第2話フォロワー一人の価値、国家一千人の価値
死神をワンパンで消し飛ばしてから数時間。俺、ハルトの魔導端末は、壊れたかと思うほどの通知音を鳴らし続けていた。
通知、フォロワー数が一百万人を突破しました。
通知、初配信の切り抜き動画が急上昇ランク一位を獲得しました。
「……まじかよ。バズりすぎだろ」
俺は王都のギルド近くにあるベンチに座り、震える指で画面を操作していた。
さっきまで俺を殺そうとしていた死神の残骸は、今や視聴者たちの熱狂によって、黄金の粒子にリサイクルされている。これがスキルのもう一つの側面、熱狂による事象の上書きだ。
「おい、貴様! そこで何をしている!」
不意に、金属鎧の擦れる音と共に鋭い声が響いた。
振り返ると、そこには王都直属の騎士団が数十人、俺を包囲するように立ち並んでいた。中心にいるのは、金髪をなびかせた高慢そうな男だ。
「私は王都騎士団の副団長、カイルだ。先ほどの死神退治……あれは王国の資産である首狩り公爵の討伐記録だ。勝手に配信などという不敬な真似をした罪、および技術の独占禁止法に基づき、その端末を没収させてもらう」
カイルが剣の柄に手をかける。
彼の背後には、厳しい訓練を積んだ一千人の精鋭騎士たちが控えている。
「没収? これは俺の固有スキルだ。それに、あんたらが全滅しかけてたのを俺が助けたんだろ」
「黙れ! 数十万の野次馬が画面越しに見ていたところで、現場にいた一千人の騎士の証言の方が重いのだ。この国では、王に認められた者の言葉こそが価値。貴様のような身元不明者のフォロワーなど、ゴミ同然よ!」
カイルが冷笑を浮かべる。
なるほど、この世界の支配層は、まだ旧時代の価値観で動いているらしい。
俺は静かに魔導端末を構え、自撮りモードに切り替えた。
「……じゃあ、どっちの価値が重いか、アンケートでも取ってみるか?」
配信開始。
タイトル、王都騎士団に絡まれました。助けてください。
開始からわずか三十秒。同時視聴者数は瞬時に二十万人を突破した。
コメント、またハルトだ。え、騎士団が脅してんの。うわ、助けてもらったくせに恩知らず。
「おい、カイル。今、この瞬間、お前の横暴を二十万人が見てるぞ。お前が振り上げたその剣、振り下ろした瞬間に、お前の騎士団の支持率はマイナス一千万になるけどいいか?」
「な、何だと……!? 貴様、何を見せている!」
カイルが俺の画面を覗き込む。そこには、王都の住民や他国の商使、さらには隣国の王族までもが、騎士団の醜態を罵倒するコメントの嵐が吹き荒れていた。
通知、カイル副団長の評判が急落しています。
パッシブスキル、注目こそ力、発動。
俺の体から、騎士団全員を圧殺するほどの黄金のオーラが噴き出した。
視聴者二十万人の正義感と怒りが、物理的な質量となって騎士たちにのしかかる。
「……ひっ! な、なんだこのプレッシャーは! 一千人の精鋭が、指一本動かせないだと!」
「一千人の騎士? 笑わせんなよ。俺の背後には、今この瞬間も増え続けてる二十万人の証人がいるんだ。数で勝負しようとしたのが、お前の敗因だ」
俺が端末をタップしてシェアを確定させると、騎士たちの鎧が一斉に砕け散り、彼らは全裸で地面に這いつくばった。
「さて、カイル。今のシーン、しっかり録画したからな。明日には世界中の恥晒しだ。チャンネル登録、よろしくな」
俺は腰を抜かしたカイルの顔をアップで映し出し、最高の笑顔で配信を締めくくった。
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