです! この司令官、右の拳で殴るか、左の拳で殴るか、どっちが見たいですか?」

一瞬で投票数が数百万に達した。

「僅差で左か。……オッケー、リスナーの意志は受理した!」

俺は端末を構えたまま、左の拳を軽く突き出した。

投げ銭のギフトエフェクトが俺の腕に龍のような形状でまとわりつき、司令官の斧ごと、その巨体を砦の奥まで吹き飛ばした。

「……信じられない。砦の主を一撃で……」

「リリス、これが『みんなの力』だよ。さあ、今日はこの砦を俺たちのスタジオとしてリフォームさせてもらう。……もちろん、全編生中継でな!」

この日、魔王軍最強の砦は、一人の配信者によって「世界一騒がしい撮影スタジオ」へと塗り替えられた。

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