89歳こうもりじいちゃん「コンビニで写真をプリントしたい」の巻

さとちゃんペッ!

八十九歳、データがぱんぱん。 それでも、人生はまだシャッターを切り続けている。


 こうもりじいちゃんは、八十九歳。 昭和十一年生まれの、元・軍国少年だ。


 趣味はカメラだ。 こだわりの一台を三脚に乗せ、シャッターチャンスを待つ姿をたくさん見て来た。 被写体は、虫、花、故郷の自然、家族の笑顔。


 仕事が休みの日は、カメラを持って野山を歩いた。 盆や正月に親戚が集まると、必ず集合写真を撮った。

「さあ、写真撮るよ。早く並んで」

 毎年毎年、実家に集まった親戚の笑顔が残っている。 写真を見れば、その年の家族の出来事が思い出される。


 じいちゃんはよく言う。

「昔はフィルムで撮ったんだ。いい写真のネガフィルムがいっぱいあるぞ。今、使っているのはデジカメだ。こいつでもいい写真をいっぱい撮った」


 この夏、じいちゃんは言った。

「パソコンが開かなくなって写真が見られないんだ。暗証番号を忘れてしまった。

 そして、デジカメの中にある、このナントカっていうカードも写真でいっぱいになっちまった。だから、デジカメももう使えん」

 八十九歳でカメラやパソコンの操作を操作したいという気持ちだけで、十分すごい。


 問題1

 パソコンのパスワードがわからないのでパソコンが開かないこと。

 問題2

 デジカメのSDカードがいっぱいになってこれ以上撮れない状況である。 


 じいちゃんは完全に困り果てていた。

 私は言った。

「わかった。なんとかする。こうもりじいちゃん、ノートパソコン送ってよ」


 遠距離介護の辛いところは、何事にも時間がかかること。やがて、じいちゃんはきれいに梱包して、宅急便で送ってきた。このパソコンは、昔はネットにつないでいたらしいが、10年前に仕事を完全にやめたので契約を切ったらしい。したがって、十年以上このノートパソコンは、更新されないままデータを抱え込んでいた。


「暗証番号がわからん」

 思いつく限りの文字列を、順番に打ち込んだ。

「ん?」

 よく見ると、パソコンの小窓に小さくヒントがあった。

 昔のパソコンには、パスワードのヒント欄というものがあったのだ。

(今もあったらすみません。SONYのバイオという製品だ)

 そのヒントから推測した文字列を打ち込むと、じいちゃんのパソコンは、すっと息を吹き返した。パソコンの中には、じいちゃんが書いた文章やデジカメで撮った写真がきれいに分類して保存されていた。つまり、八十九歳になった最近、いろいろなことが難しくなってきたのだとわかる。 


 パソコンは大量のデータやなんかで最大限の容量を食っていた。データは外付けの装置に移し替え、不要な物を捨てパソコンの中身を空っぽにして、再起動をかけた。デジカメのSDカードに入っている写真も整理した。そして、欲しいという孫たちのために、じいちゃん自慢の写真たちをコピーした。


 美しい花。

 静かな風景。

 家族の集合写真。

 どれも、立派な財産だ。子や孫にコピーした画像の入っているメモリスティックをプレゼントした。当然、みんな喜んだ。


 

 夏の終わり、新幹線に乗ってこうもりじいちゃんの家に行った。じいちゃんにパソコンの使い方をレクチャーした。じいちゃんが長く使っていたパソコンなのに、電源の入れ方やシャットダウンのやり方も忘れている。これには軽くショックを受けた。


 じいちゃんは言った。

「ようわかった、ありがとう。……次は写真を印刷したい。前に言っておったじゃろう。コンビニエンスストアで印刷できるって、……どうすりゃあええのか?」


 目の前には、かねてから使っていた古いプリンターがある。私には手を出しづらいやつだ。動くのか? インクは生きているのか? この機種のインクはまだ売っているのか?

 それより、じいちゃんはでのに興味を持っている。

「まかせて!」


 近所のコンビニに連れて行く。 今ではどこにでもある、写真プリント機だ。

 お金を入れて、SDカードを差し込み、写真を選んで、プリントする。 ゆっくり、何度も、同じことを繰り返して教えた。 

 器械の下の取り出し口に排出された写真。

 じいちゃんは、手に取ると、満足そうにうなずいた。

「これで、いつでもプリントできるな」


 わたしは新幹線に乗って、家に戻った。


 スマホを辞めたじいちゃんは手紙を書いてくれる。そこには原稿用紙にぎっしりとエッセイが書いてある。そのエッセイのテーマとなった写真を子や孫に見せたいらしい。


 電話がかかってきた。

「例のナントカカード(SDカード)を郵便で送るから、写真をプリントしてくれ」」

「まかせて!」


 私は今、郵便が届くのを待っている。送るのを忘れていないか? 

 こうもりじいちゃん。




こうもりじいちゃんのエッセイは、コレクションにまとめてあります。よろしかったらご覧ください。


https://kakuyomu.jp/my/collections/822139842583718062






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